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第三十一話「敵将との会話」

「とりあえず、この辺でいいだろう」


 追いかけてくるヴィノーをまいた俺は、じいさんを行き着いた洞窟の中へと運んでいた。


 しかし、相手は空を飛んでいるんだし、追いつかれるのは時間の問題。


 すぐに戦闘の準備を始めた。


「さて、暴れてやるか」


「うう、小僧、苦しい。か、介錯してくれ」


「足の怪我くらいで何言ってんだ! やられっぱなしでくやしくねぇのかよ!」


「く、くやしいわい。家族や仲間を殺された上にこんな目にあわされて......」


「そう思うんだったら、意地でも生きろ。死んじまったら、奴の思うつぼだぞ」


「う、うう」


「いいか、俺が戻るまでここを動くんじゃねぇぞ」


 俺は洞窟を飛び出し、目の前に迫っていたヴィノーを拳銃フローズで攻撃した。


 その後は洞窟から離れながら攻撃を続け、本格的な戦闘へと突入した。


「いい飛び道具だね」


「その手についた皮みたいなのを凍らせて動きを封じれば飛べやしないだろう」


「弾が当たればの話だろ?」


 ヴィノーは軽々と連射される弾を避けていった。


 そして、わずかな隙をついて懐からナイフを取り出し、俺に投げつけた。


「う、ぐっ」


「ボクはこの広い空を自由に飛びまわれる。せまい大地を歩く事しかできないお前とどっちが有利か分かるだろう」


「小さい弾をちびちび撃ったってラチがあかねぇ。こうなったら」


 俺は右手に拳銃フローズ、左手に短剣ムーブを持ってドーピングし、拳銃フローズに膨大な体内エネルギーをこめると、巨大な冷気の塊を発射した。


 しかし、ヴィノーもすぐにドーピングして避けた事で右の皮膜がわずかに凍結しただけに留まった。


「ちっ、どういう事だ。なぜ、人間がドーピングを」


「フフ、それはな、う、ぐ!」


 またあの激しい痛みが俺の胸を襲った。

挿絵(By みてみん)

 ヴィノーはその隙をつくように急降下し、俺に掴みかかってきた。


「ぐ、ぐ、この」


 俺は宙づり状態のままで空へと連れ去られた。


 このまま高い位置まで運んだところで落下させるつもりなのだろうが、そうはいかない。


 すぐに体を起こし、ヴィノーへ掴みかかった。


 しかし、手が届く前に態勢を整える事が出来ず、近くの木に叩き付けられた上に地上へと落下した。


「ぐ!」


「はぁ、はぁ。もう近づくのはやめだ。これでどうだ!」


 ヴィノーは足についている小さな羽根を連続で飛ばしてきた。


 これが非常に厄介で、軽くて速い上に刺さると簡単には抜けず、苦しめられた。


 拳銃フローズで撃ち落としても、短剣ムーブの高速移動で避けても、ただこちらの体力が削られていくだけ。


 羽根は飛ばしても十秒もあれば生えかわっているので、ヴィノーの攻撃が止むことはないのだ。


 おまけにこちらはドーピングの反動に容赦なく襲われてるわけだし、状況はだんだん悪くなっていった。


「くそ、上からネチネチと。降りてきやがれ!」


「い、や、だ、ね。くやしかったら、ここまできてみろよ」


「野郎。う、ぐぐ。また痛みが」


 このままでは、やられるのは時間の問題だ。


 俺は一旦ドーピングを解き、近くの木に紛れながら身を隠していった。


「はぁ、はぁ。空飛んでる敵ってのは本当に厄介だな」


「おーい、どこだい? 隠れても、苦しみが長引くだけだよ」


「くそ、奴め! 何かいい手は......」


 俺は頭をフル回転させ、とにかく策を練った。


 ジミーさんがダンガ戦でやったようにどんな敵であっても弱点があり、つけば突破口が開けるはず。


 それは今戦っているヴィノーも例外ではないはずだ。


「奴は皮膜を使って飛行している。皮膜さえどうにかすれば、ん? 皮膜?」


 俺はここで疑問を抱いた。


 さっき、ヴィノーは俺を持ちあげたときに両腕を使っており、皮膜で飛んでいるようには見えなかった。


 かわりに足を小刻みに動かしており、羽根を飛ばしてきたときもそれは同じだった。


 俺はもしかしたら、大きな勘違いをしていたのかもしれない。


「......少し、試してみるか」


 俺は再びドーピングしてヴィノーの前に現れ、飛んできた羽根を短剣ムーブで撃ち落とした後、両足に刺した。


 そして、空中に向かって思いっきり両足をばたつかせると、飛行する事が可能になった。


「狙いは正しかったな。お前は足についている羽根の力で飛行してたんだ。皮膜はただのカムフラージュに過ぎない」


「うう、くそ」


「羽根を飛ばしてきたとき、必ず一本は足に残していたのはそのためだろ? ま、羽根の力が自分以外にも効果があるとまでは思わなかっただろうがな」


 これはすべて図星だったようで、ヴィノーは激しく動揺している様子だ。


 俺は両足を激しく動かし、一気にヴィノーに接近した。


 空中の移動はさほど難しくなかった。


 水の中を泳ぐような感覚で動けばすらすら進めるし、意外にも地上を走っているときよりもはるかに消耗しなかった。


「こりゃいい。さぁ、こっからだ!」


「うう、来い」


 激しい空中戦がはじまった。


 無数に飛んでくる羽根と拳銃フローズの弾の激しいぶつかり合い、接近しての殴る蹴るの肉弾戦。


 非常に拮抗しているかに見えたが、ヴィノーの顔からは余裕が完全に消えていた。


「う、うう。うあ!」


「どうした? 空飛ぶワルデットが空中戦で負けていいのか?」


「く、くそっ、覚えていろ!」


 ヴィノーは羽根を連続で飛ばした後、逃走を開始した。


 しかし、背を向けた事が仇になり、俺が放った拳銃フローズの連弾をくらって地上へと落下していった。


「う、うわぁぁぁ!」


「オラぁ!」


 俺はすぐに急降下し、ヴィノーめがけて短剣ムーブを振り下ろし、斬り伏せた。


 その後は、何というか見るに堪えなかった。


 ヴィノーは涙と鼻水を垂らしながら這いずり回り、ついには命乞いまではじめてしまった。


「ゆ、許してよ、勘弁してよ。ボクは子供なんだよ」


「ガキの姿してても、凶悪なワルデットに変わりねぇだろうが。ガキだろうと、赤子だろうと、悪党を差別するつもりはねぇよ」


「う、うう」


「てめぇは脅されていたわけでも、洗脳されてたわけでもねぇ。自分の意思でナカガワに加担してたんだろうが。許されるわけねぇだろうが!」


 俺はヴィノーにトドメをさし、直後にドーピングの反動によりその場に倒れこんだ。


 それでも何とか体を起こし、ふらつきながらじいさんの元へ戻った。


「はぁ、はぁ。わ、悪い、遅くなっちまった」


「小僧。まさか、ヴィノーを倒したのか?」


「ああ。ほら、戦利品もある」


 今回の戦いで入手できたのは、ヴィノーのリングと絶目石と小型のトランシーバーの三つ。


 それを見たじいさんは急に土下座し、泣きながら俺に礼を言った。


「感謝してもしきれん。これで、これで仲間たちもうかばれる」


「ああ、分かったから、顔上げろよ。あ、ところで、この絶目石は?」


「もちろん、持っていってくれ。今のワシにはそれしか礼はできないが」


「そうか。じゃ、帰ろうぜ」


 俺はじいさんを村へ送り届け、ようやく帰路についた。


 ここまで予想以上に時間がかかったため急いでいると、ヴィノーから回収したトランシーバーが鳴り始めた。


「一応出てみるか。もしもし」


「ヴィノー、ずいぶん報告が遅いじゃないか。上官を怒らせた者がどうなるか忘れたわけじゃあるまい」


「ヴィノー? 上官? ははぁ、そいう事か」


 話の内容から考えて、間違いない。


 今、トランシーバーの向こう側にいる相手は、ワルデットたちの元締めである科学者ナカガワだ。


「まさか、直接話せる日が来るとはな。ヴィノーはもういないぜ、ナカガワ。さっき、俺が葬ったからな」


「ほほう、ヴィノーを。キミは誰だい?」


「エイキュウカンパニーの大上ショウスケだ」


「......ああ、ハッカーが話していたおもしろい若者か。はじめましてだね」


「てめぇも首洗って待ってろよ。必ずアジトに攻め込んでやるからな」


「はっはっは、できもしない事を。仮に来れたとしても、ゴキブリみたいに汚く潰されて死んでいくだけさ。ちょうど、その島で殺した低脳な虫けら村民共のようにね」


 ここでナカガワとの通信はプツリと切れた。


 たった数秒間の会話ではあったが、ナカガワは想像した通りの人間らしい心が残っていない人間だと分かった。


 そして、奴をこのまま野放しにすれば、どういう結果になるのかも分かった。


 俺は荒れた村の方に拳をかざし、必ずナカガワを倒すと亡き村民たちに向けて誓いを立てた。

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