第三十四話「明かされたアジトの秘密」
「あれが出口か。さて、何が出るか」
倉庫の隠し通路を進み続けた俺は、出口の前で足を止めていた。
場所が場所なので、むやみに突っ込むのではなく様子見をするのが重要だったからだ。
「さて、敵の数は......あんま多くねぇな」
今、目の前にいるワルデットは五人ほどで、残りは捕虜と思われる人間たちばかり。
見た感じ、何か細かい作業をやらされているようだった。
そんな中、奥の方で鞭うたれながらこれでもかというくらい泣いている男がいたので凝視してみると、何と八木だと分かった。
「お前かい! って突っ込んでる場合じゃねぇな。作戦練らねぇと」
今、下手に突入して援軍を呼ばれでもしたら、大勢の捕虜たちにまで危害が及ぶ。
人質にされるにしろ、戦闘の巻き添えになるにしろ、俺一人で全員を無傷で守り切るのは不可能だろう。
「よし、ここは紛れ作戦でいくか」
俺は周りに気づかれないようにし、さりげなく作業している捕虜たちの中に入っていった。
そして、一番手前にいたワルデットの鼻と口を背後から塞ぎ、倒した。
続けて、数メートル先で腕組みしていたワルデットも奇襲を仕掛けて倒し、一気に作業場の中央部まで移動した。
あとは奥にいる三体のワルデットさえ倒せば、捕虜たちの救出へ移行できる。
その後も順調に進んでいたが、部屋の隅側にいたワルデットに近づこうとしたところで、斜め前にいた八木と目が合ってしまった。
「ぐ!」
「あれ、ショウスケくん。助けに来てくれたんすか?」
「ば、バカ! 話しかけんじゃねぇ!」
「ショウスケ? あ、貴様、大上ショウスケだな! いつの間に」
作業場は大混乱となった。
俺はすぐに部屋の隅側にいたワルデットを組み伏せ、両手両足をへし折って動けなくした。
そして、八木の背後にいたワルデットに飛びかかり、腕を掴んで床に強く叩き付けた。
「はぁ、はぁ。残るはあいつだけ。ん?」
残ったワルデットは、懐から通信機のようなものを出そうとしていた。
直接近づいて倒そうとする余裕はなく、間には捕虜たちがいるので飛び道具で攻撃もできない。
俺は天井めがけて短剣ムーブを投げ、命中させた。
「バカめ、どこをねらがぶ!」
ワルデットは落ちてきた天井の欠片の直撃を受け、倒れた。
かなりギリギリではあったが、援軍は呼ばれずにすんだようだ。
「はぁ、はぁ。きっつ」
「ショウスケくん、大丈夫っすか?」
「コラ、八木! てめぇ、何を無神経に話しかけてんだよ! 口縫い合わせんぞ、コラ!」
「あ、いや、申し訳ないっす。助けに来てくれたことがうれしくて、つい......」
「別にお前を助けに来たんじゃないんだが。つーか、なんでお前がこの街にいるんだ?」
「いや、ショウスケくんの後を追ってきたんすけど、いろいろ探ってるところでワルデットにやられて捕まったんすよ」
「ったく、気ぃつけろよ。お前は悪い意味で有名人なんだからよ」
俺は呆れつつ、捕虜たちを連れて移動を開始した。
しかし、外へ出た直後にやってきた赤髪の上級ワルデットに行く手を阻まれてしまう。
援軍は呼ばせないようにしたつもりだったが、入り口付近の騒ぎが原因とすれば、この状況に何ら不思議はない。
考えが甘かったようだ。
「くそ!」
「あ、あいつは斬撃を使う上級ワルデットのジョグっすよ。オイラ、あいつに捕まったんす」
「大上ショウスケ、よくも捕虜たちを逃がしてくれたな。これ以上は好きにさせんぞ」
「まずいな。今戦えば、いろいろと厄介だ。八木、捕虜たちを連れて脇道側を逃げるぞ」
「ええ! 戦わないんすか!」
「今はそうするしかねぇ! ほら、グズグズすんな」
俺たちは何とか逃げ切り、行き着いた湖の近くを添うように歩き続けた。
しかし、こんな大人数での移動を続ければ、嫌でも目立ってしまう。
そこで、捕虜の一人だったばあさんの家に行き、しばらく身を隠すことになった。
「ここなら、ひとまずは安心じゃろう」
「ああ。で、さっそくだが話を聞かせてもらえるか?」
俺は、ばあさんたちからワルデットのアジトについての情報を詳しく教えてもらった。
実はこのカロシュにあるワルデットのアジトは一つではなく、少なく見ても百か所前後は存在するらしいのだ。
捕虜たちを収容している牢獄、ワルデットを製造する作業場、処刑場など中身も規模も様々。
もちろん、そのすべてにステルス機能が備えられており、外部から見つけるのは一般人にはまず不可能だ。
他所からさらってきた人間たちも街の外にある地下通路を通ってアジトへ連れていかれるため、今まで気づかれることはなかったというわけだ。
「なるほど。さっきあんたらがいたところは全アジトの中のごく一部に過ぎなかったというわけか」
「そうじゃ。ワシは半年前、ワルデットたちがこの家の近くで密会しているのを偶然見てしまったためにさらわれてしもうた。一緒にいた友人は殺されたがの。う、うう」
「そうか」
今回、救出した者たちの中には年老いた両親を置いてきた者、結婚を間近に控えていた者、仕事場での昇進がほぼ決まっていた者もいた。
酷なようだが、捕まっている間にすべてを失っていたなんてパターンも決して珍しくはないだろう。
俺はかける言葉が見つからなかった。
「八木、すぐにジミーさんに連絡をとれ」
「あ、援軍を呼ぶんすね?」
「そうだ。これだけの証人がいれば、もう十分だろうからな」
俺たちエイキュウカンパニーが、これからやることは定まった。
このカロシュにあるワルデットのアジトを一つずつ叩いていき、捕虜たちを解放していく。
そうすれば、ナカガワのいるアジトへも必ずたどり着けるはずだ。
「おっと、その前にこの捕虜たちを何とかしないとな。アジトの秘密を知っている以上は確実に狙われるだろうし」
俺はそっと玄関を開け、周りの様子を確認した。
だが、すでに家の前はジョグ率いるワルデットの大軍で埋め尽くされていた。
さらには、唯一の希望だった裏口前にも表から回ってきた奴らが立ちはだかり、完全に包囲された。
「ショウスケくん、こ、これってかなりまずいんじゃないすか」
「何てこった。突入でもされたら、確実に死人が出るぞ」
俺は表、八木は裏へ飛び出し、ワルデットたちとの戦いがはじまった。
「鬼ごっこはここまでだ、大上ショウスケ」
「ジョグとか言ったな。俺とやりたいんなら、場所だけ変えさせてもらえねぇか?」
「フン、そうなるよな。後ろを守りながらじゃ戦いづらいもんな。だが、聞けない相談だな!」
ジョグは両腕を振るい、斬撃の連打をばあさんの家めがけて飛ばした。
俺は鉄球デストンを装備し、何とか間に入ってガードしきった。
「はぁ、はぁ、そうきたか。ワルデットらしいこった」
「いい武器持ってんじゃねぇか。だが、これならどうだ!」
ジョグはドーピングし、背中にしょっていたノコギリを手に取り、地面に突き刺した。
すると地面は真っ二つに割れ、数メートル先にあった木は割れ目に落ちてしまった。
「この威力、まさか......」
「気づいたか、斬撃を武器にまとわせている。切れ味はさっきの比じゃないぞ。くらえば即アウトだ」
「くらえばの話だろうが」
俺の鉄球デストンとジョグのノコギリによる一歩も引かない攻防戦がはじまった。
一見すると互角のように見えるが、ジョグの攻撃武器はノコギリだけではない。
スキを見て足や目からも斬撃を放出し、攻撃できるのだ。
俺はジョグのノコギリだけでなく、全身に気を配らねばならず、キツイ展開となった。
「はぁ、はぁ。まいったぜ」
「フフ。嫌味か、そりゃ。よく回避している方だと思うぜ。だが、もう限界のはずだな」
「そうだな。俺よりもお前の武器がな」
「ん? な、なにぃぃぃ!」
ジョグのノコギリはボロボロの状態で、くずれはじめていた。
固い武器を相手に考えもなしにふりまくっていれば、当然の結果だ。
「く、くそっ」
「フン。夢中でふっていて気がつかなかったのか?」
「う、うわぁぁぁぁ!」
ジョグはやけくそな様子で、ボロボロになったノコギリで俺にせまってきた。
だが、数回、鉄球デストンを切りつけると真っ二つに折れてしまった。
それでも、ジョグは折れたノコギリで攻撃を続けた。
「この! この! うう」
「見苦しいな、死んだ武器をまだ使うか。潔く供養してやれよ」
「こんな、こんな鉄の棒なんか」
「ったくよ」
俺は折れたノコギリを蹴りではじくと、鉄球デストンをジョグの眼前に突きつけた。
「てめぇの負けだ。潔く認めろ」
「うう、こんなはずは」
勝負は決まったと思われた。
しかし、俺がジョグにトドメをさそうとした直後、家の方から悲鳴が聞こえてきた。
急いで中へ戻ると、攻め込んできたワルデットたちにより捕虜たちが捕まっている場面に遭遇し、万事休すとなった。
肝心の八木は後ろで雑魚ワルデット数人に押さえこまれており、すでに気絶している様子だった。
「ここまでか。だからあの野郎とはいっしょに行動したくなかったんだ」
俺は歯がゆい思いをしながらも、鉄球デストンを手放した。
そして、数十発殴られた後、縄で縛られて捕虜たちと共に連行された。




