第四十話「プライドを賭けたタイマン」
「はぁ、はぁ。う、う」
ソウジとボスを持って走っていた俺は、進んでいた森の中で倒れていた。
さすがに今の体力で大の男二人を運ぶなんてきつすぎた。
だが、弱音をはこうとしている内に追いかけてきていた強い殺気がどんどん近づいてくるのが分かった。
「やるしかないようだな。カホ、二人の鎖を解いてやってくれ」
「はい、すぐに」
「さてと、ん? この音、人やワルデットじゃないな」
身構える俺の前に現れたのは蜂の群れだった。
四つに分かれると、四方向から同時に襲いかかってきた。
すぐに鉄球デストンの一撃で一掃するも、また奥から新しい蜂の群れがやってきた。
「フー、大方少しでも体力を消費させておこうという考えだろうな。だが、こんなものが通用しないのは分かっているはずだ。出てこい!」
俺が大声で威嚇を続けると、蜂達は後退していき、その後ろから上級ワルデットのバラバが現れた。
「見つかったか。さすがは俺たちから目をつけられるだけの事はあるなん」
「てめぇほどのワルデットがこんなせこいマネするとは意外だったな」
「少し様子見をしただけだ。さすがに蜂程度じゃ無理だったようだが」
「そういや、てめぇの能力はあらゆるものを捕食、吸収し、エネルギーに変えてパワーアップするんだったな」
バラバは、今までにエイキュウカンパニーの幹部や口論になった上級ワルデットなどの実力者を複数捕食してきたと聞いたことがある。
さっき使った能力もその一つに過ぎないというわけだ。
「この能力の元の持ち主は生前は瞬殺の神などと恐れられていたが、実際は大したことはなかった。戦い始めて三分でケリがついた」
「フン、俺はそういうわけにはいかねぇぞ」
「だろうな。あれだけの罠を突破してこうして生きているんだ。だが、俺は突破できまい」
「待て、てめぇの相手は俺がやる。タイマンだ」
「ボス、カッコつけてる場合じゃねぇだろ。奴の実力は本物だぞ」
「俺もエイキュウカンパニーの社長の一人だ。このまま助けられっぱなしじゃメンツが立たな過ぎて腹切っちまいそうなんだよ」
「ふーっ、学習能力のない社長さんだなん。前にモスリーと俺に隊を壊滅させられたのを忘れたわけじゃあるまい」
バラバは口布を外し、舌なめずりをはじめた。
食虫植物のようなその見た目はあいかわらず不気味だ。
「ククク、お前を食らってその能力を手に入れれば、俺はもう無敵になっちまうかもなん。まずは抵抗できないほどに痛めつけてから食わせてもらう」
バラバはそう言うと、両手を天に向かってかざした。
すると、巨大な岩がボスめがけて次々とふってきた。
「はぁ、これはどちらさんから盗んだんだ?」
ボスはふってくる岩を次々と砕いていくが、それには罠が仕掛けられていた。
一番最後にふってきた岩に複数の蜂が仕込まれていたのだ。
砕いた瞬間に中から現れた蜂の群れは、至近距離からボスに襲い掛かる。
この奇襲にはさすがのボスも対処しきれず、放電で蜂達を撃退したときにはすでに腕を数箇所刺された後だった。
「チッ、こりゃ油断したな」
「複数の能力を持っている俺だからこそできる戦法だ」
「威張んな、バカ。結局は人様の能力にたよっているだけじゃねぇか」
「何を言う。取り込んだ以上はもう俺の能力さ」
「しかし、すこしやばいのもたしかかもな。蜂の毒のせいで少し胃がむかついてきやがった」
「普通の人間なら死んでいてもおかしくないというのに、大した奴だ。次はこれだ」
今度は岩でできた人形が二十体ほどバラバの口から現れた。
両手に岩でできた斧を装備すると、ボスに向かっていった。
「これはまずいな。ボス、俺も加勢する!」
「ふざけんな、こんな人形ごときで俺がやられるわけねぇだろ! 加勢なんかしやがったらぶち殺すぞ」
勢いよく岩人形たちを攻撃しようとするボスだったが、寸前のところで拳を止めた。
また中に蜂が仕込まれているかもしれないからだろう。
そう躊躇したスキをつくように、岩人形の斧がボスの頭を切り裂いた。
あの程度の攻撃をよけられないところを見ると、少しずつ毒が効いているようだ。
こういうときは電撃を身にまとっておくのが有効だが、毒のせいでうまく電撃を体にまとって維持する事ができないのだろう。
「最初から電撃を身にまとって戦っていれば蜂に刺されることはなかったのになん。なめてかかったお前の負けだ、負け犬社長が」
「ぐ、うう」
ボスは岩人形たちの攻撃をよけつつ、遠くへ投げ飛ばして倒していった。
とにかく、近くで砕いたりしなければ、大丈夫なはずだと普通は思うだろう。
しかし、次にボスがつかみかかった岩人形は投げ飛ばされる寸前に頭部が砕け散ってしまった。
「何っ!」
「その岩人形たちは俺の意思で自由に砕いたりくっつかせたりできる。そして、もちろん中には......」
砕けた岩人形の中から蜂の群れが現れ、ボスにせまってきた。
全身を刺され、さすがのボスも倒れてしまった。
すでにくらっていた毒のせいで、放電で体に群がっている蜂達を追い払うこともできないようだ。
「うううう」
「さらばだ。俺の腹の中で戦力として永遠に生き続けてくれ」
バラバは舌を伸ばし、ボスの体を縛って引き寄せた。
だが、直後にボスは目を覚まして暴れ始めた。
バラバの顔にかみつくと、舌をつかんで引きずりまわした後、押し倒した。
「ぐうううう」
「き、キサマ、ぐっ、この!」
バラバはしつこく食らいつくボスを何とか振り払った。
かまれた顔からはひどく出血していた。
「毒をくらってまだこんな力が出せるとは」
「へへ」
「しかし、気絶したふりをするとは卑怯だなん。少し見損なったぞ」
「バカ言え、本当に気を失ってたんだよ。だが......」
ボスの手にはバラバの懐から奪い取った注射器のようなものがにぎられていた。
おそらく、あれは蜂達の毒を解毒するためのもの。
さっき、しつこく食らいついていたのは、これを奪い取るためだったのだろう。
「まぁ、飼い犬に手を噛まれないとも限らないしな。持ってて当然だよな」
ボスは解毒剤を飲むと、電撃を全身にまとった。
「さぁて、蜂でも何でも出してこいよ。マヌケな人食いワルデットさんよ」
「だまれ!」
バラバの口からとがった岩が発射される。
対するボスは口から電撃の槍を放出し、岩を突き砕いた。
そのまま電撃の槍はスピードが落ちる事もなくバラバめがけて飛んでいく。
しかし、バラバは口を大きく開き、電撃の槍を一飲みにしてしまった。
「味はまぁまぁだなん」
「なるほど、そうなるか。だったら接近戦しかねぇな」
ボスは電撃を身にまとったまま、攻撃を開始した。
バラバも岩で全身をコーティングし、迎え撃った。
火花を散らしぶつかる電撃の拳と岩の拳。
結果、岩の拳は粉々に砕け散った。
しかし、バラバはすぐに新しい岩でコーティングしなおしてしまう。
破壊力自体はボスの電撃の拳の方が上だったが、このコーティングに邪魔されてバラバの体自体に決定打を与えられない。
その上、岩の拳を殴ったことにより、少しずつ腕にダメージを蓄積していく事になるだろう。
「このまま続けても意味はねぇな。あのガードを崩した上に下の皮膚にダメージを与えられるほどの破壊力がいるな」
ボスはツメを首に突き刺し、ドーピングした。
その瞬間、彼の全身をまとっていた電撃はさらに巨大化した。
それは凶悪で禍々しく、空を漂う鬼のようにも見えた。
「ついにドーピングしたか。離れた場所にいるのに、ビリビリ感じるなん」
「強い相手にしか使わないと決めてるが、てめぇが相手なら仕方ねぇか」
ボスは身にまとう電撃を増大させながらバラバに歩み寄った。
バラバは巨大岩を連続で上空から落とすが、やはり身にまとっている電撃に弾かれてしまう。
「あれは奴の意思なのか、それとも電撃自身に意思があるのか」
「急所がガラ空きだぜ」
ボスの電撃をまとった手刀がバラバのわき腹を貫いた。
岩のコーティングは砕かれ、本体にもそうとうな深さの傷ができたようだ。
「く、ここまでの威力が」
「フン、少し心臓からずれちまったか」
「クク、ククククク!」
「何だ? 恐怖で頭がおかしくなりやがったか」
「何が恐怖なものか。うれしくてたまらないんだよ。その凶悪な電撃のオーラ、それがもうすぐ自分のものになるかと思うと」
「まだそんな事言ってんのか。次は外さねぇぞ」
「クク、うぉぉぉぉぉぉ!」
バラバの体がみるみる巨大化をはじめた。
そのまま雲まで届くような勢いで巨大化し、さらに全身を岩でコーティングした。
「フン、上限はこれくらいか」
「そういや、先代のジジイが言ってたな、高層ビル並にでかくなれるワルデットがいると。そいつもすでにこいつの腹の中ってわけか」
「力を込めてたたきつぶす。うぉぉぉぉぉ!」
バラバの右腕がボスめがけて振り下ろされる。
両手で受け止めるボスだったが、その重圧に耐えかね、真下の地面がひび割れていく。
そうして完全に身動きがとれなくなったところへ、真横からの左腕の一撃が炸裂した。
ボスは吹き飛ばされ、木に激突した。
「ぐぐ、さすがにこれだけ巨大で、しかも岩でコーティングしているとなると、破壊力は別格だな」
「フン、威力はいまいちだったがなん。周りの電撃に邪魔された」
「バカ言え、骨バキバキだってんだよ」
「さぁ、休むヒマなんて与えんぞ」
バラバは巨大石斧を手に持ち、攻撃してきた。
ふらつきながらも回避したボスは上空から電撃を落とした。
だが、それもバラバの口に軽く吸収されてしまう。
「チッ、頭や心臓があんな高いところにあるんじゃこれしかないと思ったが」
「次はこっちだ」
バラバの石斧、パンチ、とがった岩飛ばしがその後もボスを苦しめた。
ボスも負けじと動き回り、ジャンプしたり、バラバの体に飛び乗ったりして電撃の拳で攻撃していく。
なかなか急所には近づけなかったが、バラバの方も何度も電撃の拳で攻撃されたため、下半身部分はすでにボロボロだった。
「くそっ、いくら岩で覆っていても貫通されてしまう。肉弾戦でここまでくらいつかれるとは。少々動きづらくなるが、足だけでも岩を二重に、ん? 奴はどこだ」
「つかまえた」
ボスはバラバの右足をつかんでいた。
そのまま両腕から電撃を流し、バラバの右足を覆っていた岩のコーティングを粉砕した。
「何考えていたかは知らねぇが、自分より小さい敵から目を離すもんじゃねぇぜ」
ボスは、バラバの右足をつかんだまま持ち上げて床に倒した。
そして、そのまま何度も振り回し、地面に叩きつけていった。
バラバの全身を覆っていた岩のコーティングはほとんど剥がされた挙句、仕上げとばかりに近くにあった大木に向かって投げ飛ばされた。
「ぐふっ」
「ハァハァ。タフな野郎だな、ホント」
ボスは全身をまとっていた電撃を右腕に集中させ、倒れているバラバにせまる。
狙っているのはもちろん頭だろう。
手が届くところまで近づくと、ボスは右腕をかまえた。
「さてと」
「クククク! かかったなん」
バラバの目と口が突如開いた。
目は赤く、すでにドーピングしていた。
さっき叩きつけられた直後にツメをリングに突き刺していたのだろう。
ドーピングした影響か、口もさっきまでとは様子が違う。
まるで黒くて太いホースのようになっており、中は闇のように真っ暗だった。
「あの口は、う、うぉぉぉぉぉぉ!」
「ククククク」
バラバの口から強い引力が発生し始めた。
まるでブラックホールのようにボスをぐいぐい引き寄せていく。
「ぐうう」
「お前は俺の頭を狙っていたが、あれも計算のウチ。何度も叩きつけられ、倒れて動けなくなる事は避けられないと感じた時点で作戦を切り替えたのだ」
「な、るほど。俺がかなり弱っていると判断した上で気絶したふりをして頭部に近づかせ、そこをこの口で一気に吸い込むつもりでいたのか。こ、この卑怯者が!」
「お前が言うなん、さっき同じ事をしたくせに」
「だからあれは本当に、って言ってる場合じゃねぇな。う、ぐぐぐぐ」
ボスは両手を地面にくいこませて必死に耐えるが、引力はとどまるところを知らない。
さらには口の中からは引力とともに、無数の黒い手が不気味に「おいで、おいで」と手招きしていた。
「今まで食われた者たちがお前を呼んでるんだ。素直に行ってやれ」
「ふざけるな、こんなところで。くぅ」
ついには、ボスの右腕をまとっていた電撃さえも引き剥がされ吸い込まれてしまった。
完全に無防備になったボスは少しずつバラバの口に引き込まれていく。
「うう」
「しぶとい奴め。これならどうだ」
バラバはツメで口の端を切り裂き、無理やり広げた。
それにより吸引力はさらに強くなり、耐え切れなくなったボスの右手が地面から離れた。
「し、しまった!」
「よし、いいぞ。最後の仕上げだ」
バラバはさらにツメで口の端を切って吸引力を強めた。
だが、直後に口につけた切れ目が大きく裂け、引力の暴走がはじまった。
裂け目はその後もどんどん大きくなり、周りのもの次々とを吸い込んでいく。
こんな事になったのは初めてらしく、バラバ自身もそうとう慌てていた。
手で裂け目をおさえようとし、逆に口に吸い込まれてしまった。
「う、うおおおお」
バラバの両手は完全に吸い込まれてしまい、続けて腕の付け根から腰までも吸い込まれた。
そして、とうとう腰から下すべてと頭部まで吸い込まれ、それと同時に巨大な口も消滅した。
その跡にはバラバのリングと食われたワルデットたちのものと思われる銀色のリングだけが残っていた。
ボスはそれを拾い上げると、フラフラになりながらも俺たちに駆け寄ってきた。
「バラバ、自分の能力の限界を知らなかったバカめ。他人から奪った能力ばかり使ってっからだ」
「ボス、出血がひどいです。すぐ手当てさせてください」
「嬢ちゃん、俺を誰だと思ってんだ。部下たちが見ている前で簡単に膝をつくわけにはいかねぇんだよ」
「はぁ、強がりやがってよ。お偉いさんってのはホントに大変なんだな」
俺たちはボスをかばいつつ森の中を歩き続け、数時間後に何とか無事にヒメたちの待つ洋館にたどり着いた。
半日近くに及んだ救出作戦はようやく幕を閉じたのだった。




