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第十三話「目覚め始めた力」

「はぁ、はぁ。ソウジ、大丈夫かよ?」


「うん。しかし、こんなことになるとはね」


 トクヤマとの戦闘後、ゴミ屋敷を出た俺とソウジはひたすら身を隠しながら行動していた。


 好ましくない行動だというのは分かっていたが、どうしようもなかったのだ。


 戦闘中、俺がトクヤマに浴びせたパンチのダメージがソウジにまで及んでしまったからだ。


 わけが分からなかったが、対処法が分からない以上は戦い続けるわけにもいかず、こうして逃走を続けるしかなかった。


「はぁ、はぁ。おそらくは、奴が唱えた妙な呪文が関係してるんだろうな」


「うん。おそらくはあれによってボクと彼の体はつながってしまったんだ。彼もボクと同じ改造ワルデットだから、何か特殊な力を持っているとは思っていたけど......ん? あ!」


「ここにいたかぁ!」


 とうとう、トクヤマは俺たちに追いついてきた。


 しかし、奴とソウジの体がつながっている以上、うかつなことはできない。


 俺は怒りと共に必死に拳を押さえた。


「ぐうう」


「フフ、俺の両手の甲にある黒い点を見てみろ。これが俺とあの小僧がつながっている証さ。分かっているよな? 俺を殺せば、あいつも死ぬことをよ」


「ショウちゃん、ここはやっぱり逃げるしかないよ」


「おっと、バカな真似はよせ。これ以上逃げたら、その辺の住民共をぶち殺すぞ」


 その一言で、俺は完全に逃げ場を失った。

 

 こうなった以上は、ひたすらに防御と回避に専念して、耐え続けるしかないだろう。


「くそ!」


「さーて、どこまで友達を庇えるか、見ものだな」


 トクヤマは、俺が攻撃できないのをいい事に、完全なノーガード戦法でガンガン攻めてきた。


 奴ほどの戦闘能力を持った者がそんな戦法を使えば、強力なのは言うまでもない。


 俺はわずか一分ほどでガードを崩され、一方的にタコ殴りにされた。


「ぐぐ、くそ」


「攻撃したかったら、してもいいんだぜ? 友達が死んでもいいならな」


「ショウちゃん、ボクの事はいいから、攻撃してよ!」


「バカヤロウ! 俺は自分可愛さにダチを捨てるようなクズじゃねぇんだよ!」


「だったら、ボクがやる」


 ソウジは負傷した俺を後ろへ下げ、トクヤマの前に立ちはだかった。


 そして、躊躇もせずに高速移動をはじめ、攻撃を開始した。


「うおぉぉぉ!」


「キサマ、自分ごと俺をやろうってのか」


「当然だ。ボクはエイキュウカンパニーのリーダーなんだから」


 ソウジは怒涛の勢いでトクヤマを攻め続けた。


 当然、それによって自分の体にもダメージが蓄積されていくわけだが、その後も攻撃の勢いが衰える事はなかった。


 一方のトクヤマは、自分にダメージが及ぶのをおそれてか、攻撃ができないでいた。


 ここに両者の覚悟の差があらわれたといえる。


「な、なんて奴だ。若造のくせに」


「はぁ、はぁ、これで最後だ!」


 ソウジは至近距離からトクヤマの顔面を殴り、倒した。


 だが、その直後に自身も倒れ、激しく息切れしながらも、俺の名前を呼んだ。


「ソウジ......何とか命はあるようだな」


「うん。でも、彼も生きている。油断しないで」


「ああ。ん? 奴は......ああ!」


 トクヤマは体を震わせながら、丸薬のようなものを口に入れていた。


 すると、奴の体中にあった傷はみるみる消えていき、最終的には戦闘前と何ら変わらない状態へ戻った。


 だが、ソウジの方は特に何の変化もなかった。


「どうなってんだ、おい。ああ!」


「やっと気づいたようだな」


 トクヤマの両手の甲にあった黒い点は消えていた。


 どうやら、見事にはめられてしまったようだ。


「もし、重大なダメージを負った時は能力を解いて、さっきの丸薬で自分だけ回復する。そういう手順だったんだな」


「ああ。まぁ、調合が難しい希少な丸薬だから、本当はこんなところで使いたくなかったんだがな」


 最悪な状況になってしまった。


 ソウジは既に戦える状態じゃないし、俺も相当に消耗した状態だ。


 これ以上やり合えば、死人が出ても、何ら不思議はないだろう。


「まずいな」


「安心しろ、能力はもう使わない。正々堂々と勝負してやるよ」


「自分だけ回復しといて、何が正々堂々だ。このブタ野郎が」


「......お前、この状況が分かってんのか?」


 トクヤマは勢いよく突進し、俺の首をガッと掴んできた。


 その後はほとんど何もさせてくれず、殴る、蹴る、投げ飛ばすの嵐だった。


 この状態が続き、俺が死ねば、ソウジもトドメを刺されるだろう。


 頭ではわかっているのだが、体は言う事を聞いてくれそうになかった。


「動け、根性なしの体め。動きやがれ」


「しぶといな。さっさと死ね」


 トクヤマは意識が朦朧としている俺を踏み倒し、拳を振り上げた。


 しかし、その後、奴は攻撃してくるどころか、苦悶の表情を浮かべていた。


 何が起こったかは分からなかったが、俺の拳で腹が大きくへこんでいたのだ。


「何なんだ。ん? そういえば、体が勝手に動いたような」


「ぐおおおおお」


 トクヤマはしばらく地面を転がった後、外壁につかまりながら立ち上がり、ズボンの中から注射器を取り出した。


 そして、それを自分の腕に突き刺し、肉体をさらに強靭なものに変えた。


「ひひひひひ」


「まさか、ワルデットの細胞をさらに取り込んだのか」


「ひひ。そうさ。力が足りなければ、足せばいいだけなんだ」


 トクヤマはどんどん肉体を強化しながら、俺へと迫ってきた。


 しかし、その途中で倒れ、涙目になりながら、うめきはじめた。


 どうやら、過度にワルデットの細胞を取り込んだ反動が来たようだ。


「ああああああ! ぐるじい」


「おい、ソウジ。奴は」


「残念だけど、助からないよ。あれが強すぎる力の代償だ」


 トクヤマはその後、俺たちに助けを求めるような仕草をした後、完全に絶命した。


 酷な言い方だが、自業自得という他ないだろう。





「はぁ、またここかよ」


 トクヤマとの戦闘後、会社に戻った俺は集中治療室に運ばれ、傷の手当てを受けていた。


 そこで眠りに落ちてしまったらしく、気づいたときには、この前の夢に出てきた岩場にいた。


 これも夢なのかどうかは定かではないが、おそらくはあの黒人間もいるはずだ。


「おい、黒人間! 隠れてねぇで、出てきやがれ!」


「そう怒鳴るなよ、ショウスケ」


「う!」


 すでに黒人間は俺の背後にいた。


 ついさっきまでは、たしかに何もいなかったはずなのに、この状況。


 やはり、こいつは只者ではないようだ。


 俺は前を向いたまま、動く事が出来なかった。


「お前、一体何者なんだ?」


「この前言ったじゃないか。俺はもう一人のお前だって」


「くっ! それが何かって聞いてんだよ!」


 俺は意を決して振り向くが、同時に黒人間に掴みかかられた。


 だが、この前と同じ展開にする気なんてない。


 ありったけの力で抵抗した。


「うううう。うう」


「無駄無駄。力で俺に勝てるわけが......ん?」


「おおおおおおお!」


 俺はさらに全身に力を込め、黒人間の手を振りほどいた。


 そして、全力で押しあった後、奴を持ち上げ、岩に叩き付けた。


 こんなに必死になってではあるが、ようやく一矢報いれたようだ。


「はぁ、はぁ。俺をなめんじゃねぇぞ」


「フーン。まさか、これだけの力を持っていたとはね。トクヤマと戦った時、よけいな事をしなくてもよかったかもな」


「何! どういう事だ?」


「それもこの前話しただろ。人間でなくなるのと引き換えに強大な力を手に入れるって。それが目覚め始めたのさ」


「え? じゃあ、あのときトクヤマに致命傷を与えたのは......あ、おい!」


 俺が動揺している間に黒人間はさっさと逃げていった。


 その際、哀れみのような眼差しを向けられた気がしたが、真相は不明。


 何にせよ、これをただの夢だと片づけるわけにはいかないだろう。


「強大な力......それと引き換えに人間でなくなるか」


 黒人間の言葉を考え続けた俺は、力を求めて死んでいったトクヤマの姿を思い浮かべてしまった。


 人間でなくなるというのは、人間でない生物になってしまうという意味なのか?


 それとも、トクヤマのように死んで土に帰ってしまうという意味なのか?


 無知な俺には、分かるはずもなかった。

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