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半妖精戦記 〜不吉の子と亡命の姫と女神の剣〜  作者: 近藤銀竹
第十二章  砂漠の街、風化する祖国
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第八十二話 『二人の公子』

 族長の屋敷は街の中央に位置する、広大な建物だった。やはり全体が白一色に染め上げられており、風を取りこむ尖塔を複数備えた、いかにも金の掛かっていそうな邸宅だった。


「……で、何でアルフリスがついてくるのよ?」

「いえ……俺は今日、午後から警備の仕事なので、敷地内の詰め所に行くついでにお送りしております。妙な連中もついてきていますので……」

「アルフリス、それ以上言ったら国賊扱いにするわ」

「そんな殺生な~!」


 派手に嘆くアルフリスを後目に、三人は敷地の門へと向かった。

 何故かついてきたアルフリスも含めた四人が敷地に入るとすぐに屋敷の玄関が開き、キアラシュが姿を現した。


「お待ちしていました。どうぞ中へ」


 屋敷の中は外気とは一変して快適な空間だった。ひんやりした空気は尖塔から引き込んだものだけでなく、霊晶を利用した空調も併用しているのが明らかだ。


 一行は広いホールを抜けて、一際豪奢な部屋へと通された。

 中央の大きな机には野菜や肉の料理、果物の山が所狭しと並べられている。

 上座には山のようにクッションが積み上げられ、その中央には質のよい長衣に身を包んだ男が座っていた。


「ナムダール様、お連れしました」

「うむ、ご苦労だった」


 キアラシュの報告にナムダールという名の男は嗄れた声で答えた。

 年の頃は六十に届くかといったところだ。浅黒く角張った顔は、人を束ねる胆力を感じる。目尻の皺は、笑い多い人生を歩んできた証左だ。

 ナムダールは屈託ない笑みを浮かべると、ロベルクたちを見やった。


「この度は、我が右腕であるキアラシュを砂環竜から救ってくれたとか。礼を言うぞ」

「あなた方が今回の旅にいてくれたのは幸運でした」


 キアラシュも続けて礼を述べる。

 ロベルクたちも礼を返した。


「偶然居合わせただけです」

「むしろ族長様とお目にかかれるなんて、かえって光栄ですわ」


 相変わらず地位に無頓着なロベルクに、セラーナが言葉を添える。

 礼儀にうるさくない様子でロベルクたちの返事を聞いていたナムダールだったが、三人の後ろに巨体が聳えていることに気付いた。


「アルフリス殿、警備までまだ随分時間があるというのにどうした?」

「お……おうっ⁉」


 セラーナの声に聞き惚れていたアルフリスから奇妙な声が漏れる。まさか、セラーナの声に聞き惚れていたとは言えない。


「この者たちは、ウインガルドにゆかりがあるようでして」

「ほほう!」


 ナムダールは膝を叩いた。


「では、アルフリス殿も宴に同席するがよかろう。警備については別の者に補欠を頼むゆえ、気にするな。砂環竜を屠るような傑物と誼を結ぶのも悪くない」

「は。ではお言葉に甘えさせていただきます」


 アルフリスは一礼すると、ロベルクたちとは反対側に腰掛けた。

 鮮やかな薄衣に身を包んだ給仕が、高級そうな酒壺と貴重な生の果実を鎮めた水を机に並べていく。


「ロベルク、セラーナ、フィスィアーダ。この度はよくぞ我が側近キアラシュを救ってくれた。この喜ばしい出会いを、炎神ドルバゴンと、氷神メタレスと、えー……植物神フェリエンに感謝して、乾杯!」


 ナムダールの音頭で宴が始まった。

 貴重な生野菜を添えた前菜に始まり、手の込んだスープ、魚料理、肉料理と続き、ロベルクたちは手の込んだ一皿一皿に舌鼓を打った。

 砂糖をふんだんに使った菓子が並んだ頃、ナムダールが給仕を退室させた。


「ときにロベルクよ、この街に立ち寄ったのも何かの縁……遺跡の遺物や武者修行には興味がないか?」


 ロベルクは場の空気が変化したことを察した。


「何か、礼以外に仰りたいことがあるようですね」

「実は……」


 キアラシュが口を開いた。


「ここ最近、ウル遺跡の探索に向かった冒険者が行方不明になるという事件が頻発しておりまして」

「遺跡には前人未踏の階層も存在しているとか。冒険者が行方不明になるなど、そう珍しいことではないでしょう」

「最初は冒険者だけだったのですが……」

「無関係な人に被害が出始めた、と」


 キアラシュは頷くと、アルフリスに話を促した。

 アルフリスが筋肉で重そうな口を開く。


「フルシャマルの北……ウル遺跡との間には、ウインガルド難民の集落がある」

「まさか、ウインガルド難民に行方不明者が?」

「その通りです」


 キアラシュが苦々しく答えた。


「……さらには、族長の長男であるバオラード様も行方不明なのです」

「バオラードさんの行方不明が、一連の行方不明事件に関わっているとお考えなのですね?」


 ロベルクの推理に頷くキアラシュ。


「あなた方は大層腕が立ちます。もし砂漠や遺跡の探索をする機会があれば、バオラード様の捜索に力を貸してはいただけないかと思いまして」

「キアラシュの言う通りじゃ。半分、諦めてはいるのだが……消息だけでも報酬を出す」


 ナムダールが言葉を継ぐ。


「もし生きたまま連れ帰ってくれたら、相当のものを用意するぞ。そうだな……街を挙げて用意する程度のものなら支払おう」

「それは……大層なものですね」


 ロベルクは言葉を選んで答えた。


「旅の途中でバオラードさんの消息を掴んだときは、必ずお知らせに伺います」

「うむ、よろしく頼むぞ……」


 力強く振る舞うナムダールであったが、年季が入った樽のような色をした彼の眼は、息子が消えた憂いを隠しきれずにいた。





 しんみりした空気のまま宴が終わり、ロベルクたちは席を辞した。

 ちょっとした街路ほどもある廊下を通って玄関へと向かうロベルクたちとアルフリス。

 と、正面から煌びやかな集団が歩いてきた。

 先頭に立って歩く男はアルフリス程ではないが背が高く、隆々たる筋肉で覆われた肩で風を切る姿は、一目でこの屋敷の主――領主の一族であることが見て取れた。男が視線だけでロベルクたちを見下ろす。


「父上にも困ったものだ。どこから湧いたかも知れぬ旅人を易々と屋敷に入れてしまう」

「シャハーブ様、父君の客人でありますれば……」


 窘めるアルフリス。

 だがシャハーブと呼ばれた貴人は、臆することもなくアルフリスを睨み返した。


「お前もだ、ウインガルド人! 難民に土地を与えるなど、父上もどうかしている……挙げ句、冒険者などに門を潜らせたのか」


 口汚く罵るシャハーブ。

 背後からぬめりを帯びた諫止の声が湧いた。


「シャハーブ様、冒険者も遺跡から資源を運び出す貴重な道具ですぞ。使いこなしませんと」

「わかっておるわ、ザドリー」


 シャハーブは背後に控えていたザドリーという男に振り向きもせず答えると、ロベルクの両隣に並ぶセラーナとフィスィアーダを舐め回すように値踏みした。


「女は美しいな……おい! 俺はナムダールの息子、公子シャハーブだ。兄が行方不明になったので、次の領主は俺ということになる。俺の目に止まって、お前たちは運がいい。旅などやめて、俺の後宮に入れ。一生、おもしろおかしく過ごすことができるぞ!」

「まあ、公子様は冗談がお上手ですね……いくわよ、ロベルク!」


 セラーナは、顔面に笑顔を張りつかせて、ロベルクの手を引いた。

 フィスィアーダが反対側を守護し、後ろにアルフリスが続く。


「ほお、気の強い女もそそるな! 待っているぞ!」


 シャハーブはセラーナの背に下品な褒め言葉を投げかけた。彼にとって不幸だったのは、ロベルクたちが四者四様に押さえ込んだ怒気を察知する程度の力を持ち合わせていなかったことだろう。

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