聖夜に咲く恋の花。
今年の百合すます短編です。
ほんのり他作品でデートシーンがあるゆうちえをデートさせたかったけどそうすると間に合わなかった。
クリスマスイベントの片づけも終わらせて、慌てて寮に走る。時計を見たら、もう約束の時間を十分も過ぎている。大丈夫かな、すぐ怒る人じゃないのは知ってるし、遅くなるかもとは前もって言ってあるけれど
朝に見繕ってた服に着替えて、待ち合わせの駅までまたダッシュして、……冷えた空気は素肌の部分を容赦なく突き刺してくるけど、そんなんじゃ止まれない。雑踏の中、探してる人はすぐに見つかって、向こうからも気づいたように近づいてくるのが見える。
「お、遅くなりましたっ!」
息も絶え絶えになりながら、頭を下げる。せっかく楽しみにしてくれてたのに、私がその時間を奪ってしまったんだから。
「そんな焦らなくてもよかったのに、……せっかく、めかして来たんだろ?」
そういう邑さんだって、デートした時に買った買ったジャケットを羽織っていて、その下も、私が選んだもの。学校で会ったときはいつもの青いつなぎだったし、わざわざ着替えてきたのが分かる。
「い、いえ、そんなでもないですよ、急いでたし……、邑さんのこと、待たせられないですから」
「別にいい、生徒会の仕事って忙しいもんな」
ぽんぽんって、軽く頭を撫でてくれる。本当に、あったかくて、優しい人だな、邑さんは。言葉にしたら、「そんなことはない」なんて謙遜するんだろうけど。
「でも、外で待たせちゃってたわけだし……、早く行って、暖房効いてるとこ行きませんか?」
「ああ、そうするか」
さりげなく手袋を外して、邑さんの手を繋ぐ。その手は、思わず放してしまいそうなくらい冷たい。もしかして、待ち合わせの時間から、ずっと待ってるんだ。普段、待ち合わせの30分前にはもう来てるから、きっとその時間から。
「もう、邑さんの手冷たいですね……」
「まあな、でもこれくらい」
「もう、大丈夫じゃないですよ……、この手袋、使ってください」
「それじゃあ、智恵が冷えるじゃないか……」
自分が冷えるのは気にしないくせに、私のことは気にかけてくれる。私だって、同じくらい、邑さんのこと心配したいのに。
……そういえば、この前読んだ本で見たことを思い出す。今までだってやってきたのに、なんだか言うのが恥ずかしいな。
「じゃあ、……私が右手の使うんで、邑さんは左手につけてください」
「……それはいいが、空いてる手はどうするんだ?」
「それは……、一緒に繋ぐんですよ」
「なら、そうするか」
そう言うと、あっという間に手袋をつけて、私に手を差し出す。やっぱり、ちょっとしもやけみたいに赤くなっちゃってるな。その手をとると、ひんやりしてるのに、触れた瞬間に体の中が熱くなる。
「ふふ、……智恵の手は、あったかいな」
「それは、……さっきまで走ってたからですよ」
そんなのは嘘だって、とっくにわかってる。本当は、邑さんと手を繋いでるからだってことも。きっと、繋いでる手からも、そんなことは気づかれてるけど。
体も、心も、もうほかほかになっちゃったな。でも、嬉しくないわけないし、もっとあったかくなりたい。恋人同士の日に、こうやって大好きな人と一緒にいられるから。