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第二十七話「因縁と再戦」

「はぁ、はぁ。どうだ?」


「......よかろう、合格じゃ」


 屋内ジャングルで訓練をはじめて二日目の朝。


 俺はジミーさんの見ている前でドーピングし、襲ってきたサルたちを打ち負かしていた。


 今までネックとなっていた発動にかかる時間は、四秒ちょっとにまで短縮でき、十分な余裕が生まれた。


 早く実戦に出て、腕試しがしたいものだ。


 というわけで、ジミーさんに思い切って懇願してみる事にした。


「たのむよ。なっ」


「ん? まったく、運のいい奴じゃ。たった今、ワルデット出現の連絡が来たところじゃ」


「何! 本当か!」


「出撃は認めてやる。ただし、ヒメを目付役としてつけるがな」


「よっしゃ! そうこなくっちゃな」


 俺はやる気満々で屋内ジャングルを出ていった。


 何しろ、約一か月ぶりの実戦で、しかも上級ワルデットまでいるという。


 現場に着くと、すぐに先陣を切って戦闘態勢をとった。


「さてと、敵の親玉はどいつだ?」


「あ、ショウスケちゃん、あれ!」


「......おいおい、マジか」


 ヒメの指さす先にいたのは、第九支社にいた時に戦った上級ワルデットのハッカーだった。


 高い戦闘能力と不死身の肉体に苦しめられたのは、今でも鮮明に覚えている。


 まさか、このタイミングでリベンジのチャンスがくるとは、訓練をクリアした褒美とでもいうべきだろうか。


「へへ、俺はあいつの相手をする。ヒメ、お前は雑魚どもをたのむ。絶対に手は出すなよ」


「あ、ちょっと!」


「ハッカぁぁぁぁ!」


「ん? 貴様はあの時の小僧」


「おう! あの時は着けられなかった決着を着けに来たぜ」


「それは俺のセリフだ。人間如きがワルデットに逆らった報いを受けろ!」


 ハッカーはツメをかまえ、切りかかってきた。


 俺は装備した短剣ムーブの力で即座に回避し、背後に回ってハッカーの背中を切りつけた。


「くそ、浅いか」


「フン、いい武器を手に入れたじゃないか。あれから、じっと待っていたわけではなさそうだな」


「当たり前だろ」


「だが、それは俺も同じだ。ただ修復されていただけだと思うな」


 そう言うと、ハッカーは右手をくるりと右に回した。


 すると、奴の右手についていたツメは瞬時に変形し、小型の大砲に変わった。


「武器が変わった」


「フフ。さぁ、よけてみろ」


 ハッカーは俺に狙いを定め、弾を発射した。


 難なく短剣ムーブの高速移動で避けたものの、弾は軌道を変えた後、再び向かってきた。


 その後、避けても避けても、弾は俺を執拗に追い続けた。


「くそ! 何だ、こりゃ」


「追尾式の弾だ。ロックオンした相手に当るまで追い続けるぞ」


「だったら......」


 俺はとっさに近くの古小屋に逃げ込み、扉を閉めて、弾を防いだ。


 シャッターを中心とする古小屋の前面は破壊されたが、奥に逃げ込んだ俺は何とか難を逃れた。


「ふー、あぶねぇ」


「やるな、とっさに間に障害物をはさむとは。では次はこれだ」


 ハッカーは再び右手をくるりと回し、今度はとげのついた鉄球を装備し、古小屋から出てきた俺にふりかざした。


 紙一重で避けたものの、命中した地面には大きな穴が開いた。


「フン、破壊力ならコイツも負けないぞ」

挿絵(By みてみん)

 俺は鉄球デストンを装備し、重量級の武器同士の戦いがはじまった。


 重さそのものなら鉄球デストンの方が上らしく、ハッカーは押されていった。


 だが、わずかに気を抜いた瞬間、鉄球のとげが俺めがけて飛んできた。


 とっさに体を丸めたものの、すべてを防ぎきる事はできず、数本のとげが顔や手足にささってしまった。


「くそ、押されているふりをして、これを狙っていたのか」


「フン、いくら何でも至近距離からの全方向攻撃は避けきれない。さぁ、ひと思いに首をはねてやろう」


 ハッカーは今度は右手を巨大な刃物に変えた。


 この距離、残った体力、周りの状況を考えれば、やるのは今がベストだ。


 俺は座り込み、右手に短剣ムーブ、左手に鉄球デストンを持ち、ドーピングを開始した。


「集中、集中」


「何のつもりかは知らないが、戦闘中に座り込むとは血迷ったか」


 ハッカーが俺の首めがけて切りかかったその時だった。


 立ち上がった俺はハッカーの刃物をつかみ、そのまま投げ飛ばした。


「へへ、成功したようだな」


「ドーピング、なのか? なぜ人間のお前が」


「フン、何を驚いている。ワルデットのくせにドーピングがそんなに珍しいのか?」


 動揺するハッカーに俺は掴みかかり、投げ飛ばした。


 さっきとはケタ違いのパワーにケタ違いのスピード。


 間違いなく、これは上級ワルデット級の力だ。


「ヒメに感謝しねぇとな。まさか、たった数秒でここまで余裕ができるとはな」


 ドーピングの訓練中に指摘されていた事だが、リングをもたない俺はドーピングするのにどうしても時間がかかる。


 十秒という一見短い時間ではあるが、戦場では十分命取りになる時間だ。


 だが、一つの武器からエネルギーを吸収するのに時間がかかるのなら、二つの武器から同時にエネルギーを吸収すればいい。


 単純な事だったが、これにより、十秒かかったドーピング発動までの時間が四秒ちょっとにまで短縮された。


 十秒ではあせらずドーピングするには心許ないが、四秒ならば余裕はある。


 ドーピング発動に要する時間が短くなった事で、あせって集中力が途切れるという問題も見事に解決されたのだった。


「実験は終わりだ。さぁ、来いよ、ハッカー」


「う、うう。なめるな、小僧が!」


 起き上がったハッカーは、右手を巨大なムチに変えて攻撃してきた。


 俺はそれを蹴りで弾いた後、ぐいっとつかみ、そのままツメで叩き切った。


 そして、ハッカーが怯んだスキに真上に回りこむと、頭を押さえ、地面に押しつけた。


「終わりだ。首だけにして持ってかえってやるよ」


 俺がツメをふりかざした瞬間、異変は起こった。


 突如、胸が熱い針で刺されるように痛みだしたのだ。


 何が起こっているのか分からなかったが、苦しんでいる間にハッカーが身を起こしてしまった。


「フフフ。なるほど、そういう事か」


「ハァ、ハァ」


「人間が何のリスクもなしにドーピングを使えるわけはないよな。どうやら、その代償がこれのようだな」


「く、くそ」


「バカな奴だ。人間のくせにワルデットの真似事などするからだ」


「黙ってろ、さっきまで押さえつけられていたくせによ」


「言ってろ、下等生物が。仮にさっきの力を何時間使えたところで俺は倒せない。俺はダメージを蓄積しない不死身の体だからな」


「ハァ、ゲホッ!」


「まぁ、安らかに眠ってくれよ」


 ハッカーはまだ苦しみの抜けていない俺を蹴り倒し、頭をぐりぐりと踏みつけながら、左手のツメをかまえた。


 だが、どういうわけか、攻撃は来ない。


 すでにハッカーの左手はカチンカチンに凍っていたのだ。


「うぐぐ、これは......」


「ゴメン、見てられなくなっちゃった」


「ヒメ、手を出すなと言っただろ」


「無理しないの。叫ぶだけでも苦しいはずでしょ」


「改造ワルデットのユキコ・オッシツだな? ちょうどいい、貴様から先に消してやる」


「はぁ、やる気なのね」


 ヒメは俺を担ぐと、ハッカーとは逆の方向へ歩きはじめた。


「逃げる気か?」


「うん、だって死なない相手と戦ってもしょうがないもん」


「フン、まぁ正論だな。だが、逃がすわけにはいかんな。貴様を殺していけば、ナカガワの野郎に大きな顔をしていられるからな」


 ハッカーは右手を炎の拳に変え、攻撃してきた。


 手の平から冷気を発射して応戦するヒメだったが、俺に気をとられ、なかなか狙いを定められない。


 ハッカーの炎の拳はただ殴るだけでなく、火の玉を飛ばす事も可能で、ヒメは遠距離からの連続攻撃を受け続けた。


「あつっ、もう」


「ヒメ、おろしてくれ。俺がいたら、戦え、うぐ!」


 強がろうにも、ドーピングの反動は容赦なく俺を襲った。


 悔しいが、ここはヒメに身を任せるしかなさそうだ。

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