第5話 思惑の八百
――前略、兄上様へ。
――厄介で無粋な客人を、あしらう方法を教えて下さいませんか。
「おーおー~~きちんと、手入れされてんじゃなぁ~~い? なぁ、伊藤よぉ」
【伊ヶ谷大社】にずかずかと、大股で遠慮なく遣って来たのは、八百の分家の威六の叔父だった。
彼は横暴で、されど――【八百】の分家の長として、厄介にも法力は本家の伊藤に対を張るように、申し分はない。
彼が周りにいうのは、いつも同じで。
『儂は産まれる家を間違えたのじゃ! 本来は本家に産まれるはずだったのじゃ!』
聞かされる使者も、仲間も、親戚一同も。
うんざりと、げんなりと話し半分に受け流していたが。
当の本人はといえば。
本気の本気で。
自身の考えは当たり前だと思い込んでいた。
伊藤の父が早去してしまい、本家を継いだ甥っ子を大人気なくも、恨み、憎んでいた。だが、あくまでも表向き上では――いい叔父を演じていた。
伊藤の弱点を探すかのように、頻繁に大社に訪れるわけだ。
呼んでもないのに来られる方の伊藤にとっては、いい迷惑でしかない。
そして。
妻である星々《キララ》にも、手を伸ばされるのでないかと気が気でもなく。
彼女は遠い親戚でもある分家の産まれで、恐ろしいことに威六との繋がりもある。そのことで警戒心のない星々に、よからぬことを吹き込まれることも、伊藤にとっては悩みの種でしかなかった。
「おうおう! 星々ちゃんは、今日はいないのかい??」
「叔父上。妻は今、実家に帰っております」
「ほっへー~~なに? 喧嘩?? まぁーお前は、本っっ当につまらないかんなーそりゃあそぉー~~なるわなぁ~~‼ はーはははっっっっ‼」
「なんとでもどうぞ」
「――……本当に、貴様はつまらんな。相変わらず」
真剣な表情でいう威六に、伊藤も真顔で返した。
「なんとでもどうぞ」
◆
廃墟の家に二人は戻ると、無言になってしまった。
(なんか、話し辛いなー)
庵に火をつけ、水に味噌を溶かしてからキノコと米を入れ、お玉でかき混ぜながら庵が苦笑する。
相手のともテルも腕を羽に変え、口で整えていた。
「……水浴び、してぇなぁ」
ぼそと漏らすともテル。
「ま。贅沢な悩みか」
「雨が降らなくなって、どれぐらいか分かるかい? ともテル殿」
「? 私が知るわけねえだろおうが。何? キサマは日付とか覚えているのかよ? っはぁー~~さすが、年寄りだね~~!」
棘のある言葉を発するともテル。
それに庵も、
「歳だけとっても、なんにも出来ないオレはなんのために、ここに居るのだろうね」
涼れた声でいい返した。
それにバツの悪そうな顔をするともテル。
でも、ともテルは謝らない。
「やはり。妖は人とは交われぬほうがいいのかもね」
「思いつめたら禿るぜ? ジジィ」
「さすがに、じ、ジジィは勘弁してくれないかい?」
コポポポ――……。
茶碗に注いだ食事をともテルに手渡しながら、庵はさっきの質問の回答を教えた。
「一年の周期での降水確率が減ったのが、ここ三年の出来事だ。ただ、去年の今頃に比べて――雨は降らなくなったのは、いうまでもないだろう」
妖の庵にとっては瞬きほどの時であり、ともテル世代の妖にとっては、人間同様の感覚だが、ともテル同様に、何もしないのはいうまでもない。
きっと、誰かが。
どうにか、誰かが。
解決するに違いない、と。
他人事のように、日々を嘆いている。
そんな彼らと、庵が違うのは、また別の理由がある。
それは自身の生家でもある【伊ヶ谷大社】と、自身の両親に関係している。
古く創立されたこの【伊都】の建国に携わったが父親の伊吹僧、その人だった。
彼の役目は、この伊都の管理に維持。
悪分子の排除を担っている。
「ふぅん?? で、キサマが勝手に単独行動したこととなんの関係があるんだよ」
「や。え? あの、オレの話し、聞いてたかい?? え?」
「? ああ、ぼんやりと」
「きちんと、聞いてくれるかな? かな??」
「どうだっていいよ。私には関係がないことだ」
茶碗の味噌を飲むともテルが、ふと顔を上げた。
「この……水、どこから??」
茶碗に映る自身の姿に、ともテルは驚きの声を上げた。
「《ファイル》経典にはオレの敵だった仲間を収容している。その中に数人、水を生み、作る妖がいるんだ。その方々から拝借しているんだよ」
「っじゃ、じゃあ! そいつらの力で――」
「数量で済む話しじゃないでしょうが」
ゴクゴククーー……。
「水枯れは深刻だ。このままでは、水が……」
ごっくん!
「水浴びも出来なくなる!」
「!? っそ、それはっっ‼」
ともテルが驚愕の表情をした。
「故に。オレは《水泥棒》を探しているんだよ」
◆
威六は髪の両端を剃り上げ、頭部に縛った髪を揺らしていた。
粗野な男に反して、キュティクルで、艶もよく、女性から羨まがられていた。
体格は伊藤よりもよく、身長でも伊藤を遥かに超えていた。
そんな男が、伊藤を見下ろしながらはにかんでいる。
眼の中に野心を燃やしながら。
伊藤に食って掛からんと。
(っふ、っはっはっはァ‼ 貴様を陥れてやるわ! 儂がなァ‼)




