第1話 魔王との戦いpart1
はじめまして、完熟ライムと申します。
先に、あらすじを読むことをオススメいたします。
更新ペースも不定期で、文章力もないですが、面白い小説を書けるように頑張ります。
暗い部屋。
部屋というカテゴリには間違いはないが、部屋というにはいささか広すぎる空間が広がっている。
一定間隔で豪奢な装飾の柱があり、それに備え付けられた蝋燭の灯りと天井のシャンデリアのみが空間を照らしている。
その灯りに対比するように、部屋の各所は漆黒に包まれていた。
その部屋には、4人の男女がいた。
男女は揃って同じ方向を向いていた。
その方向には、人型の、人と呼ぶには巨大な生物が豪華に彩られ、同じく巨大な玉座に腰を据えていた。
その目は威圧に満ちており、見る者を圧倒してくる。
その圧を振り払い、男女の先頭に立っていた男が口を開く。
「……お前が。お前が魔王だな」
男に魔王と入われた者も口を開く。
「いかにも。我が魔王…フォボスなり。よくぞ我が城の最奥に辿り着いたと褒めてやろう」
魔王は賞賛を表すように手を広げて言った。
「我等魔族が誇る数々の精鋭を突破したその力…。ここで殺すには惜しい逸材であろう。…どうだ?その力、我の為に使う気はないか?」
「………ッ!?」
予想外だったのだろう、男女は揃って驚愕したような顔を作る。
だがすぐに表情を引き締めると、
「断る。俺は…俺達は!お前を倒す為にここにきた!俺はランドゥラム王国に召喚された勇者、勇者ハル!お前を殺す者だ!」
魔王は、口を開くと言った。
「…フ。そうか。…ならば私は!」
続けて、魔王は高らかに吠える。
「魔族王家第8代当主、魔王フォボス!……世界を闇に染める者だ。勇者ハル!全力でかかってこい!」
今、世界を掛けた戦いが始まるー。
◇
ーあれからどれくらいの時間が経っただろうか。
既に俺も仲間達も疲弊しきっている。
俺は剣を地面に突き立て、片膝を立てた状態で静止していた。
仲間はかろうじて意識はあるものの、精神も体力も限界が近そうだ。
…魔王との戦闘を開始してから、かなりの攻防を繰り返している。
気を抜けば一撃でやられてしまう、という緊張感の中、一矢乱れぬ連携で魔王の攻撃に対応してきた。
…いや。対応していたように思っていただけであった。
途中から魔王の繰り出す攻撃の威力が増していき、今や防戦一方、攻撃の隙がない。
「クッ、クハハハハハ!笑止!この程度か勇者!!この程度で私を殺すと!そう言ったのか!!!」
魔王が失望したように笑う。
「……くっ…」
俺は、勝てないのか。
ここまで来たのに…。
理由も分からぬままこの世界に召喚され、それでも自分が必要とされている、という嬉しさで魔王を倒す旅に出た。
時に元の世界に帰りたくなったり、自分には勇者としての資格がないと嘆く事もあった。
大切な人を亡くした事もあったし、新しい出会いもあった。信頼できる仲間も出来たし、色々な人を救ったり救ってもらったりもした。
様々な人の好意に触れ、悪意に触れた。
ーこの数年、この世界で得た物の数は計り知れない。
その今まで積み上げた物がガラガラと音を立てて崩れていく感覚。
すっかり心も疲弊しきった俺を見て、魔王は続ける。
「……フム。興醒めだな。…もうよい、ここで死ぬがいい!勇者…ハル!」
その言葉とともに、魔王が右手を振り上げ、高速で呪文を唱え始める。
すると、すぐさま頭上に炎が形成される。
俺の仲間の魔法使いと同等、もしくはそれ以上の魔力から形成されている事が有に見て取れる。
ーそうか、俺は、ここで、死ぬのか…。
ここまで培ってきた物に意味はなく、ここまで感じてきた物も意味はない。
虚無感。
何も感じなくなった心はただ死を待つのみ。
「さらばだ、勇者。人族の身でよく頑張った」
詠唱を終えた魔王が、俺に向けて頭上の炎を放つ前に言った。
もはや、俺の事を敵として見ていない事が容易に受け取れる。
魔王は高く掲げたままだった右腕を振り下ろすと、頭上にあった豪炎は一直線に俺目掛けて降下してくる。
ー世界が、スローになる。
これは、恐怖による物だろうか…?それとも…
『…ハル』
脳内に声が響く。
この感覚を俺は知っている。
この世界で召喚された時からピンチの時や困った時に俺を助けてくれたー俺の契約した…精霊。
魔力の源だ。
「ラミエル…」
『君は何をしているのかな。魔王を倒すってあんなに意気込んでいたのに』
「…ああ。でも…俺には、無理だ。魔王は強すぎる。最初から人間にどうこうできる相手じゃなかったんだよ…」
そう。
自分にどうこうできるという問題ではない。
まず、無理なのだ。
出来もしないものに挑戦しても無謀である。
誰がやろうと同じこと。
仕方がないことだ…。
負のスパイラル。
胸を抉るような感情が渦を巻いて口から飛び出していく。
「そもそもなんなんだ?なんで俺がこんな事をしているんだ?そもそも俺は普通に死んでも良かったんだぜ?あの時の俺の行動に悔いはない。でも俺はずっとあの世界で生きてきたんだ。それが一瞬で終わってしまった事が心に引っ掛かった。それで元の世界に帰るチャンスがあったら誰でもそうすると思うな俺は。そうさ、何もかも全部お前らがー」
『大丈夫。君は魔王に勝てる』
ラミエルの真の通った声が響く。
「……嘘だ。君だって、見ていただろ。魔王の力は強大だ。全力で行ってもかてなかった」
『いや。まだ君は全力を出していない。……いや、正確には、【君達】かな』
ラミエルの声に、顔を上げる。
横を見ると…目を驚愕に見開く仲間達。
しかし、彼らは俺のように全てを諦め、死を受け入れている状態ではない。
あいつらは、まだ諦めて、いない。
「……はっ。ははは…っ!まだ、諦めてないのか…!」
『そうさ。それなのに、パーティの要である君が真っ先に折れてどうする。僕はずっと君達を見てきたんだ。ー君達は、どんな時も諦めはしなかった。どんなに実力差があっても、状況が好ましくなくたって、君達はそれら全てを君達自身の力で乗り越えてきた』
その言葉に、ハッとする。
無理、無謀はどれだけ言われた事か。
その度、俺はそれらの言葉を振り払い、数々の強敵を打破してきたではないか。
最後の最後で大事な事を忘れていた。
ー自分の考えを貫け。全てに不可能はない。あるのは【可能】だけだー!
この世界で教えて貰ったことではない。
その遥か昔。
前の世界ー。
子供の頃からずっと聞かされてきた、今はなき祖父の言葉…。
「そうだ……!!俺はこんな所では止まれない…!元の世界に戻ることが【可能】である以上!俺は帰る…!そう誓ったんだ!」
俺の中を熱い気持ちが駆け巡る。
希望、だ。
またあの日々に帰る。
その気持ちだけで、俺は強くなれた。
『フフッ。それでこそハルだね。その調子だよ。君達ならこの世界を救えるさ。僕は、そう信じてる。僕に出来る事は君に魔力を通す事だけだけど、全力で応援させてもらうよ』
ラミエルの声が遠くなる。
ー頑張れ…ハル…!
「……っ…!」
ゆったりとした時の流れが、正常になる。
すでに俺の命を刈り取らんとする業火は、俺の目前1Mまで迫ってきていた。
すぐさま地面に突き刺さっていた剣を引き抜く。
「…ラミエル!!俺に力をかせええええええええええええええええええええええええええええええ!」
喉がはち切れんばかりの声で叫ぶ。
瞬間。
心臓付近からどく…どく…と、剣を持つ右手に何かが流れる感覚。
魔力だ。
魔力が右手の指先まで到達すると、それに留まらず右手に持っている剣に魔力が流れていく。
剣の感覚が分かる。
まるで体の一部になったかのように、剣にも神経が行き渡る。
ー剣と、一つになった。
そして。
剣を両手で持ち、前に構える。
剣の先端まで魔力が行き渡ったのを感じた。
すると、魔力の循環が開始され、剣が腕ごと電気を帯び始める。
バチッバチッと電撃が弾ける音。
俺がさらに魔力を流すと、電撃が一層強くなる。
バヂバヂバヂバヂバヂバヂバヂッ!
もはや俺以外の人間が触れれば即死に至る、という高圧の電気と化す。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
電気が完成し、間髪いれずに、剣を振り上げ、眼前の大型の炎に縦に斬撃を入れる。
ズバアッ!
電気が炎を覆い尽くし…
炎が拡散した。
「…ほう。まだ我がヘルファイアを破るだけの力が残されていようとはな…!……面白い」
魔王が顎に手を当てて言う。
しかし、そちらには目もくれずに仲間達の方向に体を向け、俺は叫ぶ。
「俺は、諦めない!お前らも!諦めてないよな!」
簡潔に、正直に。
今の俺の気持ちを込めた。
仲間達は立ち上がると、
「当たり前だろ!」
「………当然」
「まだまだこれからね!」
それぞれの言葉が返ってくる。
「………よし、やるぞ!俺達は世界を救ってみせる!」
魔王との戦いは後半戦を迎えた。
ここからは、俺達の反撃だ。
ここまで読んでみて、おや、と思った人。多いと思います。多分僕もそうなります。
勇者のハルくんが地球に帰ってくる所からが本編なのですが……。
どうやら異世界編はまだあと2話ぐらい続きそうです。
次は仲間達も活躍する…筈なので、
次も見たいと思った方は首を長くして待っていただけると幸いです。