第四十三話「予期せぬ事態」
「はぁ、はぁ。さぁ、観念しろ」
カホを追い続けていた俺とヒメは、ようやく見えない謎の物体を追い詰めていた。
ヒメが機転をきかせて降らせた雪が積もった事により、目の前に何かがいる事は分かっている。
威嚇のために俺が拳銃フローズをかまえると、学ランのようなものを着た不良風の上級ワルデットが姿を現した。
「フフ、俺の名はサルモ。まさか追いつかれるとは思ってなかったぜ」
「カホをどこへやった?」
「フン。俺の有する能力は自分自身と自分が手で触れたものを透明化する能力。すでに透明化した状態で仲間に渡してきたよ」
たしかにこの周辺に俺たち以外に雪が積もっているものは見当たらない。
もし、サルモの言う通りだとしたら、もたもた戦っているヒマはないだろう。
「うう。ヒメ、お前はカホを追ってくれ。ただし、雪は降らせたままでな」
「まかせといて。すぐに取り返してくるから」
ヒメは氷のローラーシューズを作り出して装備し、猛スピードで走り去った。
サルモの目的は俺たちの足止めだと思われたが、さすがに二人相手は分が悪いと見たのか、ヒメを急いで追いかける事はしなかった。
それどころか、やけに落ち着いた表情で笑いながら俺を見つめている。
「大上ショウスケか。ま、お前もそこそこ厄介といったところか」
「何の話だ?」
「いや、俺の見たてではお前の戦闘能力は中の上といったところ。厄介な奴を片付けた後でゆっくり始末したかったんだがな」
サルモはグラフのようなものを俺に見せつけてきた。
それによると、俺の戦闘力は八木以上ヒメ以下といったところで、顔写真の下にはすでに始末済みを表すと思われるバツマークがついていた。
どうやら、完全になめられているようだ。
「ふざけた真似を。その行為がどれだけ軽率だったか今から思い知らせてやるよ」
「フフ。お前さ、雪を俺に積もらせて透明化を攻略できると思ってんだろ。甘いよ」
サルモは背負っていたバッグから白色のスーツを取り出して装着し、透明化した。
スーツには雪や冷気をはじく効果があるらしく、積もっていた雪を目印にして戦う事はできなくなった。
どうやら、ヒメと戦闘になった時のためにいろいろと準備されていたようだ。
「フン、なんとも用意周到なこって」
「フフ、このスーツのすごさは何も防御能力だけじゃない。装備している短銃からこんな攻撃もできるのさ」
「ん? がふ!」
火の玉がいきなり俺の手に命中した。
この火の玉もサルモが使用しているので透明化しており、着弾するまでは目で確認する事もできないようだ。
姿が見えない上に、離れた場所から攻撃されたとあっては、もうお手上げ。
俺は拳銃フローズの力で作った氷のバリアでガードするしか術がなかった。
「く、うう」
「なかなか固い氷の壁だ。しかし、これならどうだ」
サルモはさっきの五倍はあろうかという巨大な火の玉を俺めがけて飛ばしてきた。
命中した氷のバリアは溶けた直後に消滅し、ギリギリ相殺という形におわった。
「フフ、大きさも威力もさっきのものとは桁違いだ。氷の壁なんかに防ぎ続けられるかな」
「使用者からエネルギーをもらって弾をとばす。拳銃フローズと似たような武器のようだな」
俺は不利な状況の元、戦い続けた。
降っていた雪はだんだんひどくなり、やがて積もり始めた。
普通だったら、お互いに厳しい状況となるところだったが、スーツと火の銃を持つサルモは例外。
どれだけ温度が下がろうと、あの装備がある限りは心おきなく戦えるのだった。
「フフ、雪をガンガン降らせたことが逆にアダになったようだな」
「そ、そろそろだな」
俺は防御するのをやめ、一気に前進した。
そして、サルモに一気に接近すると、頭上に回りこんで渾身の一撃を炸裂させた。
「はぁ、はぁ。やっぱここだったか」
「ぐうぅぅぅ」
サルモ地面に頭がめりこむとともに、透明化が解けてしまった。
装備していたスーツも短銃も俺に踏み砕かれ、完全に無防備な状態となった。
「う、うう、なぜだ。なぜ、俺のいる場所が分かった?」
「足元を見て分かんねぇか?」
「足元? しまった、そうか」
サルモは気づいたようだったが、すでにおそかった。
俺は、サルモが積もる雪の上につけていった足跡をたよりに奴のいる場所を見つけたのだ。
積もるまでにそれなりの時間はかかるが、積もってさえしまえば、後は弾が飛んできた大体の方向へ行き、足跡をたどれば捕らえられるというわけである。
透明ワルデットといえども、足跡までは消す事ができなかったのだ。
「雪をガンガン降らせていたのはそのためだったのか」
「透明化もそのスーツも強力だが、それにたよりすぎだ。もっと身体能力を鍛えとくんだったな」
「く、くそ」
「さてと、ここからだ。よくもカホをさらってくれたな」
俺はサルモを地面に押し付けて殴り伏せた後、拳銃フローズで首から下を凍結させた。
そこからはじっくり仲間の居所を吐かせるつもりだったが、もう時間はないようだ。
サルモの右手の甲にある赤いボタンが点滅していたからだ。
おそらくは、以前に戦ったセラピアが使った自爆装置と同様のものだ。
「ちくしょう。ザンパの奴、最初から俺を捨て駒にするつもりでこれを!」
「く! まずい」
「おい、このままザンパの思い通りになるのは気に食わねぇからいい事を教えてやるよ。今後、仲間を信じすぎない方がいいぜ」
サルモは謎めいた笑みを浮かべながら大爆発した。
俺は短剣ムーブの力で何とか逃げ切ったため、爆風でわずかな火傷を負っただけですんだ。
「フー、今回は逃げる体力が残ってて助かった。それにしても、あの言葉の意味は?」
気になった俺はすぐにカホの捜索を再開した。
だいぶ時間が空いてしまったので、本当に勘だけをたよりに走り続けるしかなかった。
そして、息が苦しくなるまで走り続けたところで願いが通じたのか、ようやくカホを発見する事が出来た。
「カホ、無事か!」
「あ、ショウスケさん。迎えに来てくれたんですね」
「怪我はしてないようだな。敵はどうしたんだ?」
「スキを見て、何とか逃げてきました。心配かけてごめんなさい」
「フー。ったく、ヒメから連絡がねぇから悪い方にばかり考えちまったぞ」
「とりあえず洋館に戻りましょうよ。ここでは目立ちますし......ね」
カホの表情はどこか暗い感じだった。
敵に捕まった恐怖によるものかどうかは定かではない。
結局、俺が事情を聞いても答えてはくれず、釈然としないまま帰路につくことになった。
「くそ、一体どういうわけだ」
サルモとの一件から一週間後、俺は洋館内を回り、カホを探していた。
最近、どうもカホの様子がおかしい。
食事の時もほとんど口をきかず、一昨日からはとうとう俺たちの前にあまり姿を見せなくなった。
そして、廊下で俺と目が合うと逃げるように去っていく。
そのときのどこか悲しそうな表情も気になる。
おそらくは、サルモにさらわれた後に何かあったと考えるべきだろう。
何となくだが、嫌な予感がしてきた。
「どうすべきか? ここはちょっと手の込んだ方法を試すべきか」
俺はやみくもな探索をやめ、洗面所の近くで張り込みをはじめた。
音を立てず、絶対に誰にも気づかれないようにじっと時が過ぎるのを待った。
そして、二時間ほどたった頃、ようやくやってきたカホを捕まえる事が出来た。
「かわいそうに。やつれちまってんじゃねぇか」
「ショウスケさん、なぜここに私が来ると?」
「お前は決まった時間に顔を洗って歯を磨くまじめな子だったからな。さぁ、何があったか話してもらうぞ」
「な、何も話すことはありません」
「何もないのになんでそんなコソコソした行動をとる必要がある? いいから言えよ」
「私の問題なんです。ショウスケさんには関係のない事です」
「バカにすんなよ! 仲間が悩みを抱えてるのを放っておくほど俺は冷血人間じゃねぇんだよ!」
「なか......ま?」
カホは急に黙り込み、その場に座り込んだ。
その後は何かをしばらくじっと考えているような仕草を見せた後、顔を叩きながら立ち上がり、近くの壁に頭をガンガンとぶつけはじめた。
「いたたたた」
「お。おいおい。急にどうしたんだよ?」
「ショウスケさん、ありがとうございます。おかげで目が覚めました」
「な、何かよくわかんねぇけど、悩みは解決したと見ていいのか?」
「ええ。心配かけたお詫びにとびっきりおいしい朝食を作りますね」
「ん? ああ、そういえば朝飯がまだだったもんな。そんじゃ、たのむとすっかな」
俺はカホと一旦別れ、地下室に向かった。
しかし、それから三十分以上たってもカホは現れない。
不審に思った俺は厨房に向かうも、そこに人の姿はなく、料理をした形跡もなかった。
「どうなってんだ。カホ、一体どこへ」
俺は青ざめながら外へ飛び出し、辺りを見渡した。
するとその直後、八木から連絡が入り、カホが森の中を一人で歩いているという情報が伝えられた。
「うう、う、や、や、八木、すぐに追ってくれ。俺も行くから」
俺は震える体を押さえながら森へと入り、八木と合流した。
そこからは手探りの捜索となったが、南西の方角からわずかに怒鳴り声のようなものが聞こえる。
それをたよりに進んで着いた先で目にしたものは、見知らぬ男四人に押さえられながらナイフで胸を突き刺されるカホの姿だった。
「お、まえらぁぁぁぁぁ、何やってんだ!」
俺は男たちに飛びかかり、無我夢中で殴り伏せた。
そのまま短剣ムーブで切りつけようとしたが、何とか理性を保ちつつ、倒れているカホを抱き起した。
「く、首からも出血が! は、はやく血を止めねぇと。ううう」
「お、オラが途中で見失っていなければこんな事には......」
「くそ! いいか、八木、そのクソ外道どもをしっかり捕まえとけ。何があっても逃がすんじゃねぇぞ」
俺はカホを抱きかかえ、森を抜けていった。
一刻も早く医者に診てもらわなければ、手遅れになってしまう。
だが、そんな思いとは裏腹に街のどの医療機関も俺たちを受け入れてはくれなかった。
目の前で幼い少女が血を流して苦しんでいるというのに、エイキュウカンパニーの人間だというだけで話すら聞いてくれない。
涙目ですがろうが、土下座してたのもうが、ダメだった。
「ちくしょう、ちくしょう。そんなに俺たちが憎いのか」
「ショウ、スケさん、私はとんでもない事をするところでした。き、らいにならないでくださいね」
「あ? 何の話をしてるか知らねぇが今はしゃべるな。後でいくらでも聞いてやるから」
「ショウスケさん、さ、いごに言わせてください。あ、いし......」
カホは何かを言いかけたところでむせながら大量に吐血し、顔色はだんだん悪くなっていく。
それに追い討ちをかけるように街中の医療機関からは次々と門前払いされ、結局は離れた場所にいる別の隊のドクターを洋館に招くこととなった。
結局、俺はここまでカホのために何もしてやれなかった。
そして、ここからもドクターを信じてただ祈る事しかできない。
本当に悔しくて情けなくて、頭がどうにかなりそうだった。




