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第八話「さらなる強さを求めて」

「はぁ、はぁ、は、は」


 第四支社に来て、三週間目の朝の事。


 屋上グラウンドで射撃の訓練をしていた俺は、ようやく、弾を的の真ん中に当てていた。


 思えば、はじめて銃を手にした日から今日までの間、朝と昼は他の社員たちと一般訓練、夜はソウジと自主練の繰り返し。


 だから、当たり前と言えばそれまでだが、やはり結果が出ればうれしいもの。


 つい子供のように飛び跳ねながらはしゃぎ、いきおいでズッコケてしまった。


「てて、くぅ、何やってんだ。まだ、覚えなきゃなんねぇ事は山ほどあるのに」


 バカをやっている間に、一般訓練がはじまる時間がせまっていた。


 俺は急いで階段を降り、訓練場へと向かった。


「ったく。開始早々、教官に蹴り入れられちまうぜ。ん?」


 先を急いでいると、会議室の前でソウジが社員たちに遭遇した。


 何気ない雑談でもしていると思って話しかけたが、全員が深刻な顔をしており、何か様子がおかしい。


「まさか、こんな事になるなんて」


「ソウジ、どうした?」


「ショウちゃん。あのね、今日の訓練は中止だ。教官が......亡くなられた」


「あ? な、何言ってんだ」


 何が起きたのかさっぱり分からなかったが、その直後、担架に乗せられて運ばれる男を見て、状況を理解した。


「今のって、教官......だよな。血だらけだったけど」


「う、うわぁぁん」


「一体何があったんだよ」


 聞いた話によると、教官は夜に町へ巡回に出た後に行方が分からなくなり、社員たちによる捜索が行われていたのだという。


 そして、ほんの一時間前、町のはずれにある空地で血まみれの状態で発見されたそうだ。


 周囲には戦闘したと思われる形跡があったため、おそらくはワルデットにやられたものと思われる。


 ワルデットとの戦闘が日常である以上、こんな事は決して珍しくない。


 一人の犠牲者も出さずに勝利だけを重ねていくなんて、まず無理だ。


 だが、身近な人間の死を簡単に受け入れられるほど人間は単純な生き物ではない。


 しばらくは、社員たちもこの事を引きずるだろう。


「ショウちゃん、ボクは葬儀の支度とかあるから、これで」


「ああ」


 俺はソウジを見送ると、屋上グラウンドへと戻った。


 しかし、自主練をする気にはなれず、ぼーっと空を見上げ始めた。


「つい数時間前まであんなに怒鳴り散らしてたのに。でも、こんな事は誰にでも起こり得るんだよな。自分自身にしろ、他の社員たちにしろ......ソウジにしろ」


 気がつくと、俺は不吉な事を考えていた。


 その後は、それを忘れるためにがむしゃらに体を動かすも、忘れる事はできなかった。





「そろそろだな」


 教官の死の翌日、俺は彼の葬儀へと向かっていた。


 斎場は訓練場で、社員たちだけでなく、一般市民の参列も多くみられた。


 まだ葬儀が始まる前だというのに、大声で号泣する者や棺にすがって泣く者もおり、教官がどれだけ慕われていたかがわかった。


「何だかな。怒鳴られてばかりだったこの訓練場で教官を見送る事になるとはな......お!」


 追い討ちをかけるかのように、ワルデット出現の連絡が斎場へ入ってきた。


 ソウジはそれを聞くと、ボスの命令も待たずに斎場を飛び出し、俺と社員たちも後に続いた。


「おい、ソウジ。お前」


「一人でも多くのワルデットを倒すことが教官への手向けになる。戦い続けるしかないんだ」


「......ああ、そうだな」


 俺たちは現場に着くと、教官の死に報いるかのように奮戦し、ワルデットたちをせん滅した。


 しかし、戦いの途中、社員の一人が流れ弾に当たって殉職。


 酷なようだが、これが戦いの世界というものだった。





「さて、剣術はここまで。次は射撃だな」


 教官の葬儀から今日で一カ月。


 俺は以前と変わらない訓練尽くしの毎日を送っていた。


 他の支社からきた新しい教官は前教官以上の大ベテランで、訓練の質が落ちるという事もなく、一安心していた。


 もちろん、あの事件の事をひきずっていないわけではない。


 仲間の存在は、自分を強くする。


 しかし、いつまでも強さにたどり着けなければ、仲間を失う事になってしまう。


「あんな雑魚ワルデットとの戦いで仲間を失っているようじゃだめだ。もっと、強くならねぇと」


 俺はこの日の一般訓練を終えると、ボスに許可をもらい、地下の倉庫へと向かった。


 そこには、普段使われていない道具がいくつも保管されていると聞く。


 訓練で武器の使い方はかなり上達したし、そろそろ実戦で使う事も視野に入れようというわけだ。


 しかし、いざ倉庫に着いてみると、ホコリと蜘蛛の巣だらけで、小虫もかなり飛んでる。


 肝心の武器にしても、数は多いが、錆びていたり、カビがはえていたりとガラクタばかり。


 いかにここが普段使われていないかが分かった。


「......ここ、倉庫じゃなくて、ゴミ置き場じゃねぇよな」


 こんな質の悪い武器を使うくらいなら、素手で戦う方がずっといいだろう。


 それでも、この数なら一つくらい使えるものがあってもいいはず。


 とりあえずは、ダメもとで探してみることにした。


「こんな事するくらいなら、自主練に時間使った方がいい気もするが......はぁ」


 愚痴りながらも、武器の山をあさり続けていると、ジャラジャラした何かに手が当たった。


 それをつかみ、引っ張ってみると、鎖でぐるぐる巻きにされた大きなアタッシュケースであることが分かった。


 けっこうな重さだったが、何とか引き上げて鎖を解いて中を見てみると、今度は別のアタッシュケースが入っていた。


 そして、それを開けると、また別のアタッシュケースが入っており、開けていくごとに入っているアタッシュケースが小さいものになっているようだ。


 その後は、その流れが七回続いた後、注意書きが書かれた黒いアタッシュケースが出てきた。


「アケルナ、キケンか。この流れからすると、はったりでもないよな。うー」


 少し躊躇はしたが、やはり気になって仕方ない。


 結局は誘惑に負け、中身を見てしまった。


「何が出るんだ......お、これは」


 アタッシュケースの中に入っていたのは、やや短めの刀、拳銃、棒付き鉄球の三つ。

挿絵(By みてみん)

 どれもカビどころか、汚れもほとんどなく、見ようによっては新品のようにも見える。


 おそらくは、何かの手違いでこの倉庫に入っていたのだろうが、見つけた以上は俺のもの。


 さっそく、屋上グラウンドに行き、使ってみることにした。


 最初に手に取ったとは、いかにも破壊力がありそうな棒付き鉄球。


 重そうだというのは覚悟のうえで持ち上げてみたが、これがまた半端ない。


 片手どころか、両手でしっかり持っても体がふらつき、腕が地面に吸い寄せられるかのような重さだった。


「俺もまだまだだな。しかし、これは使いこなせりゃ、でかいぞ」


「あー!」


「うお、あ!」


 大声に驚き、振り向くと、ソウジが立っていた。


 なぜか、絶叫顔をしており、その視線はあきらかに棒付き鉄球へと向けられていた。


「ショウちゃん、それ、どこにあったの?」


「地下の倉庫だが」


「そう......あ、ユーフォーだ」


「何! どこだ......騙されるか!」


「う」


 案の定、ソウジは棒付き鉄球を奪おうとしていた。


 しかし、俺も渡すつもりなどない。


 その後は、一歩も引かない奪い合いの末、激しいもみ合いに発展してしまった。

 

「は、放してよ」


「なんでだよ、これは、俺が見つけたんだ。いくら、ダチでも渡すわけにはいかねぇよ」


「渡すとか、そういうんじゃないんだ。うう」


 このままではラチがあかないので、俺はひとまず棒付き鉄球から手を放した。


 すると、ソウジもようやく引っ張るのをやめ、落ち着きを取り戻した。


「ショウちゃん、聞いた事あるでしょ? ここの科学者たちが作った武器の話」


「ああ、あれだろ。呪われた武器とかいうやつ」


 ちょうどこの第四支社に来た翌日、俺は社員たちからその話を聞いていた。


 それによると、この支社には少し前まで優秀な科学者たちがいて、研究していたワルデットの強大な力を自分たちの戦力として利用できないかと考えていたそうだ。


 そのときに注目されたのが、ソウジたち改造ワルデット三人の力。


 科学者たちは、検診の時に採取していたソウジたちのデータを元に研究を重ねた後、ワルデットの力を持つ三つの武器を作り出した。


 そして、それは科学者たちが選んだ三人の社員に託され、活躍が大いに期待されたそうだ。


 しかし、その二か月後に起きたワルデットとの戦闘中、使用者のうちの一人が狂ったように暴れ出し、仲間や一般市民を傷つけたために射殺される事件が発生。


 その原因が分からないうちに、今度は残りの二人が訓練中に暴れ出し、教官に襲いかかったため、取り押さえられる事件まで起こってしまったという。


 三人の共通点は、暴れていた時に例の武器を手に持っていたという事。


 そのため、例の武器に何らかの危険な力が秘められていると判断されてしまい、科学者たちは責任をとらされる形で退職。


 例の武器も処分されることが決まったそうだ。


「そうか。じゃあ、その例の武器がこれだっていうのか」


「おそらくね。頑丈すぎて処分しきれなかったとは聞いていたけど、まだ社内に残っていたなんて」


 ソウジはそう言うと、棒付き鉄球をアタッシュケースに入れ、屋上グラウンドを後にした。


 しかし、これで諦める俺ではなかった。

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