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侍戦記  作者: 五十猫
第1章︰職業は……「SAMURAI」?
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# 03「先輩は鍛刀する」

ーーーーーーーー「先輩」視点ーーーーーーーーー


「後輩」君から、身体の主導権を受け取る。

魂の残滓である俺にとって、手足を動かす感覚は実に久しぶりだ。

動かしている身体は自分のものではないという今の状態は、なかなかに不気味というか、不自然というか。


さて、やる事は二つ。

・スキル「多重思考」のオンオフを切り替えられる魔導具を作る

・「鍛刀」する(「刀」を打つ)


だな。取り敢えず、簡単な方を先にするとしよう。

久々に、「鍛刀」しますか……。



-おい、後輩君!近くに「鍛冶屋」はあるか?


『「鍛冶屋」ですか。確か、街の外れの方にありますよ』


-そうか。なあ、お前さんの記憶を探ると場所も一発で分かるんだが、それには許可が無いと出来ないんだ。許可してくれるか?


『駄目ですよ!それこそ僕のプライバシーの侵害だ!訴えますよ?!』


-駄目か?この街の地図だけなら?


『それなら構いませんが。』


こうして俺らは町外れにある鍛冶屋へと向かった。


「たのもー!」


大声で言いながら古びた戸を開ける。

中は暗い。応接間みたいな部屋だな。

誰もいなさそうだ。

構わず次の戸を開けようとすると、その戸が勝手に開いた。


「誰じゃ、こんな街外れで寂れたクソみてぇな店に用があんのは」


出て来たのは、ドワーフと思しき男性だ。

身長は160くらいで、筋肉隆々。白くなった髭を長く伸ばし、口には火のついた葉巻を咥えている。頭には、鍛冶で使うのであろうゴーグルをしており、まぁまとめると「ちょっと大きめのドワーフ」だな。

てかこの爺、自分の店をクソみてぇなって形容したけど、大丈夫か?


「街に住んでいる、ジンという者だ。神様から貰った職業のスキルの中に、鍛冶があったので、場所を借りたくてここを訪ねた。」


「ほう、職業スキルの鍛冶か。レートはいくつじゃ?」


「Dレートだな。」


「なんと。貰った職業は鍛冶職人なのか?そんなに初期値が高いのは初めて見るが。」


「いいや違う。普通に戦闘職さ。それにだ。条件付きだ。」


「なるほど、特定の武器を作る場合に限り、Dレートというわけじゃな。ならば、戦闘職でも有り得るじゃろ。

……うむ、工房の使用を許可しよう。但し、作業と出来た武具を儂に見せることが条件じゃ。技術は遠慮なく盗ませて貰う。それでもいいなら付いて来い。案内する。」


「構わんよ。有難い。」


ドワーフの後を付いていく。後ろからこっそりと「鑑定」を使ってみた。


--------------------------------------------------------------------

name︰フルム

age︰615

rate︰S

race︰エルダードワーフ

job︰鍛治師Lv.300/300

skill

・剣術(D)

・鍛治(SSS)

・魔法格(SSS)

・魔力操作(A)

・炎魔法(SSS)

・水魔法(A)

・雷魔法(A)

・土魔法(SSS)

・魔術(S)

・精霊魔法(S)

・鑑定(S)

degree

【鍛治師】【ドワーフの中のドワーフ】

【種族を導く者】【ドワーフの王】

【至高の鍛治師】【神器を創りし者】

【裏切られし者】【夢を捨てた男】【同族殺し】

【種族を超えし者】【エルダードワーフ】

--------------------------------------------------------------------


「これ、他人のステータスを勝手に覗くでない。

相手が相手なら殺されても文句は言えんぞ。」


「あなたも、同じ事が言えるのでは?」


「……む?気付いておったか。わははは!これは失礼。新しい力に溺れる小童かと思ったが。どうやら違うようじゃな。」


このドワーフ、いや、エルダードワーフのフルムははじめ、戸を開ける時に俺の顔を見て驚いた様な表情をしていた。

ほぼ100%「鑑定」したと思ったが、どうやら合っていたようだ。てか、「称号」欄が壮絶だな。

この爺、余程濃い人生を歩んで来たのだろう。


「しかしお主、何者じゃ?そんな化物みてぇな初期値、初めて見る。」


「ただの侍だよ。成り立てのな。」


「言うてくれる。見た事も聞いたことも無い職業じゃ。強過ぎる。一体この国に、何が起こると言うんじゃ……」


「なぁ爺さん、確かに、後から鑑定する様な真似して、悪かったと思う。でも俺は早く武器を創りたいんだ。さっさと案内してくれや。」


「小僧……」


鍛治場はかなり広い部屋だった。色々な工具が並び、一番奥には金床と火を入れる炉がある。が、今は火が付いていない。


「じゃあ、ちっと借りるぞ、爺さん。」


「あぁ、好きにせい。まぁ、鍛冶仕事は見せて貰うがの。」


「それくらいなら構わん」


まずは、火を入れますか。今から行うのは「刀鍛冶」だから、レートは一気に上がってSSSだ。恐らくだが、刀は三時間もあれば極上の物が仕上がるだろう。

-よく見て置くんだぞ、後輩君。


『了解です。「刀」がどんな物かは分かりませんが、恐らく僕の主武器となるものなんでしょう。SSSですし。』


-まぁ、合ってるな。じゃあ、いくぞ。

「昔」やってたように、右手に魔力を込めて、炉の方へ向け、その魔力に「式句」を与える。


「其は炎 我が前に現れ 天まで焦が……」


「だぁぁぁぁぁぁ!!待て!多い!魔力が多いから!止めるんじゃ!お主の魔力操作(S)は飾りか!」


む?少し多すぎたか。


「いや、失敬失敬。勘が狂っててな、まだ戻っておらなんだ」


「そんな状態で魔法など使うでない!しかも式句じゃと?こんな極普通の炉にはマクロで充分じゃ!」


「あー、分かったよ。……多分な。大丈夫だとは思うが、一応ヤバかったら注意してくれ。頼むぞ。ファイア!」


ごぉう!という結構豪快な音と共に、炎が手から飛び出る。

炉に充分熱を持たせる為に、ちょいちょい風魔法で酸素を送る。それをしながら、鍛刀に適した鉱物を土魔法で創り出す。

本来は全部砂鉄にして、それをたたら吹きとよばれる技術で玉鋼にし、それを叩いて刀にしていくのだが、この方が手っ取り早い。自分の魔力から創り出した物だから、使う時の相性もいい筈だ。

出来上がった鉱物を少しチェックした後、炉にブチ込む。


それが真っ赤になったら、金床まで持ってきて、叩く。

鉱物の塊を鍛造し、刀の形にする。

刀の切れ味を決定する、焼き入れ(熱した刀を水に入れる)も行う。


俺がいた世界では、この後刀に「梵字」とよばれる文字や装飾図を彫るのだが、最初の一振りだし、何より俺が梵字も装飾図も嫌いだから、それはやらない。

あんなのは、刀の耐久力を下げるだけだ。

やるとしたら、刀には魔語を彫って妖刀にする。


次は……鞘か。刀の鞘を作る。

刀身のサイズと、反りを型紙に取り、それに合わせて鞘と柄と鍔を作る。

これも、魔法が使えれば秒で終わる。


最後に、出来上がった刀を研ぐ。

コレばっかりは、魔法は使わず、砥石を使って自分の手で行う。心を込めて。俺は、この最初の「研ぎ」は、刀に自己紹介する様なものだと思っている。「これからよろしく」ってな。


「見事なものよのう。」


おっと、フルムの存在を忘れて、本気で刀を打っていた。

彼は俺の少し後ろから、しかし邪魔にはならないという作業を見るには最適の位置にいた。


「儂は今まで、そんな技術は見た事が無い。

なるほど素晴らしい……しかし、その剣、反りがあって片刃。

きちんと使用できるのか?いや、出来るんだろうな。

でなければあんなに丁寧かつ迅速に研ぐ事が出来るまで研ぐ筈がない。

それに合った使い方がある筈じゃ。

途中まで欠陥品かと思っていたが、むしろ、その形は剣の完成形なのでは……?」


どうやら、今まで何度も何度も自分で鍛刀して来た俺の技術に感激しているようだな、彼は。


『それが、刀ですか。』


後輩君が話し掛けてきた。


-そうだ。これが、お前さんが今後使っていく、人類史上最高の近接武器、「刀」だ。銘は……そうだな、変に凝ると今後めんどくせぇから、一と書いて「はじめ」にしよう。俺が今後打つ刀はそうやって、番号を名前にするとしよう。


『そうですか。よろしく、一。』


次に鍛刀するのはお前さんだからな、ジン。あと……!


『?……どうしました?』


か……活動限界だ!憑依が解ける!


『憑依?てか、やばいんですか?』


俺がお前さんから主導権を借りて出てこられるのは六時間までだ。どうやら、刀を作るのに思った以上に時間を喰ったらしい。

昔はこんなにかからなかったんだが……


『僕の身体を借りるのが、「憑依」ってわけですね。』


まぁ、そうだな。じゃあ、戻るぞ……!


身体の主導権がジンに戻って行く。感覚が消える。直後、凄まじい眠気に襲われる。意識が白く塗り潰されて行くのを感じながら、「先輩」は思った。











楽しかったなぁ。











久々に「身体」を動かして。











初対面の、しかも強そうな奴と仲良くなって。















あの頃と同じ様に、魔法を使って刀を打って。






















ああ、いいな、いきてるって。


























俺は…………もう……。























俺はもう、戻れない。






























「先輩」は、再び眠りに落ちた。

今回先輩が使おうとした「式句」は、ざっくり言うと「マクロ」の上位互換です。

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