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第三十九話「超難関の救出作戦」

「はぁ、はぁ。くそ、また古傷がうずきだした」


 追いかけてくる市民連中から逃げた俺と仲間たちは、街のはずれに位置する古びた洋館で傷をいやしていた。


 地下にある隠し部屋の中にいるので、簡単には見つからないだろうが、決して油断はできない。


 何しろ、今の俺たちの中で万全なのは非戦闘員であるカホ一人だけ。


 そんな状態で、もし上級ワルデットの奇襲を受けたりすれば、死人が出てもおかしくないだろう。


「くそ、一日もせずに隊がこんなことになるなんて」


「大丈夫です。たった今、近くにいる第九支社の隊に連絡しましたから。もう少しの辛抱です」


 しかし、しばらくしてかけつけた第九支社の隊は俺たちと大差ないほどのやられようだった。


 リーダーを務めていた男は包帯ぐるぐるでまともに立つ事が出来ず、万全の状態でいるのは一人もいなかった。


「結局はカホの仕事がよけいに増えただけか。この分だと、他の隊もひどい目にあっているだろうな。くそ、助けを求められたりしたら、どうすりゃいいんだ」


「あの、ショウスケちゃん、ちょっといい?」


「ヒメ、横になってなきゃだめだろ。重傷なんだぞ」


「大丈夫よ。それより、この紙切れを見て。モスリーが差し出したものなんだけど」


「え? これって」


 紙切れには街の東エリアにある工業地帯の地図が書かれており、下部分にある赤い印のところにソウジとボスの名前が書かれていた。


 単純に考えるならば、ソウジとボスがここに捕まっていると見るべきだろう。


 しかし、何らかの罠が裏に隠れている可能性が高い。


「モスリーはさっきの戦いを見る限りでは悪意の塊のような奴だった。そんな奴が死に際にわざわざ情報をくれると思うか?」


「思わないよ。でも、ソウジちゃんにつながる手掛かりは他にないのよ。あたし、助けに行きたい」


「そうか。まぁ、ソウジを助けたいのは俺も同じだ。よし、俺も行くぞ」


「ショウスケさん、ヒメさん、どうか落ち着いてください。まずは作戦をたてますから。みなさんの治療が終わるまで待ってください」


「う、うう。でもよ」


 俺は周りを見て、何とか自分を押さえた。


 今、ヒメと共にここを抜ければ、万が一の時に怪我人たちを守る者がいなくなってしまう。


 それに罠があるとほぼ分かっている今回だけは、ただ力ずくで敵を倒していけばいいというわけにはいかないだろう。


 ソウジを本気で助けたいと思うのなら、今は少しでも体力を回復させることに専念すべきだ。


「上級ワルデットの一人くらいとは戦うつもりでいないとな。ヒメ、お前もだ」


「うん。それがソウジちゃんのためなのよね」


「そうだ」


 俺はカホが怪我人たちの治療を終えた後、休息に専念することにした。

挿絵(By みてみん)

 長すぎず短すぎず、妥当な分だけ睡眠と食事をとった。


 その後、作戦タイムなんて余裕がないのが分かっていたのか、カホはすでに作戦の大体の内容を考えていた。


「まず、正面から突っ込むのではなく、敵になるべく見つからないように動き、無駄な戦闘は避けるべきです。体力をいかに温存しながら進めるかがカギです」


「たしかに今の状態じゃ連戦はきついよな。で、罠の方はどうするんだ?」


「私がこの旅で作っておいた爆発物センサーに赤外線センサー、他にもいろいろ。それにどうにもならなくなったときのための新作アイテムもあります。心配はいらないですよ」


「お前が言うと、本当に説得力があるな。よし、あとはどちらがここに残るかだな」


「あたしは残るなんて絶対に嫌よ。怪我なんて大したこと、あ、うっ!」


「やはり、モスリー戦のダメージがでかすぎたんだ。それじゃあ、出撃は無理だ」


「ちくしょう、なんでこんなときに。大好きな人が捕まっているのに助けにも行けないなんて。あたし、くやしい」


「その気持ちだけで十分だ。ここをしっかりと守っとけよ」


 何があっても、絶対にソウジを連れて帰る。


 そう誓いながら、俺はカホと共に洋館を後にした。





「見張りは二人か。どうする?」


「他に入り口はないようですし、無視はできないようですね」


 洋館を出発し、工業地帯にたどり着いた俺とカホは、ソウジのいる古小屋の近くで様子をうかがっていた。


 急ぎたい気持ちはあったが、慎重にいかなければ目的は果たせない。


 まずは物陰に隠れながらゆっくりと古小屋の前へ近づき、サッと門番のワルデット二人を組み伏せて気絶させた。


 とにかく援軍を呼ばれるわけにはいかず、中に入った後も先をよく見ながらの前進が続いた。


「フー、じれってぇなぁ。ん? 見ろよ、ここから先の廊下は、敵はいないようだぜ」


「本当ですね。ん? ああ、爆発物センサーが反応してます」


「何! じゃあ、爆弾がしかけてあんのか」


「はい。でも、反応があるのは中央部とその周りですから、端の方を通れば問題ありません」


「ああ、分かった」


 敵がいるところは俺が先頭に立ち、罠があるところはカホが先頭に立ってうまい具合に連携をとりながら進んだ。


 そして、予想よりもかなり早い段階で最上階へたどり着いた。


 そこはいかにも頑丈そうなシャッターで閉めきられ、奥がどうなっているかはまったく分からない状態。


 大声でソウジたちを呼んでみるも、返事がくることはなかった。


「はぁ。時間はかかるかもしれないが、強行突破するしかねぇか」


「あ、ちょっと待ってください。いいものがあります」


 カホはバッグから小型のタブレットのようなものを取り出し、右側の壁面にあるモニターの下部に接続した。


 どうやら、モニターの画面を操作する事により、シャッターの開閉ができるようだ。


「大丈夫なのか? 普通こういうのってパスワードとかがないと操作できないよな」


「ええ。でも、私が作ったこのプログラムソフトがあれば開けられるはずです。ええと、ここをこうしてと......」


 カホがタブレット操作を続けていると、ピンポーンという音がして、シャッターが少しずつ開き始めた。


 しかし、それと同時にモニターの画面が切り替わり、メガネをかけた若い男性の姿が映し出された。


「やぁ、大上ショウスケくんに松山カホさん。数々の難所を突破してよくここまでこれたね」


「その声、聞いた事あるな。ナカガワ......なのか?」


「え? ナカガワ博士! だって、彼はもう老人のはずですよ。こんなに若いはずありません」


「フフ、それが今、ワルデットの製造以外に若返りの研究をしていてね。まぁ、多少の犠牲は払うのだけれど」


「まさか、捕虜の皆さんを!」


「どうだろうね。それはさておき、ここまでこれたごほうびに助かるチャンスをあげよう。敵に捕まるようなバカな仲間は見捨てて逃げたらどうだい?」


「ここまできて引き返すバカがどこにいるんだ。このタコ」


「そうか、残念だよ。だが、キミら二人が仲間を連れてここを抜けるのは不可能だ。それだけは肝に銘じておくんだね」


 ナカガワは薄ら笑いを浮かべながら挑発を始めた。


 俺はそれに構うことなく、開いていくシャッターの下を通って中へ入った。


「敵はいないようだが。ん? あれは」


 長い廊下の先で、鎖で口から膝のあたりまでをぐるぐる巻きにされているソウジとボスを発見した。


 しかし、駆け寄ろうと走り出した直後にカホの爆発物センサーが反応し始めた。


「これは、あの一番奥の部屋からです。この数、ざっと百個をこえています」


「な、何だと!」


 俺は急いで奥の部屋へ入るが、仕掛けられた爆弾のタイマーはすでに一分を切っていた。


 おそらくは、この階に誰かが入ってくると作動する仕掛けになっていたのだろう。


 今からすべての爆弾を解除するなんてできないし、ソウジたちを担いで安全な場所まで逃げるのも不可能だ。


「くそ、八方ふさがりだ。すまん、ソウジ」


「ショウスケさん、まだ諦めないでください。そこの右側の壁を破壊した後、ソウジさんたちを私のそばに連れてきてください」


「え? な、何が何だか分からねぇが、よし、まかせろ」


 俺が鉄球デストンで壁を破壊する傍ら、カホは何やら四角い機械をバッグから取り出した。


 そして、俺が作った穴へ向けてボタンをいくつか押した後、一番手前のレバーを引いてしっかりとつかんだ。


「それで、どうすんだ?」


「お二人を持った状態でこの機械にしっかりつかまってください。絶対に放してはダメですよ」


「あ、ああ、しかし、う、うぉぉぉぉ、ん? ああ」


 何が起こったのかよく分からなかったが、俺たちはいつの間にか湖の上に移動していた。


 すぐに落下したのはいうまでもないが、カホもソウジもボスも無事だ。


 わけも分からず陸へと上がると、左方角から凄まじい爆発音が聞こえてきた。


「あれは、さっき俺たちがいた古小屋か。移動......したのか?」


「ええ。今、私たちがつかんでいるムーブテレポーターの力です」


「瞬間移動みたいなやつか?」


「まぁ、正確にはものすごい速さで移動しただけなんですけど。ちなみにショウスケさんの持っている短剣ムーブのデータを元に作りました」


「まったく。本当に大したもんだよ、お前」


「間に障害物がある場合や高い場所で使用したときの落下の事も考えなくてはいけないので、使いやすいとは言えないんですけどね」


「そう謙遜すんなよ。作戦は成功したんだからよ」


 俺はソウジとボスを持ったまま、すぐにカホの手を引いて走り出した。


 ほんのわずかではあるが、強い殺気がこちらへ迫っているのを感じたからだ。

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