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第六話「異世界で再会」

「よし、持っていくものはこんなもんか」


 ハッカーとの戦いから一週間後、俺は荷造りをしていた。


 実は先日、エイキュウカンパニー第四支社へ来ないかという話を受けていたのだ。


 社長によると、その支社でリーダーを務める芦川(あしかわ)ソウジという男が、俺に会いたがっているらしい。


 俺はその男の名前に心当たりがあったが、会ってみなければ確かめようがないため、行ってみることにしたのだった。


「さてと、本当にあいつなのかどうか。お、そうだ。最後にあいさつでもしてくるかな」


 俺は会議室の前で社長に会い、今までの礼を言った。


 彼女はそれに対して笑顔で答えた後、例の不意打ちを繰り出すが、これも計算の内。


 けっこうギリギリではあったが、両腕でガードし、耐え抜く事が出来た。


「はぁ、はぁ。あいかわらず、重くて速い一撃だな」


「やるじゃないの」


「どんなときでも、油断大敵なんだろ?」


「わかってきたじゃない。そのとおりよ」


「そういえば、一つ聞いておきたいことがあった。ハッカーと戦いに行く前、俺に何か言いかけたよな? あれ、何だったんだ?」


「ああ、あれね。愛する者と仲間がいれば、人は強くなれる。ここの前社長が言ってた事なんだけど、意味分かる?」


「仲間か。たしかに一人じゃここまで強くなれなかっただろうし、分かる気はするな。でも、愛する者っていうのは......仲間とは、また違うものなのか?」


「前社長いわく、似ているようで違うらしいわ。ま、明確な答えは教えてもらえなかったし、正直なところ、私もまだ理解できていないのよね」


 社長はそう言うと、俺の肩をポンと叩き、会議室に入っていった。


 答えは自分で見つけるしかないという意味なのだろう。





「愛する者......か」


 第四支社へ向かう車の中で、俺は社長に言われた言葉の意味を考えていた。


 愛する者とは何なのか?


 なぜ、それが強さへとつながるのか?


 普通に考えれば、愛する者というのは、親、兄弟の事を指すのだろう。


 しかし、今の俺には親、兄弟どころか血のつながった親族すらいない。


 という事は、永久にあの言葉の意味が分からないかもしれない。


「ま、この状況じゃ、いたとしても、会いに行けないしな。同じことだろう」


 ちょっと悔しそうにひがんでいると、いきなり後方から悲鳴が聞こえた。


 見ると、ワルデットがよだれをたらしながら、六十くらいのばあさんを追いかけまわしていた。


「待て、触らせろよ」


「......何の目的かは知らねぇが、とりあえず、止めた方がよさそうだな」


 すぐに車を降りた俺は、ワルデットに向かっていくが、それと同時に何かがこちらへ近づいているのが分かった。


 そして、それが横切ったかと思った直後、目の前にいたワルデットは倒れ、鉄くずと土の塊と化した。


「何? 一体何が」


「ひさしぶり、ショウちゃん」


「え? ショウちゃんって」


 振り向くと、サングラスをかけた若い男が立っていた。


 少し雰囲気が変わっているが、間違いない。


 四年前に行方をくらませた親友の芦川ソウジだった。


「元気だった?」


「ソウジ、俺を呼び出したのは、やはりお前だったのか」


「うん、ショウちゃんが第九支社にいるって聞いて、いてもたってもいられなくなってさ。また会えるなんて思ってなかったから」


「そうか」


 聞きたい事や言いたい事は山ほどあったが、話は会社の方に着いてからという事になった。


 これから行く第四支社は、エイキュウカンパニーのなかでも特に社員の素行が悪いと評判らしい。


 実際に着いてみると、廊下でタバコをくわえながら歩いてる社員や受付前のロビーで堂々と麻雀している社員をはやくも見つけてしまう。


 はっきり言って、表にエイキュウカンパニーの看板がなければ、不良たちのたまり場と勘違いしてしまうレベルだ。


「壁も床もひどい汚れだ。同じエイキュウカンパニーでも、支社によってこんなに違うんだな」


「はは、そんなに悪い人たちじゃないんだよ。あ、ボスは会議中だから、先に会社の中を案内するね」


 ソウジは、最初の方は普通に案内していたものの、周りに誰もいなくなると、急に進むのをやめ、俺に抱き付いてきた。


「ソウジ、いきなり何すんだ。男同士だぞ」


「ごめん。でも、また会えたのがあんまりうれしくて。うう」


「だからって、泣かなくてもいいだろ。ホラ、しゃきっとしろ」


 偶然だが、こんなやり取りをしていると、あの日の事を思い出す。


 今から五年前、日本で放浪生活を送っていた俺が、ストリートシンガーとして旅をしていたソウジとはじめてあった日の事だ。


 そのときのソウジは、自分の作った曲を酔っ払いにひどく罵倒され、この世の終わりかでもくるのかというくらい号泣しており、見るに見かねた俺が叱咤して立ち直らせたのがすべてのはじまりだった。


 その後は、同い年で旅を続ける者同士という事で意気投合し、しばらく二人で旅を続けたのだが、別れは何の前触れもなくやってきた。


 四年前の秋、たった二時間だけ別行動をとった後、ソウジは待ち合わせ場所に現れず、そのまま行方知れずとなったのだ。


 それが、こんな形で再会するとは思いもしなかったが、正直、俺としてもうれしい気持ちは同じだった。


 何しろ、ケンカばかりしていた俺にはじめてできた友達が、ソウジだったのだから。


「ったく、しんみりさせやがって。ホラ、いつまでもメソメソしてねぇで話せよ。あの後、お前に何があったんだ?」


「うん。ショウちゃんとの待ち合わせ場所に向かう途中で買ったたい焼きを野良猫にとられてさ、取り返そうと追いかけて、近くの森に入ったんだ。そしたら、変な黒い渦に吸い込まれて、気づいたら、この世界に来てたんだ」


「そうか、やはり、お前も」


「でもね、それは単なる幕開けに過ぎなかったんだ」


 ソウジはさらに表情を険しくして、続けた。


 現状、この世界から出る方法は存在しない。


 だが、それを知っても、ソウジは絶望したりはせず、ここでストリートシンガーとしての活動を続けることにしたそうだ。


 場所がどこだろうと歌を聞いてくる人が一人でもいるなら活動する意味はあると、それはもう前向きに頑張ったというが、現実は本当に残酷だった。


 第九支社にいたときにも少し聞いたのだが、この世界には人間を拉致してワルデットに改造する非道な科学者たちがいて、一時期、世間を騒がせていたらしい。


 奴らの犯行動機は、改造した人間たちをワルデット側に売りつければ、いい金もうけになるからという身勝手そのもの。


 改造する方法も、ワルデットの細胞を人間に無理やり移植するという毒を飲ませるにも等しい行為で、拉致されたたくさんの人間が拒絶反応を起こし、命を落としていったという。


 ソウジもそんな被害者のうちの一人であり、一時は絶命寸前まで衰弱したそうだが、本当にギリギリのところで耐え抜き、生き延びたそうだ。


 そして、力づくで拘束具を引きちぎり脱出するも、すでに肉体は完全にワルデット化しており、手遅れの状態。


 その後に捕まった科学者たちの話によると、全身が灰にでもならない限り、移植されたワルデットの細胞をすべて消し去ることは不可能らしい。


 それが本当だとしたら、ソウジが生きた人間に戻ることは、もう不可能と言う事になる。


「......ソウジ、本当に苦労したんだな」


「まあね。でも、生き残れただけ、よかったと思ってるよ」


「その改造で生き残ったのって、お前だけなのか?」


「いや、ボクとここのボスを含めて三人。あの後、エイキュウカンパニーに保護してもらって、今に至ってるってわけ」


「保護......か」


 正確には、保護というより監視と利用に近いかもしれない。


 ワルデットの力を持った人間を一般社会に置いてはいけないだろうし、強力な戦力にもなるだろうから。


 まあ、妥当な判断ともとれるが、争い事が嫌いなソウジにとってはそうとう厳しいもののはずだ。


「何て言ったらいいのか。ん? そういえば、お前、もう音楽はやらないのか?」


「野外活動は、週に一回、社員二名同伴の上で一時間だけ許されてる。限られた時間だけど、楽しくやってるよ」


「そうか、それならいいんだが」


 しんみりしていると、ワルデット出現の連絡が入ってきた。


 それによると、奴らは工業地帯がある方へ向かっており、狙いは大量の鉄くずだと思われる。


「鉄くずはワルデット製造に欠かせないもの。何としても、阻止しないとね」


「よし。そんじゃひと暴れしてやるか。急ぐぞ」


 目的地である工業地帯は、ここから近い地点にあったので、幸いにも奴らよりも先に着く事が出来た。


 しかし、奴らはここへ向かう途中、通勤中だった工員たちを三人捕まえており、ややマイナスな出だしとなりそうだ。


「人質にでもされたら、厄介だな。何か手はあるか?」


「そうだね......おっと、話してる時間はないみたいだ」


 ワルデットたちは武器を装備し、はやくも攻撃してきた。


 その中にはドーピングしている者もおり、こちらの戦力をある程度は把握しているようだ。

挿絵(By みてみん)

「どうする?」


「よし、ボクが先に突っ込む」


「改造ワルデットの芦川ソウジだな? フフ、貴様を倒せば、いい手柄になりそうだ」


「そう簡単にはやれないよ。人間でなくなる事と引き換えに手に入れた力なんだから」


「何を、う!」


 驚くことに、ソウジは一瞬でワルデットたちの後ろをとっていた。


 そして、とんでもない速さで連続パンチを繰り出し、周囲のワルデットたちを倒していった。


 残ったワルデットたちは銃をかまえ、ソウジに向けて一斉に発砲するも、軽くかわされてしまう。


 そして、銃声が止むのと同時にワルデットたちはバタバタと倒れていった。


「ぐ、あ」


「二十秒か。けっこう、かかっちゃったな」


「あれが、ソウジが手に入れたワルデットの力か。常人ではついていけないほどのスピードで敵を圧倒する」


 さすがにこんなものを見せられては、俺もじっとしてはいられない。


 すぐに後方にいたワルデットたちに狙いを定め、次々と蹴散らしていった。


「へへ。負けねぇぜ、ソウジ」


「そこまでだ!」


「ん?」


 見ると、一番奥にいたワルデットが捕まえた工員たちに銃を向けていた。


 まあ、こうなる事は予想できていたので、あわてる必要はないのだが。


「はぁ、はいはい。じっとしてりゃいいのか? それとも、身代金でも出しゃいいのか?」


「だ、黙れ、いいか、あー!」


 すでに、ワルデットの背後にはソウジがいて、工員たちも助け出されてた。


 俺は、何もやみくもに突っ込んでいったわけじゃない。


 工員たちに一番近い位置にいるこのワルデットを、ソウジと二人ではさみこめるように敵を倒していったのだ。


「どちらか一方にしか、注意を向けなかったことが仇になったな。さぁ、観念しろよ」


「ぐ、うう」


 この後、逃げようとしたワルデットは俺に倒され、今回の任務は無事に終わった。


 しかし、ソウジの表情がなぜか暗い。


「ショウちゃん、さっき見てもらったと思うけど、ボクはもう普通の人間じゃない。でも、これからもボクと、その......友達で......」


「はぁ、何を言い出すかと思えば。俺はそんな卑小な人間じゃねぇよ。さ、帰るぞ」


 どうやら、ソウジは友人を失ってしまうかもしれないという覚悟で、今回の俺との再会を決めたようだが、取り越し苦労もいいところだ。


 こんな得体のしれない異世界で、これからは友と背中合わせで戦える。

 

 そんな喜びの感情しか今の俺にはないのだから。

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