第13話 点と線
大の男が、向かい合って腹を伺い合う。
些か、滑稽な光景だった。
何を言うわけでもなく――いや、言えないのか。
(化け物、だと? この儂すらも??)
威六が、胸中をざわつかせる。
伊藤はお茶を急須から注いでいた。
「叔父上。如何なさいましたかな?」
「!? なんでもないわ!」
「そう、ですか? 少し、顔色がよろしくないようにお見受けしますが?」
白々しく言っているような伊藤に、
「なんでもないと言っておろうがッッ‼」
イラついた威六が、口を大きく開き、叫んでしまう。
「!? いや、……済まんな」
「いえ。気にしておりませんから」
――前略、最愛なる兄上様へ。
――悪しき者や、妖に化け物を滅することは出来ます、が。
――このような親族には、どのような罰がよろしいのでしょうか?
――私には、そのような仏心は持ち合わせてなんかおりませぬ故。
少し、羊羹の表面が硬くなってしまう。
それを噛み締めながら、お茶を啜りながら。
「伊都とは、魑魅魍魎と共存する世界です。しかしながら、叔父上。ここには最初、人は住み着かなかったんですよ。ご存知でしたか? 叔父上」
そう問われた威六は「さァ、ねェ?」と曖昧に応えた。
「この地が人を拒み、獣を招いたからに他なりません」
饒舌に語る伊藤に、威六も薄気味悪い、吐き気に見舞われ、額にさらに大粒の汗が浮かび上がった。
「しかしながら。やがてその獣たちも居なくなった」
人として表情の乏しい伊藤の心など。
威六にとってみれば、計り知れない。
嗤う伊藤に、威六も声を失くし、喉を鳴らした。
「獣人化……――というのが正しい、か」
伊藤は口許を、手で覆った。
目元は、少し歪んでいる。
「怪僧伊吹とは、その隔世遺伝を起こした唯一の存在です」
「ぉい。おいおい? 待て、待て。伊藤」
「人と獣人の混血種なる――【八百一族】の血脈から産まれた。絶大なる法力者」
威六の目の中が伊藤だけになり。
威六の脳裏には庵だけになった。
本家兄弟が、威六を外側から、内側からと。
支配した瞬間だった。
「失礼致します。伊藤住職様」
「? ああ、計お入り。どうかしたのかい?」
スゥーー……。
襖を開けて入って来たのは、小坊主の計。
「替えの急須と、茶請けをお持ち致した所存でございます」
深々と、手をつきお辞儀をする。
「ああ。有難う」
「茶請けに餡団子と、醤油団子に、みたらし団子をお持ちしました」
「ああ。計は気が利くね。有難う」
「‼ っは、はいッ! そっそ、それでは失礼致します‼」
ピシャン!
「ふぅん。よくもま、式神があのように人のように」
「鍛錬の成果ですよ」
袖を持ち、伊藤が威六の前に団子を置いた。
「ああ。旨そうだ」
手を擦る威六に、
「ええ。美味しいでしょうね」
伊藤も頷いた。
そして、威六が頬張ると、目を大きくさせた。
「うぅん。美味じゃな!」
そんな余韻に浸る間もなく。
「以前。お仕事をお願いした方にも、お話ししたのですが。それは【獣】なのか、【人】なのかと」
伊藤が右手の人差し指を立て、折り曲げると威六へと向けた。
「在るべきか、――……消すべき【存在】かと」
そして、拳を握り腿の上に置いた。
言い終えた伊藤は温くなったお茶を飲み干した。
それに、威六も口許を引きつかせながら。
「で……――結論は、でたのかね?」
含みのある、からかいのある色が見え隠れする質問に。
伊藤は、目を細め威六を見据え。
「どうでしょう」
そこで初めて、伊藤は威六から視線を外した。




