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第一話「ここはどこだ?」

 俺の名は大上(おおがみ)ショウスケ。


 家族も家もなく、もう何年も放浪生活しているニート野郎だ。


 長所と言えば、ケンカが強いという事。


 毎日、見つけた不良たちとケンカしては金を巻き上げるのが日課だ。


 基本的に、不良かケンカをしかけてきた相手にしか手をあげないという自分なりのポリシーはあったが、やはり警察の世話になる事も多く、もはや俺自身も筋金入りの不良と言えた。


 しかし、俺からケンカをとったら、何が残るだろうか?


 そもそも、ケンカしているとき以外で生きていると実感できるのだろうか?


 めずらしく自問自答しながら歩いていると、ガラの悪そうな学生と肩がぶつかった。


 気が早い事に向こうから突っかかってきたが、しょせんは口だけだったようで、俺が放った腹への蹴り一発でダウンしてしまった。


「う、ぐぐぐ」


「さあ、てめぇの負けだ。財布をもらっとくぞ」


「くそ!」


「何だ、その目は。どうせ、誰かから巻き上げた金だろ。俺が有効に使ってやるよ」


 俺が立ち去ろうとしていると、学生は後ろからしがみつき、サッと財布をとって逃げていった。


「と、と、とられてたまるか」


「待て、コラ! てめぇがしかけたケンカだろ、ちゃんと落とし前つけろ!」


「勘弁してくれ! これがないと、大好きなシンナーが吸えないんだよぉ」


「ったく、何を堂々と悪事を白状してんだ。なら、なおさら没収だな」


「はぁ、はぁ。くそ」


 学生はその後、五分くらい逃げ続け、町はずれにある森へ入っていき、俺もそれに続いた。


 しかし、何か変だった。


 森の中に入った途端に辺りが真っ暗になり、入る前はあったはずの木や草も見当たらない。


 そして、入ってきた方向を見ても、普通なら見えるはずの外の景色がまったく見えなかった。


「どこを見ても真っ暗だ。一体どうなってる......ん?」


 かすかだが、東の方から叫び声が聞こえたので、行ってみると、さっきの学生が黒い渦のようなものに飲み込まれる瞬間を目にした。


 そして、俺自身もその黒渦が発する引力に引っ張られ、飲み込まれ始めた。


「ぐ、ちょっと待て! これは、ぐ!」


 ろくな抵抗もできず、俺の体は黒渦の中に入り、乱回転しながら奥へ奥へと吸い込まれて行った。


 そして、目を回しながら行き着いた先はゴミ処理場のようなところで、あたりには重機や廃材のようなものがいくつもある。


 さっき、俺を吸い込んだ黒渦も消えているし、そもそも森の中へ入ったはずなのに、なぜこんなところに出てしまったのか。


「どう解釈すりゃいいんだ。俺は一体......ん?」


 見ると、重機の後ろに人が隠れていた。


 俺が気づかれないようにそっと近づき、声をかけてみると、さっきの学生が体を丸めながら震えていた。


「う、うううう」


「お前......いや、ちょっと待て!」


「うう」


 学生の髪は、さっきとは打って変わって真っ白になっていた。


 このおびえようから察すると、何かそうとうおそろしいものでも見たのだろうか。


「くぅ、う」


「お前、その髪どうしたんだ?」


「あ、いや。これはその、白髪染めがとれちゃって」


「そっか、染めてたのか......んなわけねぇだろ! いいから、本当の事を話せ!」


 俺がいくら問い詰めても、学生は下を向いたまま、それ以上何も話そうとしなかった。


 しかし、さっきから左の方向をチラチラ見ているし、そこへ行けば何か分かるかもしれない。


 そう思いながら足を進めると、すぐに異変に気づいた。


 奥の方に何人も人が倒れているし、鈍い音も聞こえる。


 これは、近くで楽しいケンカが行われている証拠だ。


「血が騒いできたな。ん?」


 突如、ナイフを持った男が俺の目の前に現れ、襲いかかってきた。


 そして、その後方からはスタンガンを持った男が現れ、ナイフ男に加勢した。


「へへ、楽しそうだな」


「まだ何もしてねぇのに攻撃とはな。ま、俺もその方がうれしいが」


「フン、余裕だな。二対一だぞ。少しはおびえろよ」


「ちっ、こんな奴は俺一人でも十分なのに、勝手に加勢しやがって」


「いいさ。それくらいのハンデはくれてやるよ」


 二体一の戦いが始まった。


 この二人、力は強いが、はっきり言って動きはそれほどでもない。


 俺が普段戦っている不良共よりは強いが、常人の域を出ているとは言いがたいだろう。


 結局は、力押しで雑な戦いを続けた末に武器も破損し、俺の蹴りで二人まとめて倒れてしまった。


「ぐう」


「ちくしょう、これなら加勢に入るんじゃなかった」


「よえーな、お前ら。どうやったら、あんなしょぼい蹴りで倒れられるんだ?」


「うう、くそ。こうなったら」


「バカ、よせ。何もここでそれを使わなくても」


「うるさい、やられるよりはマシだ」


 ナイフ男は、何やら制止しようとしているスタンガン男を突き飛ばし、自分の首に装着されている黒いリングに爪を突き刺した。


 すると、次の瞬間、ナイフの男の目は赤く染まり、口から赤い牙が生え、手には赤い爪が生えた。


「ひひひひ」


「な、何だ、そりゃ。何が起きたんだ」


「うぉぉぉぉぉ!」


 ナイフ男は、ものすごいスピードで俺に突進してきた。


 俺も力一杯のパンチで応戦するも、奴は吹き飛ばされず、逆に重いパンチを浴びせてきた。


「うぉぉぉ!」


「く、やるじゃねぇか。殴られるなんてひさしぶりだ」


「うぉぉぉ、うぉぉぉぉ!」


「な、何だ、こいつ。言葉が通じてないのか」


 俺が身構えていると、背後からスタンガン男が飛びついてきた。


 そして、そのスキをつくように、ナイフ男は俺の肩にかみついた。


「ううう」


「なるほど、そうこなくちゃな」


 俺は、スタンガン男の手をつかんで地面めがけて投げ飛ばした後、ナイフ男の顔面を至近距離から殴った。


 スタンガン男は倒れて動かなくなったが、ナイフ男は立ち上がり、不気味なうねり声を上げながら再び向かってきた。


「うう」


「おいおい、こりゃ、本格的なケンカができそうだな」


「う、が、く、く」


 すでに限界だったらしく、ナイフ男は倒れ、首からリングが外れた後、体がぼろぼろにくずれた。


 さっきの変貌ぶりからおかしいとは思っていたが、やはり普通の人間ではなかったようだ。


 その後、ナイフ男の残骸を調べると、奴の装着していた黒いリングと鉄くずのようなもの、土の塊のようなものを発見した。


「へぇ、こんなもので出来てたのか。最近の科学力ってすげぇんだな。ん?」


 足音が聞こえたので振り向くと、ぼろぼろの服を着たおっさんがこっちへ向かってきていた。


 顔は真っ赤で、何だかフラフラしてるし、どうやら酔っ払いのようだ。

挿絵(By みてみん)

「よう、兄ちゃん。へっへっへっへっへっへっへ!」


「何がそんなにおかしいんだ? つーか、何て酒のニオイだよ。どんだけ飲んでんだ」


「タル二本だ、へへ。だが、家にある分きらしちまってよ。なっ、おごってくれよ」


「はぁ」


 バカには付き合いきれないと呆れたが、ふと思った。


 家があるという事は、このおっさんがここに来たのは昨日や今日の話ではないはず。


 うまくいけば、何か情報を聞き出せるかもしれなかった。


「今の俺の全財産は五百円。まぁ、この場合はしかたないか」


 その後、俺が酒代を出す代わりにおっさんの家に泊めてもらうという事で話はまとまった。


 しかし、その後の移動中、おっさんは道の真ん中で立小便をはじめた挙句、その場に倒れて動かなくなった。


 人間ってのは、ここまで不潔になると、汚れることに躊躇しなくなるんだなと、もはや感心するレベルだ。


「......おっさん」


「ああん。兄ちゃん、おんぶしてよぉ」


「ああ、もう! やりゃいいんだろ、やりゃ!」


 俺が、おっさんを抱えようとしていると、背後から銃声が聞こえた。


 振り向いたときには、武装した男たちに包囲されており、後方からも援軍と思われる連中がこちらへと向かっていた。


 奴らの首には、さっきの戦った二人と同様に黒いリングが巻かれていた。


「間違いなく仲間だな」


「お前だな、俺たちにケンカを売った命知らずってのは。探したんだぜ」


「ん? お前」


 よく見ると、さっきのスタンガン男も連中の中に混じっている。


 どうやら、さっきのナイフ男の敵討ちと見て間違いないようだ。


 俺は、さっそく連中を迎えうとうとするも、突然起き上がってきた酔っ払いのおっさんに阻まれた。


「うぉぉぉぉ!」


「待て、おっさん。急にどうしたんだよ」


「うぉぉぉぉ!」


 おっさんは、連中めがけて突っ込んでいくが、あっけなく捕まり、袋叩きにされた。


 そして、俺の方にもスタンガン男率いる男たちが襲い掛かってきた。


「さっきは負けたが、今度はこの数だ。きっちり、お返しさせてもらうぞ」


「ったく、ケンカは数じゃねぇだろうが」


「そういうのは勝ってからいいやがれ!」


 凄むスタンガン男だったが、やはり数が増えただけだった。


 男たちは、俺のパンチを一、二発くらっただけで倒れていき、勝負は一方的な展開となった。


 しかし、その横ではおっさんが男たちに暴行されながら口に砂をねじ込まれ、泣きながら悶絶していた。


「ふががが」


「ったく、見ちゃいらんねぇな。ん? うおっ!」


 少し目を離したスキに、倒れていた男たちは異形の姿へと変わっていた。


「目が赤く、赤い爪と牙。ナイフ男の時と同じだ」


「うぉぉぉ!」


 奇声と共に男たちが次々と突進してきた。


 やはり、ナイフ男の時と同じく、あの姿になると通常以上のパワーとスピードを得られるようだ。


 だが、意識がうまく保てていないのか、攻撃パターンは通常時よりも単調に見える。


 落ち着いて対処すれば、複数相手でも手こずる事はなかった。


「オラ! 力押しなんかで俺をやれると思うな!」


 俺は、周囲の敵を一掃した後、奥で傍観していたスタンガン男に迫った。


「てめぇはあの姿にならねぇのか? ま、なっても結果は見えてるがな」


「ぐ、うう」


「それと、こいつらはまだ死んじゃいないんだよな。あのナイフ男みたいに体がくずれてないからな。そもそも、お前らは何者なんだ? くわしく聞かせろよ」


「ちっ!」


 スタンガン男は、しばらく後ずさりした後で逃走するも、倒れたていた仲間につまずき、すぐに御用となった。


「うううう」


「往生際がわりぃぞ」


「くそ、俺が逃げると分かってて、仲間をここで倒しておいたのか」


「いや、偶然だ。てめぇがアホすぎんだよ」


「ち、くしょうが」


 スタンガン男はがっくり腰を落とし、ようやく観念したのか、おとなしくなった。


 しかし、縄で縛ろうとしていた時、俺は奴の異変に気づいた。


「ん? あ、これは」


 見ると、スタンガン男は、ナイフの破片のようなものを自分の腹に突き刺していた。


 そして、もはや助かるまいと悟ったのか、狂気の笑いをうかべながら言った。


「ふ、ふ、これで勝ったと思うなよ。お前は後戻りのできない戦いの世界に足を踏み入れちまったんだ。後悔しても遅い。これからそのおそろしさをとくと味わうがいいさ」


「どういう意味だ?」


「すぐに分かるさ。いいか、ケンカと戦いは違うんだぜ。ふ、ふ」


 震えるスタンガン男の首からリングが外れ、その体は鉄くずと土の塊と化した。


 いつものように戦いには勝った。


 しかし、奴の残した台詞は、その後も俺の頭にしばらく残り、なんとなくすっきりしない感じが続いた。

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