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半妖精戦記 〜不吉の子と亡命の姫と女神の剣〜  作者: 近藤銀竹
第十五章  営みがあり営みとなり
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第九十四話 『行方不明者、戻る』

 中央制御室から動力室からの行程は困難を伴った。動力供給が絶たれ、管理者も束縛から解放された結果、昇降機や空飛ぶ床板などが全て機能を停止していたのだ。そのためロベルクたちは階段や回り道を通って動力室へ向かわねばならなかったのだ。


 動力室で行方不明者と合流する。多人数での移動は多くの時間を要した。旅慣れない者が少なからず混じっていたため、遺跡から脱出するだけで疲れ切ってしまった者も出た。一行は入り口付近の広間で一夜を明かすこととなった。


 ウインガルド難民の入植地に到着したロベルクたちは、ほぼ全員の出迎えを受けた。

 二十九名の行方不明者が全員無事に帰還したことに、難民入植地は沸き立った。


「ロベルクさんとやら、感謝しますぞ!」

「男爵! 何とお礼を申し上げたらよいのやら!」

「皆さん、ありがとう!」

「おう! 無事に連れ戻すことができて俺も嬉しい!」


 アルフリスが豪快な笑顔で応える。

 その後ろで、フードを目深に被った小柄な人間が、板金鎧の端を引っ張る。


「ん? いかがなさ……いや、どうした?」

「…………」


 セラーナが声を出せないので、ロベルクが代わりに説明する。


「アルフリス、僕たちは柵の外で他の救出者と一緒に休む。ゆっくりウインガルドの皆さんと過ごしてくれ」

「な……っ⁉」


 アルフリスの巨体が振り向く。


「お……俺もフルシャマルの客将として救出者の護衛にあたらねばならんな」


 いそいそと人の輪から出たアルフリスは、少し離れたところで微笑みながら様子を

見守っていた長老に歩み寄った。


「そういうわけだから、悪いが食料と水を少し分けてはもらえないだろうか」

「それは勿論でございますよ、男爵」


 長老は微笑みを絶やさぬまま、側で侍っていた者に飲食物、それと夜風を凌ぐ天幕の用意を指示した。





 夜、ロベルクが村外れで『月の剣』の型を確認していると、背後からアルフリスがやってきた。


「何だ? 隊を組んでいる最中でもないのに。わざわざ近付いてきたら、お前の心の不快感が増すんじゃないか?」

「うむ。確かに俺はお前が嫌いだ」

「そうか」


 ロベルクは予想通りの答えに肩を竦める。夜風に冷えた汗を拭うと、鞘に入れたままの霊剣を腰に吊った。


「で、何の用だ?」

「いや、行方不明者救出に力を貸してくれたことについて、礼を言わねばと思ってな。ありがとう」

「らしくないな」

「かも知れん……」


 アルフリスは返事なのか溜息なのかわからないような声を漏らした。彼は何度か深呼吸をして心を鎮めるような素振りをすると、口を開いた。


「お嬢の……ことなんだが」

「セラーナの?」


 ロベルクが軽々しく名前を呼ぶことに一瞬眉を顰めたアルフリスだったが、苛立ちを一瞬で飲み込み、話を続けた。


「俺は今度の旅で、お前のことを……力も、人柄も……一人の男として認めた……認めざるを得なかった」

「そうか」

「だがお嬢は駄目だ……駄目なのだ」

「急にどうしたんだ?」

「お嬢が……高貴な御方であることは知っているな?」

「……ああ」


 ロベルクが頷いたのを見てアルフリスは再び話し始めた。


「お嬢と添うということは、それだけで政治的意味合いを持つのだ。お嬢はお前のことをお気に召しているご様子だし、お前がお嬢を守ってくれればどれほど安心か知らん。だが……お前がお嬢と添うのは……駄目なのだ」

「…………」


 アルフリスなりに精一杯ロベルクのことを認め、主人の立場を慮り、それでも尚且つ二人の仲を祝福できない――彼は彼なりに誠意を持ってロベルクに接しようとしていた。


「……伝えたかったことはそれだけだ。邪魔したな」


 ロベルクの真摯な眼差しを認めたアルフリスは恥ずかしそうに手を挙げると、ロベルクの元を後にした。

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