第四十五話「最終決戦へのカウントダウン」
「じゃ、カホをたのんだぞ」
「うん。まかせといて」
「ショウスケくんたちもどうかお気をつけて」
ザンパとの戦いから五日後、俺とソウジは洋館の前でヒメ、八木、カホを見送っていた。
戦いがますます激化すると思われるこの街に意識のないカホをいつまでも置いておくわけにはいかず、先に第六支社に帰すことにしたのだ。
本心を言えば俺が護衛につきたいところだが、ナカガワをそのままにしてこの街を去るわけにはいかない。
何とか自分を押さえながら、三人と別れた。
「とうとう俺ら二人だけになっちまったな」
「うん。日本を旅していた頃を思い出すね」
「ああ。まぁ、今回は楽しいのんびり旅とはいかないだろうがな」
「少しの間だけだよ。この任務は既に終盤まできてるんだから」
「まぁ、それはそうだが」
「向うは大丈夫かなぁ。無事に街を出れてるといいけど」
「一番強いヒメがいるんだから、心配はいらねぇさ。さぁ、俺たちものろのろやってらんねぇぞ」
俺たちは荷物をまとめて洋館を後にした。
新しい隠れ家は見つからずじまいだったが、敵側に知られてしまった場所にこれ以上い続けるわけにはいかないのだ。
「しばらくは野宿になるだろうね」
「ああ。それより、他の隊の状況はどうなってる?」
「そうだね。また隊が崩壊したって話は聞かないし、変わらずってとこかな」
「そうか。じゃあ、俺らの方がほんの少し優勢とも見れるかもな」
このとき、ワルデット達の残りアジトはもう数えるくらいだと考えられる。
前のように一日にいくつも見つかる事がなくなった上、外をうろついているワルデットの数が増えてきたからだ。
だが、決して気を緩めてはいけない。
もし、カホが完成させた新エルアブソープの存在がナカガワに知られてしまったら、また新しい対策を立てられてしまうかもしれない。
そんなにすぐとはいかないだろうが、この街の外にアジトを作り、そこへ逃げ込むことだって考えられるのだ。
「そうはさせないさ。俺はナカガワを捕えるためならいくらでも体を酷使する。躊躇してたら、何も守れねぇんだ」
「うん。ボクもそのつもりだよ」
「じゃあ、まずは、はう! ああああ!」
またドーピングの反動が俺に襲い掛かった。
ザンパ戦で無理をした代償は想像以上だったのだ。
しかし、こんなものに負けるつもりなんて断じてない。
服の袖を歯で噛みしめながらうずくまり、何とか耐えようとした。
「な、んて情けねぇ体だよ。丈夫な、だけが取り柄だってのに、うぐ!」
「ショウちゃん、無理しすぎだよ。ああ、血が出てる!」
「だ、いじょうぶだ。ぶほ、ぐふ!」
俺は大量に鼻血を出し、頭から地面に倒れこんだ。
そして、額を負傷した上にいつまでも出血が止まらずに苦しんだ。
しかたなく拳銃フローズで傷口を凍らせて止血すると、今度は後頭部から血が噴き出し、とうとう目の前がグニャグニャになりはじめた。
「ソウジ、あれ? お前、そんなに太ってたっけ?」
「ああ、これはもう重症みたいだ。はやく何とかしないと!」
「いや、待て。俺にかまってるヒマはないみたいだぞ」
このとき、俺たちの四方はすでにワルデット達に囲まれていた。
このままの状況で戦闘が始まれば、どちらが先に狙われるかは考えるまでもない。
俺は腕に力を込めて立ち上がり、短剣ムーブをかまえた。
「さぁ、相手をし......てやるよ」
「ショウちゃん、無茶だ。ここは逃げるしかないよ」
「隠れ家もないってのに、どこに逃げるってんだ。はぁ、はぁ」
「フン。洋館がもぬけのからだったと探してみれば、案の定だ。しつこく食らいついてみるもんだな」
ワルデット達は一斉に俺とソウジに襲い掛かってきた。
俺は高速移動からの攻撃をしかけようとするも、ドーピングの反動のせいで思うように走れず、足が常にぐらついた。
結局は一分ほど走っただけで限界を迎え、短剣ムーブをはたき落とされてしまった。
「ムーブ、う、うう」
「セラピア様とザンパ様を消した奴をこんな簡単に仕留められるとはな。幸運にもほどがある」
ワルデット達は俺の頭を押さえつけ、銃を突きつけた。
だが、引き金が引かれようとした間一髪のところで飛んできた電撃が銃を弾き飛ばした。
ポスと第九支社の隊が応援にきてくれたのだ。
「こんな雑魚連中にやられやがって。がっかりさせてんじゃねぇぞ」
「す、まん、ボス」
「とりあえずどいてろ。人質にだけはされんじゃねぇぞ」
ボスは俺を遠くへ蹴り飛ばした後、電撃をまとってソウジの援護を開始した。
その後、ワルデット側の陣形はみるみる崩れていき、形勢は一気に逆転。
ちょうどこちらへ向かっていた新手のワルデット達も引き返していき、勝敗は決した。
それに安堵したのか、俺の意識は少しずつ薄らいでいった。
「う、うう。ここはどこだ?」
ワルデット達との戦闘後、目を覚ました俺は見覚えのない部屋のベッドの上で横たわっていた。
ドーピングの反動はもうなく、かなり長い時間眠っていたものと思われる。
「ったく、横になってる場合じゃねぇのによ。今すぐ......あ、ぐ。これは?」
俺の右手は分厚い手錠のようなものでベッドに繋がれ、勝手に動けないようにされていた。
何とか力ずくで脱出しようと暴れるが、入室してきたボスに押さえつけられてしまった。
「う、うう。ボス、これはどういうわけなんだ? つーか、ここはどこなんだ?」
「ここは俺の隊が今まで隠れ家として使っていた廃ビルの中だ。安心して寝てろ」
「寝てるヒマなんてねぇよ! 俺は、あ、が、ぐ!」
「やっぱりまだ反動は少し残っているようだな。この措置は正解だったようだ」
ボスは現在進行中の任務について話し始めた。
すでにソウジたちが新型のエルアブソープを持って、ナカガワのいるアジトを捜索中だそうだ。
そして、俺は強制的に療養させるという事で話がまとまったらしい。
理由はすでに分かり切っている事だが、ドーピングを長時間使い続けた俺の肉体はかなり深刻な状態だから。
中には無理やり第六支社に送り返すという意見を言う者もいたという。
ボスやソウジがそうしなかったのは、俺の戦士としての意思を尊重してくれたからだろう。
戦う力が残っているのに戦えないのが屈辱だというのは、二人共分かっているはずなのだから。
しかし、仲間を絶対に死なせたくないと思うのなら、戦わせない方がいいという意見が出るのも分かる。
要はナカガワのいるアジトが見つかるまでの間、ここに残って戦うかどうかを決めろというわけだ。
まぁ、俺個人の考えとしてもまったく迷いがないわけではない。
この後、俺がドーピングの反動で死んだりすれば、カホの望んでいた夢はもう叶えられなくなる。
それどころか、死の淵から生還した矢先に愛した人間の死をまた経験させることになるかもしれない。
それは間接的とはいえ、自分の手でカホを絶望の淵に落とす事に等しい。
俺は答えを出せなかった。
「うう、う」
「お前が抜ければ、たしかに戦力ダウンになるだろう。しかし、抜けたからって卑怯とか憶病とか罵る奴はいねぇよ。むしろ、十分結果を残し過ぎたくらいなんだからよ」
「ボス、俺はこれからどうしたらいいんだ?」
「俺がそうしろって言ったら、その通りにするのか? どう動くもお前次第だ」
ボスは持っていた食糧だけを置いて、部屋を出ていった。
ここからは自分で限界まで考え抜くしかないようだ。
だが、本当に一人で考えるのが酷過ぎるほどの重圧が俺の全身にのしかかっていた。
どちらか決めそうになっては白紙に戻してを繰り返し、長いようで短い時間が過ぎていった。




