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第11話 過去からの使者

「しかし。いい恥さらしよ」

 威六の言葉に、伊藤の目じりが動く。

 飲んでいた湯呑みも、口元で止まった。

 

 ここは――【伊ヶ谷大社】なる、伊都の中枢。


「あのような風来坊。いや、昼行燈をする輩は。名門の名が廃るというものだ」

何故なにゆえに、そう思いいですか? 威六叔父上」

 寝そべったまま、

「気味が悪いと言う都民が居ることを知らんのか? お前は」

 羊羹を齧った。

 伊藤は湯呑みに映る自身の顔に、目がいった。

(酷い、顔だ。星々《キララ》さんが心配してしまうな)

 映る顔は、激しく怒りを抑えようと、必死な笑顔。

 糸が張る。

 今にも、その線が切れてしまいそうだった。


「気味が、悪い……ですか。耳にしたことがないですね」


 声も、上擦ってしまう。

 それが威六にバレないかと、伊藤も胸中、穏やかではない。

「ほぉ。住職様は、知らんのか? っふ、ははは!」

「は、ははは……」

「? 何が、可笑しい。伊藤」

 怪訝に威六が、伊藤に聞いた。

「元々。廃れていた名声ではありませんか」

 鋭い眼光で威六を射抜く。

 酷く吊り上がった目に、口元は――嗤っている。

 空気も、どこか重いものになっていく。

 

 じわ、り――……。


 威六に額に、背筋に汗が体力に浮かび、伝っていく。

 起き上がりたくとも、力が入らない。

(っく! 何か、法力?! それとも、茶の中に毒を盛られたのか‼)

 ただ、平静を装うために、羊羹を齧った。

「それを。ここまで名門と名を轟かせたのは、他ならぬ。怪僧の伊吹よ」

 ようやく、ここに至って。

 威六も、起き上がった。

「何が、言いたいのだ!」

 すると、伊藤の口許だけが動いた。

「少年をいいように、八百やおの血族はしただろう!」

 罵声に似た声が、部屋に轟き。

 襖が、大きく揺れた。

「!?」

 予想外の伊藤の剣幕に、威六も圧倒されてしまい。

 ぐぅの音も出ずに、口許をわなわな、とさせるだけだった。


 ◆


「然して。お主が出しゃばらなくとも、あの坊やに、任せておけばいいものを」

 甘く、鼻を掠める芳醇な匂い。

 そこは桃の木が実る――【桃源郷】

 伊吹が衣服を整ませ、足を強く前に着き出し。

 進んで行く。

「そういう訳にはいかないのですよー今回、ばかりはー」

「家、か?」

「――……私が、父との家を守らねば」

「それは。わらわを棄ててまでしなければならぬことか?」


 菜の葉御前が豊満な女性の姿から。

 獰猛な牙と、八つの尻尾の狐の姿に変わった。

 いや。

 戻ったのだ。


「もう。忘れてしまえよ、伊吹。現世のこぞなぞわ」


 菜の葉御前が、伊吹の身体に身体を擦りつけた。

「なの」

 伊吹は立ち止まったが、すぐに。

「すまない。菜の葉御前殿」

 強張った声に、菜の葉御前も返事をしない。

 伊吹も、あえて――菜の葉御前を見なかった。

 

 ◆


 伊藤が、怒りをふつふつとさせる中。

 雲行きが怪しくなっていく。

 風の無風で、部屋の中の湿気も増すばかりだった。


「人も大概。どちらが化け物か」

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