第8話 八百一族の過去 前編
【伊ヶ谷大社】の四大神器。
元々、初代とかの住職が所持していたものではない。
それを家宝に創ったのは、八百一族の本家の嫡男であり、末っ子の伊吹だった。
彼の名前は、在る一件により幅広く、色んな場所に名を馳せることになった。
ほんの小さなことでは、噂にはならないが。
彼がしたことは14歳になるかならないかというときで。
頭角も、まだ露わになっておらず。
太々しいだけの、幼子だった。
末っ子ということもあり、大した期待されていたわけではなく。
底辺に近い教育のようなものを受けさせられていた。
『お前はいいよなァ! 伊吹~~? 当主になんなくてもいいんだからなぁ!』
家督を継ぐ嫡男にも、嘲笑われていた彼。
いつしか、彼を。
家族や、街人も――妖怪どもも。
皆が皆で、彼をこう称した。
【昼行燈】と。
◆
「兄上。また、行かれるのですか? また?!」
「っつ! ぉ゛う! 急に! 背後から来るなよ! 伊藤!」
「勝手に去って行かれぬように式神と、結界をフル活用した結果です!」
「ぅおー~~い。最終手段を最初っから使うの無しな? な?」
伊藤の執念に、庵が顔を抑えた。
ここは裏口で、いつもは使わないが厠に寄りたくなり、寄った結果なのか。
こうして見つかってしまった。
「オレには。兄ちゃんにはなー大事な役目があんのよー~~監視とか止めよ? な? お兄ちゃんからのお願いw」
ばっちっこーーん♡
ウインクする庵に、
「!? っぐ!」
伊藤の白い顔が茹で上がり、鼻血が噴き出してしまう。
ぼた。
っぼ、たたたーー……。
「ぎゃ――~~っっ‼」
思わず叫んでしまった庵。
「兄上。声が、大きいですよ。気づかれてしまうますよ?」
「? 誰に??」
「それは。もちろんー」
「義兄様‼ どちらに行くおつもりですか‼」
「げっ! 弟嫁っ!」
「げっ! とはなんですか! げっ! とは!」
「ぁ、ああ。星々《キララ》殿、うっかり本音が出ちまったw」
ばっちっこーーん♡
「!? ――~~っっ‼」
ぼた。
ぼたたたーー……。
「アナター! しっかりして下さいませ! アナタ!」
横になってしまった伊藤に、星々も慌てふためく。
(よし。しめしめw)
庵が出て行こうとするも。
「!? ちっ。これだから、ここに来たくなくなるの。お分かりぃい?」
朝陽が照らし、浮かび上がる影に、
「踏み影、か。星々殿、あんた。腕を上げたな」
「はい。手合いをお願いしている方の、教え方がお上手なんですよw」
文字が浮かんでいた。
「【経文結界】か。だからさーこういうのは! 最終手段に使うものでっ、たかだか、家を出ようとしてる、オレなんかに使っていいものじゃないからね??」
ぶっしゅ!
「……使うのは、この屋敷では許可しています。兄上は、兄上は~~う゛ぅ゛!」
「よしよし♥ アナタ♥」
「星々さー~~ん! 兄上が、兄上が! 私を虐めますぅ~~!」
情けなくも、星々の胸で、泣きじゃくってしまう伊藤に、
「虐めてなんかおらんだろうがぁ。伊藤よ~~」
庵も、伊藤の頭部を撫ぜた。
ッキ!
「勝手に行こうとするのは、私に対する嫌がらせっ! 虐めですっっっっ!」
涙目で、庵に言い返す伊藤。
鼻先を袖口で拭いながら、立ち上がった。
「どうしても。行かれますか? 兄上は」
「――……ああ。男には、行かなきゃならんときがある。それが、今だ」
「頑固なのは、父上譲りですかね? 全く、厄介な」
「ははは! 親父殿じゃないよ、逆に――母上似だろう? オレは」
そうはにかんだ庵に、
「母上……っつ! あの者になんか、兄上は一切似ていないっ!」
伊藤は大声で否定した。
「一切、合切ですっっ‼」
「……ぁ、ああ。そう? 一切、合切って……ふぇ~~怖っw」
「二度と、あの者のことは口になさるな! 兄上!」
「ほいほいっと」
兄弟のやり取りに、星々は除け者になってしまっていたが。
「アナタ。私、実はー~~持って来ました!」
「?? っな、何、を??」
きょとんとした顔で、庵は、星々と伊藤を交互に見た。
ずく。
ずくくくーー……。
「?? 影が、なぁ。星々殿、【経文結界】を解いてよ。なんか変だからさぁ~~」
「異物を混入させて頂きましたの。義兄様w」
「っは、はァああ?!」
◆
『ほぉう? お主がーー……名高き【昼行燈】かや?』
銀の九つの尾を揺らしながら、彼に問いかけた。
そこは。
【伊ヶ谷大社】のある伊都から遥かに離れた場所。
『妾に、なんぞようかや? 坊や』
彼女が吐く息によって、当たりの草が朽ち果てていく。
それに、目をやり、また。
伊吹は彼女を見据えた。
『ああ。私は【昼行燈】の伊吹! お主を滅する者だっ!』
『小僧の分際で! 嗤わらせてくれるっっ‼』
二人の間には。
討ち死にした坊主たちの朽ち果てた姿が転がっていた。
いつも減らず口だった兄は、小便を、糞すらも漏らしている始末だ。
そしてガタガタ、と横で打ち震えている。
(法力がある分。生き延びたか)
そんな彼を横目に、
『兄上』
伊吹は【経文陣】を、手を鳴らし【既読未読】で浮かべ。
『御機嫌よう』
冷徹に、この場から安全な地に消し去った。
『? あの情けない者は。貴様の肉親なのか? みっともないのぉうw』
『ええ。みっともないものです、なまじーー自意識過剰で、プライドの塊のような兄上のあの様ったらない。しかし。しかしですよ?』
【経文陣】が、空気を犯していくかのように、浮き上がっていく。
『彼は、命乞いのしなかった!』




