第九話「新しい武器」
「ふぅ、こんなところにあったのか」
屋上グラウンドでソウジを見送った後、俺は再び倉庫に行き、例の武器を手にしていた。
まさか元の場所に戻してるとは思わないだろうと考え、ここに戻したと踏んでいたが、狙い通りだった。
しかし、その後、武器を持って倉庫を出ようとしていると、警報装置が作動して社員たちがかけつけ、そのまま社長室送りとなった。
どうやら、ソウジの方が一枚上手だったようだ。
「ちくしょう、うまくいったとおもったのに」
機嫌を悪くしていると、ポスとソウジが到着し、うっとおしい説教がはじまると思われた。
しかし、険しい顔をしているのはソウジだけで、ボスの方はなぜか笑みを浮かべていた。
「フフ、この武器を使おうなんてバカ野郎がまだいるとはな」
「ボス、笑いごとじゃありませんよ。すぐに取り上げるべきです」
「待てよ、ソウジ。まずはこいつの言い分を聞こうじゃねぇか」
「この武器は危険かもしれないが、使いこなせりゃ、必ず強力な戦力になる。だったら、使ってみる価値はあるだろう」
「でもさ、危険すぎるよ」
「危険だから使用しないなんてのは、死にたくないから戦いたくないってのと同じじゃねぇか。そんな憶病な気持ちでワルデット共に勝てるのか?」
「う、それは......」
ソウジは押し黙り、急に静かになった。
俺はそのスキにボスへと詰め寄った。
「この支社じゃ、強さこそ絶対なんだろ? だったら、強くなろうとしているのを邪魔できないよな?」
「なるほど、いいとこをついてくるじゃねぇか。ま、いいだろう、その武器はお前に預けようじゃねぇか」
「フフ、あんたなら、そう言ってくれると思ったよ」
「うう、ボクは認めないから!」
ソウジは例の武器を手に取ると、社長室を出ていった。
俺はすぐに後を追うも、素早さではソウジには敵わない。
それでも見失わないように追い続け、会社の入り口前で何とか呼び止めた。
「はぁ、はぁ、それをどうする気だよ?」
「おもりをつけて、近くの海に沈めに行く。こんなものがいつまでもあるからいけないんだ」
ソウジは涙目になりながら、俺の肩をつかんできた。
そして、もしもの事があったらどうするんだ、と必死に訴えてきた。
おそらく、ソウジはエイキュウカンパニーの人間としてではなく、一人の友人としての気持ちを言っているのだろう。
その気持ちは分かるが、俺にも覚悟がある。
何しろ、俺たちがこれから戦っていくであろう上級ワルデットたちは、ただ強いだけではない。
不死身や火を吐くなんて力に加え、ドーピングなんてイカレ技まで持ってる。
だから、正直言ってこちらも強くなる方法があるなら、片っ端から使っていくくらいでないと勝てやしない。
やり方を選んでいる余裕などないのだ。
「ソウジ、お前だって、望まない形だったとはいえ、危険な改造手術を乗り越えて、ワルデットの力を手に入れた。だから、強くなるためには危険も必要だって分かるだろ?」
「分かっているよ。でも、でも......」
お互いに一歩も譲らず、平行線のまま、言い合いが続いた。
そして、その状態が一時間近く続いた末、ついには殴り合いにでもなるのかと思ったところで、ソウジの方が折れてくれた。
「ごめん、ボクが間違ってたよ。頭では分かっていたんだ。ボクはこの支社のリーダーで、本当は何を置いても、戦力強化を優先しなくちゃいけない事くらい......」
しかし、言葉とは裏腹にソウジの顔にはまだ不安が残っているようだ。
これは、一刻も早くこの武器を使いこなし、安心させた方がよさそうだ。
「はぁ、はぁ。想像以上のきつさだ」
例の武器を託された日の夜、俺は屋上グラウンドで自主練をしていた。
必ず使いこなすと意気込んだまではよかったが、どの武器のマスターも一筋縄にはいきそうもなかった。
一つ目の短剣ムーブはソウジの持つ超高速移動能力をコピーしたもの。
身につけて移動すると、超スピードで動く事が可能となる。
二つ目の鉄球デストンはボスの持つ電撃放出能力をコピーしたもの。
かなり腕力のある者でないと扱えないほど重いが、破壊力は凄まじく、力を込めて打ち込む事で電撃を発生させる事ができる。
三つ目の拳銃フローズは現在、第六支社にいるもう一人の改造ワルデットの持つ冷気を発生させる能力をコピーしたもの。
集中して力を込める事で、冷気を帯びた弾を発射し、敵を氷結させる遠距離タイプの武器だ。
この中で、まず俺が使用したのは短剣ムーブだったが、ほんの二分くらい高速移動を続けただけでバテてしまった。
続いて使用した鉄球デストンにしても、前回と同じで重さに耐えきれず、体がふらついてしまう。
しかし、破壊力は落としただけでグラウンドを深く陥没させるほど強力で、しかも雷のおまけつき。
これを使いこなせるようになれば、かなりの戦力になる事は間違いなかった。
俺は鉄球デストンの棒部分をにぎり、高く持ち上げると、上下にふり始めた。
「ま、マジでお、重い。つーか、苦しい」
少しでも気を抜けば、この前のように落としてしまう。
しかし、ボスのパワーを再現するためには、これくらいの重さが必要だという事なのだ。
短剣ムーブを使いこなすのに必要なのは並外れた体力、鉄球デストンを使いこなすのに必要なのは並外れた腕力。
まだまだ俺には、強くなるための課題が残されているのだった。
「うー、ひー。と、とりあえずは休憩だ。あー、目が回る」
倒れこむと、ソウジがやってきて、俺の頭に水をかけてくれた。
それにしても、あいかわらず不安そうな表情だ。
「さすがに疲れたんじゃないの? 今日はもう休もうよ」
「そういうわけにもいかねぇだろ。ところで、例の物は持ってきたか?」
「あ、うん」
俺がソウジに持ってきてもらったのは、ノートパソコンとDVDBOX。
ちなみにDVDには、この支社の社員たちとワルデットの戦いの記録が入っている。
敵や味方の能力や戦い方を分析して実戦で役立てるためには、うってつけのものだと言える。
「これからは、休憩時間もこのように有効利用していかねぇとな」
「すごくグロイ映像も入っているから、注意して見てね」
「そんなもんにびびってちゃ、ここの社員としてやっていけんだろう。さてと」
まずは、ボスがこの支社に来たての頃、上級ワルデットと戦った時の映像を見てみることにした。
すでに鉄球デストンの能力を知った時点でネタバレしていたが、ボスは電撃を全身から放出する災害級の力を持っている。
それがどんなものか、かなり楽しみなところだ。
「さてと、ここをクリックして、再生と」
冒頭では、ボスが社員たちを引き連れて街中を行進する映像が流れたが、この頃からすでに威圧感あり過ぎだ。
この行進が一分ほど続いた後、暴れていたワルデット達と出会い、激しい戦闘シーンに突入した。
その後ろでは、白い塊のようなものが積まれてあり、かすかに動いているようにも見える。
社員の一人がそれに近づこうとすると、アフロ頭の細身のワルデットが現れ、手から糸を放出して攻撃してきた。
銀色のリングも装着しているし、こいつが今回の敵の親玉である上級ワルデットのようだ。
その後、奴に攻撃された社員は糸でぐるぐる巻きにされてしまった。
この事から考えると、さっきの白い塊の中身は、アジトに連れていくために捕まえた人たちが入っていると思われる。
しかし、助けるどころか、他の社員たちも糸まみれにされていき、糸を回避したボスだけがアフロワルデットに向かっていった。
乱入するのは無謀と感じたのか、他のワルデットたちは傍観状態に入ってしまった。
何しろ、上級ワルデットと改造ワルデットとの戦いだ。
下手に加勢したりすれば、巻き添えで死ぬのが確実なのは、もう序盤の戦いを見ていても分かる。
アフロワルデットは全身から糸を無数に放出し、ボスは電撃を帯びたパンチのラッシュでガードしていく。
しばらくはそんな互角の戦いが続いたが、アフロワルデットの方は細身でスタミナがないせいか、だんだんと動きが鈍くなっているようだ。
ボスはそのスキをつくように素早く前進し、さらに大きな電撃を拳にまとい、連続パンチを繰り出した。
アフロワルデットは、なすすべなくボコボコにされ、その後は防戦一方となった。
しかし、ボスが完全な無双状態になったわけではない。
アフロワルデットは、糸をクッションのように手に巻いてボスの電撃パンチをガードし、焼き切れたら、また糸を巻きなおしてガードし続け、しぶとく食らいついていた。
ボスを攻撃する余裕はないようだが、あれだけの電撃パンチを見事に防ぎ続けているのだから、さすがと言える。
その後、十分ほど攻防戦が続いた後、アフロワルデットは一気に後退し、ドーピングした後、全力で逃走した。
「逃げんのかよ!」
期待はずれな終わり方に激高した俺は、ついブチ切れてしまった。
取り残された他のワルデット達がその後どうなったかは言うまでもなく、本当に最低の野郎だ。
とはいえ、ボスを相手に生き残って逃走しただけでも、そうとうな実力者なのはたしかだ。
仮に俺がこのアフロワルデットと戦っていたら、簡単に糸まみれにされ、倒されていただろう。
「はぁ、二人に比べて、俺はまだまだだな。なぁ、今のボスはこのときよりずっと強くなってんだろうな」
「そうだね。今のボスは電撃をかなり遠くまで飛ばしたり、雷のように上空から落としたりだ。この頃とは比べものにならないだろうね」
「そうか。でも、俺もこいつを使いこなせれば」
俺は鉄球デストンを眺めながら考えてみた。
これはボスの能力をコピーした武器なので、単純に言えば、ボスの腕をそのまま武器化したものだともいえる。
さっきの戦いで、俺があのアフロワルデットと素手で戦っていたなら、糸で拳を団子みたいに固められてどうにもできなかったと思うが、鉄球デストンの電撃で糸を焼き切りながら戦う事は可能だったはずだ。
というか、鉄球デストンの頑丈さなら、大抵の攻撃はガードできてしまう気もする。
深く考えるよりは、実際にやってみた方が早いだろう。
俺はソウジに投球マシーンを持ってきてもらい、飛んでくるボールを鉄球デストンで撃ち落とす挑戦をしてみることにした。
「ショウちゃん、まだこんなのは早いと思うんだけど。はぁ、嫌な予感しかしない」
「すごいものを見た後、自分にもできる環境があったら、やってみたくなるもんだろ。さぁ、はじめてくれ」
「......うん」
ソウジはマシーンのスイッチを入れ、球を連続で飛ばした。
それに対し、俺は力を込め、鉄球デストンを大きく振って迎え撃った。
しかし、おもいっきり空振りした上、球の直撃を次々と受け、転倒。
さらには、鉄球デストンを腹に落してしまい、悶絶した。
何やってんだ、俺。