真の天国とは魔王城のことか
世界を侵略しようとする魔族の帝王、所謂魔王
人々は魔族たちへの恐怖で夜も眠れぬ生活を送っていた
……だが、希望はあった!
魔王を倒す力______勇者の力
手の甲に浮かぶ紋章が証であり、勇者だけが魔王を倒せる……!
そして勇者は現れた
勇者しか抜くことができないとされている勝利の剣を引き抜いた『彼女』
だが魔王達からすれば最も邪魔な存在
しかし勇者を殺してしまえば勇者の力は別の人間へと引き継がれてしまいいたちごっこ
魔王は勇者の力を発現したばかりで力を扱えない彼女を攫い自らの城に軟禁した________
「…………」
「勇者の様子はどうだ?」
「何かおかしな様子はしてないか?」
「何かあれば殺さない程度なら痛めつけてもいいらしい」
牢の外で話をする魔族達を他所に、勇者ことアイリ・フィフニールはベットの上で枕に顔を埋めた
ふるふると震えるアイリの体、勇者でありながらとらわれの身となった彼女はその屈辱や恐怖から体を震わせ______
「真の天国とはここのことか……!!」
ていたのではなく、喜びに打ち震えていた
「いつ寝てもいつ起きても自由見たことのない本読み放題やりたくないこと無理やりやらされない三食ちゃんと食べられる傷だらけにならない丁寧に扱ってくれる……!」
喜びに打ちひしがれる訳を話すには、まずはアイリ・フィフニールについて語らなければならない
前騎士団長の娘として生まれたアイリはそれ故に王族の人間とも知り合いだった
だが幼少期、初めてあった王子はアイリに嫌がらせ三昧、ある日突然王子が丸くなったかと思えば王子の一つ下の妹の姫はアイリに向かってあれしろこれしろと我儘三昧
姫の面倒を押し付けられたばかりかある日突然勇者の力が発現してからは彼女の毎日は更に悪化の一途
元々力が発現する前も父に(頼んでもいないのに)しごかれ毎日傷だらけ、酷い時には野獣魔獣が住む森に放り投げられナイフ一本でサバイバル
勇者の力が発現してからは更に父による訓練(というなの地獄の時間)は増し、姫の我儘も鳴りを潜めない
そろそろ心がぷっつんしかかっていたその時に起こった事件が魔王による勇者連れ去り事件
魔王城に軟禁______といえば聞こえは悪い、寧ろ国にいた時の毎日の方がアイリはつらかった
「真の天国とは魔王城にあった……!!」
「……宰相」
「なんですか魔王様」
「あれは一体」
「牢から脱獄し料理長におかわりを要求する勇者です」
「何故脱獄している!?そして何故おかわりを要求している!?そこは普通逃げ出そうとするところだろう!?エクスカリバーの返還を要求するところだろう!?」
「恐れ多くも魔王様、勇者が脱獄しているのはこれが初めてではありませんしおかわり要求しているのも同様です。そして魔王様と同じ疑問を問いかけた魔族によりますと、あんな光ってゴテゴテして存在うざい剣とかいらない、と言っていたそうです」
「……………何なんだあの勇者は一体……」
自由を謳歌する勇者が魔王城で好き勝手(しかも脱獄する癖に用が済めば牢に戻る)して魔王たちを振り回す光景は何時しか恒例の日常になるのだが、自身の理解の範疇を超えた状況に頭を抱える魔王が知る由もないことだった
「……まさかお前がそこまでしてあの子を助けに行くとは思いもよらんかった」
けたけた笑う騎士の男に、金色の髪の男はぎろりと騎士を睨みつけた
「……うるせぇ。あれは俺のだ、他の野郎なんかにやるか」
「お前ずーっと一途に想い続けてたもんなぁ。一目惚れして素直になれなくて嫌がらせしまくったらマジで嫌われて話しかけることすらできなくなって、だから今度は女装して『姫』になったお前に俺いっつも笑いが堪えきれなかった」
「元々魔王が出たら攫われるのは姫なのが定石だ、俺と妹の立場を交換して誤魔化しておけばもし『姫』が攫われても『俺』なら逃げれる、そういう措置だったんだよ」
「それ利用して『姫様』としてあの子に話しかけたくせに今度は嫌がらせじゃなくて我儘三昧してたくせによく言うぜ、なぁ勇者様?」
「仮、をつけろ。勇者が攫われたなんてこと公にすりゃ民に不安が広がるし、魔王に攫われる勇者なんて悪く言われるに決まってる。だから攫われたあいつは国を守るため勇者の力を俺に一時的に譲渡して力がある振りをして魔王にあえて攫われた、なんて話でっち上げたんだよ」
そうすれば、攫われた彼女は国を守るため魔王に気付かれないうちに自身の勇者の力を『王子』に一時的に譲渡し、無力な町娘に成り下がった状態であえて『勇者の力を持つ勇者』として攫われた_____なんて自己犠牲にあふれた行動だ、まさに勇者の鑑____!
『魔王に攫われた無力な勇者』ではなく『国を守るため力を喪いながら攫われた勇者』として賞賛される
「……あいつは俺のだ、魔王にだってくれてやるか……!」
ぎらりと決意を胸に瞳を光らせた王子は知らない
彼女が魔王城で魔王すら振り回しながら国にいた時よりも自由奔放に幸せに過ごしていることを_____