最終話「いつか、未来で必ず」
「はぁ、月日が流れるのって本当にあっという間だな」
ボルガンとの戦いから早いもので、もう一年。
俺は第六支社で、戦いとは無縁の平和な毎日を送っていた。
これまでの間に俺の周りはすっかり変わった。
ソウジは第四支社に戻り、ヒメと八木は第九支社からの派遣要請により離れていった。
ワルデットによる被害はもう二カ月近く出ておらず、たまに残党らしき連中を見かけたという情報が寄せられるのみ。
何だか、カロシュをみんなで旅していた頃がはるか昔のように思えてきた。
「みんなでまた集まれる日は来るだろうか。おっと、時間だ」
俺はカホが眠っている部屋に向かった。
一日に起こった事をそばに寄り添って言い聞かせる。
それが今、俺がカホにしてやれるただ一つの事だ。
だが、この日は少し疲れていたためか、話し始めて五分ほどでうとうとし始めてしまった。
そして、ハッとなったとき、俺は知らない場所に立っていた。
その後はただあてもなく歩き続け、行き着いた海岸で座り込んでいる少女を見つけた。
長い髪にカチューシャ、後ろ姿から見て、間違いない。
紛れもないカホ本人だった。
俺はガクガク震える手を押さえながら、声を絞り出した。
「カ......ホ?」
「ショウスケさん、来てくれたんですね。会いたかったです」
カホは俺に力いっぱい抱きつき、涙ながらに喜びの言葉を口にした。
そして、一時的ながらもザンパに加担してしまった事を深く謝罪した。
もちろん、カホはただ騙されていただけなので、俺は気になどしていない。
あまり自分を責めないようにと、言い聞かせた。
「さぁ、暗い話はもう終わりだ。そうだ、ソウジやヒメにも教えてやんねぇとな」
「ショウスケさん、残念ながらこれは夢なんです。だから、ほっぺたはつねらないでくださいね。現実世界の私はまだ眠ったままですから」
「夢......か。そうだよな、世の中そんなにうまくいくはずもないもんな」
「いつまでこうしていられるか分からないので、思い切って言います。ショウスケさん、私はあなたを心から愛しています」
「ああ、知っている。ヒメから教えてもらったからな。ま、正直、俺の方も満更じゃねぇよ」
「え? あ、あの、そ、それは、あの、私をお嫁さんにしてもいいという事ですか? あ、あの、き、き、キスしてもいいって事ですか?」
「人前じゃダメだぞ。お前は他の男も見惚れるようなべっぴんだからよ。俺が嫉妬されたら困るだろ」
「な、何て勿体ない。うう、でも、少し悔しいです。こうなる前に話しておきたかったです」
カホはスカートをギュッと握りしめ、下をうつ向いた。
これが現実なら抱きしめてやりたいところだが、時間は止まってはくれない。
俺は気持ちを必死に抑え、質問することにした。
「なぁ、カホ。お前、いつになったら、目を覚ますんだ?」
「正直、それは私にもわかりません。明日かもしれないですし、一生このままだかもしれません」
「そ......うか」
「もし、もう目覚める見込みがないと判断したら、そのときは新しい愛を見つけてください。あなたが私に縛られて、幸せを捨てる事だけは耐えられないんです」
「ふざけんな、俺はそんな軽い男じゃない。目覚めるまで何年だって待つつもりだ」
「ショウスケさん」
「現実で再会できたら、俺のいた世界へ行って二人きりの時間を過ごそう。いいな、約束だぞ」
「はい。いつか、未来で必ず!」
指切りをした直後に俺の目は覚めた。
名残惜しい気持ちでいっぱいだったが、再会できる日は必ず来るはずだ。
それは十年先、二十年先かもしれない。
しかし、希望は絶対に捨てない。
そして、何があっても、カホを幸せにしてみせる。
俺は横たわるカホの手をしっかりと握り、強い決意を固めるのだった。




