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第八十六話 『祝賀会の夜』

 ウル遺跡から湧き出した謎の軍勢を撃退したという知らせは、フルシャマルの民を安堵させた。


 街はちょっとしたお祭り騒ぎになった。仲間や家族と再会した者たちの歓声が響き渡った。酒場や食堂は振る舞いを用意し、商店は安売りを始めた。

 洗脳されていた謎の軍勢の中には、ウインガルド難民の姿も見られた。彼らは一様に、自分たちを救い出してくれたロベルクとその仲間に感謝の意を述べた。

 兵士たちも戦勝の喜びに酔っていた。正規兵は族長の屋敷でご馳走が振る舞われた。傭兵団には屋敷前の広場に特設の宴会場がしつらえられ、屋敷内から多くの食事と酒が運び出されていた。

 アルフリス隊の半数はバオラードの兵であるため、彼らは屋敷の中だ。現在、宴会場では約五百の傭兵が喧噪の中で飲み食いをしていた。

 ロベルクたちも傭兵の一員として宴会場にいた。

 食卓の向かいではナヴィドが涙を流しながら酒を呷っている。


「俺の友達を……ありがとう。本当にありがとう!」


 ナヴィドは吼えるように嗚咽しながら酒を飲み続け、横のアーリンに宥められていた。


「僕も戦に出た甲斐があったよ」


 杯に口を付けながら微笑むロベルク。

 今回の勝利は、言うまでもなく中軍のナムダール隊と左翼のシャハーブ隊の戦功である。じっとしていた傭兵隊にここまで振る舞うのはナムダールの人柄であり、多くの冒険者が彼を領主として慕うのがよくわかる。

 宴もたけなわとなった頃、屋敷の中から武装を外した兵士が現れた。


「アルフリス殿、シャハーブ様がお呼びです」

「承知した」


 酔った様子もなく立ち上がり、兵士についていくアルフリス。

 その背中をロベルクとセラーナの眼が同時に追った。


「アルフリスが……」

「ナムダールさんでなく、()()シャハーブに……」

「どうも褒美という線ではなさそうだね」


 異分子扱いされているアルフリスの旅団が無傷で多数の行方不明者を保護したのは大きな功績だ。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が得た功績としては、甚だ大きすぎた。

 ロベルクは、以前からアルフリスを快く思っていない様子のシャハーブが嫉妬心を湧き上がらせるのではないかと、祝宴中も思いを巡らせていた。





 帰り道のアルフリスは前にも増して苦々しい表情になっていた。

 シャハーブに呼ばれて戻ったときから妙な様子を見せていたアルフリスに、ロベルクが探りを入れる。


「大丈夫か、アルフリス?」

「貴様に心配される謂われはない!」

「大丈夫、アルフリス?」

「実は先程……」

(こいつ、寧ろ面白い……)


 ロベルクが苦笑して引き下がると、アルフリスはセラーナに語り始めた。

 どうやら彼は、シャハーブに呼ばれて、濡れ手に粟の手柄が転がり込んできたことに散々嫌味を言われていたのだそうだ。


「嫌味だけだったよかったのですが、シャハーブ様からこの度、ウル遺跡に入って残りの行方不明者を連れ帰れという命を受けまして」

「えっ?」

「ウインガルド難民集落での行方不明者は、今回保護した十四名の他に二十九名いるのです。その人々を連れ帰り、早急に開墾の戦力として復帰させよ、と」

「行方不明者の保護は傭兵隊のとしての力ではなく、偶発的に遭遇してロベルクとフィスィアーダが保護したものだって言ったの?」

「言いました。ですが、シャハーブ様は頑なに俺の手柄だと」

「ああ、手柄と無理難題を抱き合わせて押し付けてきたってことか」

「くっ。冒険者を雇うと入植地に使う資金が………」


 セラーナの分析に頭を掻き毟るアルフリス。

 アルフリスが煩悶する様をじっと見ていたセラーナだったが、不意にロベルクの二の腕に絡みついた。


「ん?」

「こ……この――」

「ねえロベルク。あたし、ウル遺跡の難民救出に力を貸したい」

「え?」

「え?」


 ロベルクとアルフリスの声が重なる。


「なりま――」

「いいけど、寄り道になるぞ?」

「貴様――」

「いいの。だってあたしの国の人だもん。今は助け合わないといけないと思うの」

「ですから――」

われも行くよ。何だか『命ある者』でない存在の仕業を感じるから」

「お前は一体――」

「二人ともありがと。じゃ、決まりね」


 アルフリスが喚いている側で、三人の行動は決まった。


「アルフリス、あたしたち、ウルの探索に手を貸すわ。勿論タダで」

「は? お嬢……」

「知ってると思うけど、あたしは野伏。隠密や仕掛けの世話しかできない。戦力はロベルクとフィスィアーダなんだから、もっと尊重すること!」

「お嬢……う、うおぉおおおん!」


 滝の涙を流して感動するアルフリス。


「やれやれ……これで少しは僕達へも好意的になってくれるといいんだけど」


 ロベルクは肩を竦めた。

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