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第三十三話「はじまるカロシュの旅」

「さぁ、見せてくれ」


 バラバとの戦いから二日後、俺はヒメと共にカホの部屋を訪れていた。


 ワルデットの力を無効化するアイテムがついに完成したので、その実験を行う事になったのだ。


「はい、これが新アイテムのエルアブソープです」


「ほぉ、ブレスレット型か。で、どうやって使うんだ?」


「ワルデット本体かワルデットの力を帯びたものに向かってかざすだけです。ええっと、拳銃フローズを貸してもらえますか?」


 カホは俺から拳銃フローズを受け取ると、エルアブソープを近づけてかざした。


 すると、エルアブソープは光りはじめ後、五分ほどたったところで元に戻った。


 カホによると、この後しばらく拳銃フローズは使い物にならないのだという。


「ショウスケさん、試しに拳銃フローズの引き金をひいてみてください」


「どれどれ、ん? んん? ホントだ、弾が出ねぇ。エネルギーのようなものも感じない」


「うまくいったようですね。エルアブソープが拳銃フローズの持つワルデットの力を吸い取ったんです」


「こいつは驚きだな」

挿絵(By みてみん)

 実験はその後も続き、次のような結果が出た。


 拳銃フローズ、短剣ムーブ、鉄球デストンは力を吸い取るのに五分程度かかり、力が戻るまでに一時間程度かかる。


 改造ワルデットであるヒメは力を吸い取るのに一時間程度かかり、力が戻るまでに十五分程度かかる。


 なので、どちらかというと、ワルデットそのものよりもワルデットの力を帯びた無機物向けのアイテムだといえるだろう。


「ワルデットのアジトがワルデットの能力で隠されているとしたら、見つけるのは容易かもな。よし、善は急げだ」


 俺はエルアブソープを持って、ジミーさんに会いに行った。


 すでにエルアブソープの話とカロシュにワルデットのアジトがあるかもしれないという話は他の支社にも伝わっていると聞くし、アジト探索の話は前向きに進められているはずだ。


「さらわれた奴らの救出を望む声は後を絶たない。今、やっと動くときがきたんだよ」


「たしかに本当なら今すぐにでもカロシュに乗り込むべきかもしれん。じゃが、他の支社の者たちは乗り気ではないようじゃ」


「は? なんでだよ!」


「情報をくれたのが前科者の八木じゃからな。奴の話などとうてい信用できないという社長たちがほとんどじゃったよ」


「......そういうわけかよ」


「どこの支社もヒマではないからの。ある程度の信憑性がないと、人を派遣したりなどせんじゃろ。ワシも含めての」


 ジミーさんの話はよく分かった。


 まずはこの第六支社だけでカロシュを探索し、ちゃんとした結果を出すしかないようだ。


 しかし、八木を信用していないのはこの支社の連中も同じ。


 一応何人かに声をかけてみたが、まともに話を聞いてくれる者はいなかった。


 まぁ、俺自身も八木を完全に信用しているわけではないので、文句は言えないのだが。


「はぁ、ぼっちで行かなきゃならない感じか」


 俺は準備のため、自室に戻り始めた。


 しかし、直後に後方から気配を感じたのですぐに後退し、逃げようとしていた八木を捕まえた。


「八木ぃ!」


「ははは、どうもっす」


「一度ならず二度までも。今度は何の用だ!」


「あ、あの、オラでよかったら、一緒に連れてってもらえないっすか?」


「分かった、分かった。気持ちだけもらっとくよ」


「そ、そんな、オラ一生懸命やるっすから」


「ふざけんな、任務中に何度も腹くだすような野郎は足手まといなんだよ! 寝言ほざいてるひまがあったらヘボな腕でも磨いてやがれ!」


 俺は腕を振り上げながらいかくし、八木を追い払った。


 むやみに死体を増やしたくないという俺なりの配慮のつもりだったのだ。


「今の八木の実力じゃ戦いの旅は厳しすぎるからな。さてと......」


 俺は自室に戻って準備を整えた後、第六支社を後にした。


 過酷な旅になるのは間違いないだろうが、絶対にナカガワの野郎をこの手で倒す。


 そう心に誓いながら、カロシュへと進んでいった。





「へぇ、ここがカロシュか。まじで......でけぇな」


 第六支社を出発した翌日の朝、俺はようやく大都市カロシュに足を踏み入れていた。


 噂には聞いていたが、とにかく広い上に人が多い。


 見上げるような高層ビルやタワーのようなものが多く存在し、他の街とは一線を画す巨大都市といった感じだ。


「ここからアジト一つ探すのは骨が折れるだろうが、ま、やるしかねぇか」


 俺はエルアブソープをかざし、起動させた。


 ここからは、少しずつ移動しながらエルアブソープの反応があるポイントを探していくことになる。


「しかし、カロシュの総面積は十九万二千平方キロメートル。俺がいた日本の約半分だもんな。はぁ」


 俺はその後、半日以上かけて南門近くの集落を探索し終えた。


 これはカロシュ全体から見れば微々たるもので、非常に物足りなさが感じられる。


 仮にこのまま全エリアを捜索し、何も発見できなければ、俺はただのアホだ。


「ちっく、いや、キレてもしょうがねぇしな。とりあえず、メシでも食うかな。ん? ああ!」


 俺はここにきて、所持金がほとんどない事に気づいた。


 今までは社内の食堂でただ飯を食らっていたので問題なかったが、長旅となると話は別だ。


 前に日本を旅していた時のように魚や野草をとってやりすごすという手もある。


 だが、この状況でよけいなものに時間と労力を使うのも考え物だ。


「まずいな、今の状況じゃ何かあってもろくな働きが出来ねぇぞ。物乞いでもやろってか」


 途方に暮れていると、前からやってきた男に一瞬のスキをつかれ、エルアブソープを奪われてしまった。


 男はよけいなことに足がかなり速く、人ごみの中をすり抜けるように進んでいった。


「あんのクソ野郎が、この状況に輪をかけやがって」


 俺は短剣ムーブを装備し、すぐに男の後を追いかけた。


 そして、百メートル近く進んだ廃ビル近くのゴミ置き場の前でようやく追い詰めた。


「......ははぁ、そういうわけかよ」


 エルアブソープを盗んだのは、老人風のワルデットだった。


 上級ではなかったが、俺が誰なのかは知っている様子だった。


「お前がこれをかざしながら歩いているのを見た。何か重要なアイテムなのじゃろう、大上ショウスケ」


「だったら、何だ?」


「お前がファンリンファン島でヴィノー様を討ち取った事は知っている。そんな奴にこの街をうろつかれちゃ、困るんじゃよ」


「ほう、やはりここをうろつかれると困る理由があるんだな」


「うるさい! さっさとこの街を出ないと、取り返しがつかないことになるぞ」


「フン、ずいぶん声に動揺が表れてんな。ヴィノーの一件を聞いてんなら、もう分かってるはずだ。このまま対峙し続ければどうなるかな。おとなしく盗んだものを返すってんなら見逃してやらんこともないが」


 これに怖気づいたのか、老ワルデットは急に黙り込んで後ずさりをしながら、エルアブソープを地面に置いた。


 俺はそのスキを見逃さず、老ワルデットめがけて接近し、短剣ムーブで斬り倒した。


「フン、バカが」


「き、たないぞ。はめおったな」


「てめぇらも散々やってきたことだろ。お互いさまだ。さて、ん? これは」


 何と、エルアブソープは光り始めていた。


 俺はすぐに拾い上げると、光の指す方角へと足を進めた。


「まさか、こんなにはやく見つかるとはな。つきまくってんな、おい」


 エルアブソープの光はその後、五分ほどで消滅した。


 これは、ワルデットの力を帯びた無機物が近くにあるという証拠だ。


「この辺に何か異変は? ん? あそこか」


 前方のレストランの近くに人だかりができていた。


 行ってみると、地面に扉のようなものが全開した状態で存在しているのを見つけた。


 集まっていた連中の話によると、ほんの数分前に何の前触れもなく、この場所に出現したのだという。


 これはカホが言っていたように上級ワルデットの能力で隠されていた可能性が高くなってきた。


 俺は周りに近づかないように厳重注意した後、扉の中に入り、階段をおりていった。


「ここがワルデット共のアジトだとしたら、敵だらけのはず。慎重にいかねぇとな」


 しかし、そんな思いとは裏腹に階段をおりていって着いた先は倉庫のようなところで、先の道はなかった。


 人の気配もワルデットの気配もなく、ただ木箱が大量に山積みされているだけだった。


「あてがはずれたか。しかし、これは一体?」


 木箱の中を調べようとしていると、またエルアブソープが光り始めた。


 そして、さっきと同じように五分程度で光り終えた後、木箱の奥の壁面に扉が出現した。


「これもさっきと同じで存在に気づかなかった。なるほど、二重式のステルスか」


 今度は扉の奥から強い殺気のようなものが感じられる。


 俺は扉を開き、短剣ムーブをかまえて前に進んでいった。

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