# 04「侍は鍛練してから騒動を起こす」
遅れてすみません。学校の課題が終わってから文章を作っているのですが、遅れたのは課題が多くて終わんなかったからです。おのれ教師共。
『うん、駄目だな。』
僕は今先輩に、今までやって来た剣術の鍛練を見せている。
あ、ちなみに先輩は、霊体みたいになって僕の身体から出て、僕がミケと呼んでいる野良猫に取り憑いて、僕を見ている。
そんな事出来るんだね。種類は三毛猫。可愛い。それで、僕の鍛練を一通り見た先輩が、その猫のまま僕に掛けた最初の一言がこれだ。いや、なんでよ?
「何が、駄目なんです?」
『ジンが今までやって来た鍛練は、確かに筋力を上げる為だったり、剣に慣れる為にやってるなら、二重丸だ。花丸やってもいいくらいだ。』
「じゃあ?」
『馬鹿かお前?俺が言うことをちゃんと聞いてたのか?いいか、お前さんが今までやって来たのは、素人向けの鍛練だって事だ。お前さんに必要なのは、「侍」向けの鍛練だ。それを俺が今から直々に指導してやるから。分かったか?』
「わ、分かりました。」
まくし立てる先輩に若干押されながら、そう答えた。
『とはいえ、俺がお前さんに教える事は、そう多くは無い。
斬撃は九種類しか無いし、お前さんはその全てのフォームに無駄がない。師が良かったんだな。
……まぁ、強いて言うなら、俺が教えられるのはお前さんが「刀の記憶」を手に入れるまでだってハナシだ。』
「刀の記憶?」
『「刀の記憶」は、刀を使った剣術やテクニックの事だな。職業「侍」は、Lvが上がる毎にいくつもそれを手に入れるんだ。不思議だぞ、今まで知りもしなかった事が、まるで生まれた時から続けて来たみてぇな感覚で出来るんだ。』
「へえー。凄いですね。」
『他人事だな。お前さんの事だぞ?全く。』
先輩は少し首を傾げて笑う。あ、三毛猫ボディだからメチャ可愛い。もうペットにしたいくらい。
『さて、じゃあジン、今のレベルを教えてくれ。』
「レベルですね。えーと、」
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name︰ジン
age︰15
rate︰SS
job︰侍(Lv.1/∞)
skill
・剣術(D)《使用武器が刀の場合に限り、SSS》
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「まだLv.1のままですね。でも、何か力が湧いてくる気が……」
『マジか!凄いな。今までの鍛練だけでそこまで上がったって事だな。凄い事だぞ。』
「じゃあ、さっさと「刀の記憶」とやらをゲットしちゃいましょう。今日はほかにもやる事あるし。」
『分かった。いいか、まずはだな……』
◇
しばらく先輩の言う通り鍛練していると、これまでとは一線を画す程強い力が満ち溢れる様な感覚と、なにかとても大切なことを思い出すかの様な感覚に襲われた。そして、
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name︰ジン
age︰15
rate︰SS
job︰侍(Lv.2/∞)
skill
・剣術(C)《使用武器が刀の場合に限り、SSS》
・鍛治(C)《刀鍛冶の場合に限り、SSS》
・魔法格(A)
・魔力操作(S)
・聖魔法(A)《「斬る」場合に限り、SSS》
・闇魔法(A)《「斬る」場合に限り、SSS》
・熱魔法(A)《「斬る」場合に限り、SSS》
・水魔法(A)《「斬る」場合に限り、SSS》
・雷魔法(A)《「斬る」場合に限り、SSS》
・風魔法(A)《「斬る」場合に限り、SSS》
・土魔法(A)《「斬る」場合に限り、SSS》
・魔術(A)《「斬る」場合に限り、SSS》
・精霊魔法(S)
・多重思考(S)《先任者との対話》
・鑑定(SSS)
memory of sword ︙new!
【居合(抜刀術)】
degree
【侍】【護る者】【斬る者】
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『居合が出た、か…』
「なにか問題でも?」
『居合は剣術とは全くの別の物でな。
剣術が実際の戦闘を想定しているのに対し、居合は主に座した状態から相手に襲われる時の反撃、または襲う事を想定している。つまりは、真正面から正々堂々と戦う時にはあまり用いない術、という訳だな。
まぁ使えない事も無いし便利っちゃあ便利だ。』
先輩はなんか腑に落ちない風に言うが、僕は別に良いのではないかと思う。
居合を覚えた(思い出した?)お陰で、今の自分に足りないものが分かり、するべき鍛練が分かるようになった。上々ではないだろうか。
僕はこの後、昼近くまで先輩と鍛練を続け、先輩の身体が眠ってしまった所で家に戻り、食事を終えてからヒナの元へ向かった。一緒に冒険者登録をするのだ。
◇
「やっほー、ジン!元気?」
「あぁ、元気だよ。」
ヒナは、両親から冒険者に登録する許可を貰ったようだ。しかし、条件付きで。
「ジンと一緒じゃなきゃ依頼受けちゃ駄目だって」
……分かってますよ。ヒナの両親は僕の事を気に入ってくれており、あわよくばヒナとくっつける気なのだ。昔から。
まぁいいんだけど。僕もヒナ好きだし。ただこう強引なのはちょっと……。
「じ、じゃあ行くとしますか。」
「うん!行こう!ねぇねぇジン、冒険者ギルドって、どんな人がいるのかな?」
僕らは二人並んで、冒険者ギルドへ向かった。
……余談だが、先輩は僕の背負うリュックの中でおねむである。
◇
冒険者ギルドは、街のド真ん中にある、三階建ての建物で、いわゆる「なんでも屋」だ。
金さえあれば、ペット探しからドラゴン討伐まで、何でも請け負ってくれる便利屋さん。
しかし欠点が一つ。それは、冒険者の皆さんは気性の荒い者が多い、ということ。
まぁ新人として、せいぜい絡まれないように気を付けよう。と、考えていたらギルドへと着いた。
◇
今が昼時だという事もあり、ギルドの中に併設された酒場が大盛況だった。そして、入って来たのが見知らぬ者だと気付くと、ヒソヒソ話出した。
僕達はそれに構わずカウンターへ向かう。
「冒険者ギルドへようこそ。依頼ですか、それとも登録ですか?」
受付嬢は美人だった。ギルド職員の制服を纏った豊満な胸元には「サリー」と書かれたネームプレートがある。微笑みながら話し掛けてくる。
「ええと、登録で。」
「はい、登録ですね。ではこの書類に必要事項を記入して下さい。……代筆は要りますか?」
「いえ、結構です。」
僕達はカウンターで冒険者登録の書類に記入していく。書くのは、名前、生年月日、そして職業。これは任意となっているが。
-先輩、どうします?
リュックの中で眠っているミケに話し掛ける。
『そうだな、何も記入しないのは少し不自然だから、剣士とでも書いておくか。魔法剣士でもいいんだが、それも結構希少らしいしな。』
僕は職業の欄に「剣士」と記入し、サリーに渡す。その後すぐにヒナが渡す。
「ジンさんに……ヒナさんですね。登録完了です。
こちらが冒険者カードになります。街の関所を無料で通過することが出来ますが、失くしてしまうと金貨一枚の罰金と、それとは別に金貨一枚の再発行料が発生します、お気を付け下さい。
お二人は初めてのギルド登録なので、レートはGからになります。依頼を受ける時は、カウンター横のボードに、毎朝六の刻、昼十二の刻にギルド職員が依頼を貼りますので、依頼が書かれた紙を持ってカウンターで受付して下さい。
上はSSSから下はGまであるレートはその都度上がって行きます。Bレート以上になると、二階の高レートボードに貼られた依頼を受けることになります。依頼を頑張って、レートを上げて下さい!」
「はい。ありがとうございます。」
取り敢えず、今日の所は受けたい依頼もないので、明日六の刻に来てみる事にして、ギルドを出る。さぁ帰ろう、とした所……。
「よう、お嬢ちゃん。新人なんだってな!俺らBレートパーティ「ドラゴンブレス」に入れてやるよ!」
定番って本当にあるんだな。物語の中だけの話じゃあないようだ。
さっき酒場で僕達を見てた中にいた連中だな。
先輩冒険者が新人に絡みたくて仕方ないって噂は本当らしい。
僕はため息を一つ吐いてから、話す。
「すみません。彼女はもう僕とパーティを組んでいるんですよ。他を当たって下さい。」
と、一応丁寧に対応したが、酒も入って調子に乗っている冒険者五人組がそう簡単に引き下がってくれる筈もなく。
「あぁ?なんだテメェは?俺らは今彼女に話し掛けてんだ!テメェみてぇなゴミ野郎はすっこんでやがれ!」
ヒナが怯えている。
そしてミケが起きそうだ。許せん。いたいけな少女を脅し、可愛らしい猫をその安寧の眠りから目覚めさせるなんて。
とはいえ、僕の方から喧嘩に持ち込むのは、後々面倒な事態になりそうだ。
あっちから仕掛けさせるのが吉か。
「誰がゴミ野郎ですって?新人をいびる事しか出来ない落ちぶれ冒険者の皆さん?」
と、この位言っておこう。
僕も「ゴミ野郎」呼ばわりされた訳だし、おあいこだろう。
まぁ相手は顔を真っ赤にしているが。
「小僧……いいだろう。先輩として、後輩に教育してやろう。俺らはBレートなんだからな!俺一人だけでお前を教育してやる」
「望むところです。」
僕と、先輩パーティ「ドラゴンのブレス」のリーダーはこうして、一騎打ちすることになってしまった。まぁ僕の目論み通りだけど。
審判にするギルド職員を相手パーティの一人が連れてきた。サリーだ。彼女は僕とヒナを見ると、顔を真っ青にした。相手のパーティのリーダーとちょうど対照の色だな。
ほどなくして、一騎打ちが始まる。
始まるや否や、相手のパーティから罵声が入る。僕宛だな。
「おいおい、そんな鞘まで曲がった剣で戦えるのかよ!」
あ、ちなみにその「曲がった剣」の製作者である先輩はヒナに任せてあります。
そのセリフを聞いた直後、ヒナの持ったリュックの口が開き、ミケの頭だけ見える。かわいい。その頭は相手のパーティーリーダーと僕を交互に見て最後に僕を見て、ミャオ、と鳴いてから念話でこう言った。
『殺っちまえ』
物騒な。いや、殺しはしませんよ。
相手が話し掛けてきた。
奴はもう剣を抜いている。そうか、刀を抜かない相手に攻撃するのは卑怯だと考えて、一応他人の目があるから、僕が刀を抜くまで待ってるんだな。
「おい、小僧、早く抜け。その瞬間に斬り伏せてやる。」
「そうですか。じゃあ、抜きますんで、よーーくご覧になって下さいね。決して見逃したりなさらぬよう。」
まぁ無理だけど。
僕は「刀の記憶」の《居合》を放つ。
刀を鞘で走らせる鞘走り、
それで限界まで加速された刀を一閃する。
そして、納刀。
そこまで0.3秒もかかっていない。
まさに、刹那の一閃だ。
「小僧、今何か……」
したか?とまで言えなかった。なぜなら、自慢の愛剣が、自分の持っている柄の先で絶たれているのに気付いたからだ。
「てっ、テメェッ!」
役に立たなくなった柄を投げ捨てて、殴り掛かってきた。
酷い奴だ。このまま肩から先を斬り飛ばすのなら楽でいいが、その後が面倒だな。
迫り来るパンチを避け、納刀したまま、叩く。
鳩尾を突き、右パンチの方向を刀の腹を使って逸らす。
顔面に肘を入れ、たたらを踏んだ所でこめかみを刀の柄の尻で叩き、今頃来た左パンチを避け額を膝で蹴り上げ後退させる。
顎に鞘で連撃を入れ、腿を蹴り、倒れた所で脛を叩き折る。
これで、暫く冒険者として依頼を受けることは出来ないだろう。せいせいした。……
……あれ?やり過ぎた?
周りを見渡すと、「ドラゴンブレス」のメンバーも、審判をしてくれたサリーも、周りで見ていた連中も、ヒナもシーンとしている。
『良くやったぞ、ジン。俺謹製の刀を貶した相手に、まぁ少しやり過ぎたとは、思わないでも無いが……。』
先輩が慰めてくれる。そっか……先輩目線でもやり過ぎか……ちょっと懲らしめるだけのつもりだったんだが……
っと思っていたら、サリーがぽつりと呟いた。
「…………凄い。」
他の冒険者達も続く。
「スゲェなおい!」「本当に新人なの?」「ありゃあまるで王様の近衛兵の動きだぜ?」「あの新人狩りで有名なドルーを倒しちまった!」「ルーキーだ!」
どうやら、やり過ぎって訳でもないっぽい……?
ヒナも言う。
「すっっっごいよジン!あの嫌な先輩を倒しちゃうなんて!ありがとう!私を助けてくれて!」
感謝された。どうやら、今みたいな手合いには、これくらいやって然るべきのようだ。ふぅ、良かった。
後に、ジンには「オーバーキルのジン」という二つ名が付くのだが、彼はまだ、それを知らない。
レベルアップしたジンが既に経験値3も溜まっていたのは、「刀の記憶」を手に入れて溜まった分です。