第10話 分家と本家
庵が天を仰いだ。
その様子をともテルが見ていた。
「そんなに見たって。変わんないぞ、庵」
呆れた口調で言うともテルに、
「ああ。分かってはいるんだ。だけど」
庵も、言い返した。
「どうにも。嫌な予感がして止まらないんだ」
「キサマは。どうして、そんなに疑り深いんだ?? 人生を損しそうだな」
さらにともテルが返すも、
「かもしれないけど。人生は損得なんかじゃないよ」
庵が、さらっと言い返す。
草履で地面を踏み込んだ。
すると。
「!?」
しゅるるる‼
「こ、れは。一体?? 何をした? 庵??」
驚きながらともテルは――【モノノ・フ記録】を取り出していた。
ペンも。
「どうも、何もしていないよ。オレは《生命の息吹》に色をつけただけに過ぎない」
辺りの色が濃くなり、糸のようなものが浮いていた。
「で。色をつけて、何がしたいんだ。キサマは」
「確認したかっただけだから~~もう、お終い!」
パン!
手を鳴らし、叩くと。
それらは一気に消えた。
「キサマのしたいことが、全くと言っていいほどに私には不可解だ」
憤慨する様子のともテルに。
「オレは、理解してもらおうとか思ってないよ。ともテル殿」
そう言った庵の首を、ともテルが、指先で占めた。
突如。
いきなりとして。
「ッつ! ともテル、殿?? 首が、締まって……痛いん、だけ、ど?」
「煩い。煩い、煩い、煩い!」
ボロボロ、と涙を流すともテル。
見下ろす格好の庵が、その涙を、震える指先で拭った。
「オレは、……ひょっと、して……っか、……酷いことを言ったのかい?」
「ああ! ああ! ああ! 言ったんだぞ‼」
「そうか……そぅか」
目を閉じた庵を、慌ててともテルが地面の上に降ろした。
「演技はいい。どうするのかを言え! 私にも分かるようにな!」
目を開けた庵は、
「めんどくさ~~い」
唇を突き上げる庵の様子に。
げし!
「早くしろ!」
顔面から、ともテルが踏んだ。
二度、三度となく。
◆
「神器の全部を、譲ったのか?」
そう威六が、伊藤に聞いた。
「はい」
「全部、あの昼行燈に、か」
「……――はい」
もくもく、と羊羹を行儀悪く、寝そべりながら食べる。
そんな彼にも、付き合いが長い伊藤も、目を瞑っている。
「では。この【伊ヶ谷大社】は誰が、護っていると言うのだ?」
「もちろん。住職である、私がです」
「弱弱しい法力のお前なんかがか??」
ちっ。
「確かに。叔父上から見たら、私なんぞの法力は。カスとでしかないでしょうね」
内心で、伊藤は舌打ちを繰り返す。
この親族が、堪らなく嫌いで仕方がない。
(お前の法力が、どれほどのものだと言いたいのか)
真っ黒いもので、心が覆われそうになってしまう。
それを、なんとか庵を思い出し、押し留める。
真っ黒にしてしまえば、この親族と同じになってしまう。
それだけは。
ご免被る。
「しかしながら。私たち【本家】には護符付きでしてね」
神妙な面持ちで、伊藤は威六にキリ返した。
「叔父上の【分家】には、ないものが」
「っつ‼ お前は、儂を舐めているのかァ?!」
「まさか、まさか。何故にそうお思いいでしょうか?」
そう目を細め、伊藤は口端を上げる。
「私は事実を申しておるだけですが?」
――前略、兄上様。
――本当に、このような面倒な親戚の対処方法があれば。
――次の機会にでも、この弟にお教え下さい。
――厄介です、実にイラつかせてくれる。
(早く、兄上の手紙が見たいな)
ペ、キンッ! と。
伊藤の指の中で、楊枝が折れた。




