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半妖精戦記 〜不吉の子と亡命の姫と女神の剣〜  作者: 近藤銀竹
第十七章  ふたたび祖国へ

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第百七話 『王国の再起』

 アルフリス参戦の知らせは、義勇軍の面々を大いに奮い立たせた。

 四方に密使が放たれ、身を隠していた協力者を一人、また一人と招聘する。廃倉庫に続々と人が詰めかけた。

 六日かかるところを四日で、予定に近い四百九十人の兵が集まった。数人の行方不明者、また不明瞭な意思を感じて使者があえて呼ばなかった者がいたそうだが、そんな義勇軍の慎重さもアルフリスは好感をもって捉えていた。


 朝日が天窓から差し込み始める中、参集した義勇軍の前に木箱を集めて作った即席の演壇が設けられ、リーシとアルフリスが上った。


「諸君、いよいよだ!」


 リーシが声を張り上げる。


「首都リアノイ・エセナ陥落より二年、我々はウインガルド王国の再起を願って敢えて日の当たらぬ場所に隠れて活動を続けてきた。しかし!」


 一際大きな声で一同の注目を引きつけたリーシは、隣に立つアルフリスを掌で示した。


「ことここに及んで、ジオ皇帝ゼネモダスⅢ世の暗殺と、多くの国民を占領軍の圧政から脱出させたアルフリス・カルフヤルカ卿との出会いという二つの幸運が舞い込んだ。これを導きと言わず何と言うだろうか! 王国再起の第一歩であるイルグネの奪還には、多大なる追い風が吹いているっ!」

「おおおっ!」


 戦意に溢れ、尚且つ周囲に気を配った小さな歓声が廃倉庫を揺らした。

 満足げに頷くリーシ。


「我々はジオに尻尾を振るカールメ・スピコに代わり、憂国の士カルフヤルカ卿を大義名分の旗印とし、新生ウインガルド王国をここイルグネより始める。……王家の方々もおられず、二人の王女殿下も行方不明の中で……まあ言っちまえば首のすげ替えだが、カールメの野郎が領主でいるより余程ウインガルド人の矜持を重んじる国になるはずだ!」


 二度目の歓声の中、アルフリスは反逆とも取られかねない急展開に驚き、セラーナの方へ不安げに振り返る。

 セラーナは満面の笑顔で「許す」と頷いた。

 何事もなかったかのような威厳ある表情でアルフリスが顔を戻すと、それを待ってリーシが演壇を下り、中央の机にある町の地図に向かう。


「作戦を発表する。彼我の兵力はほぼ同数であり、練度が高いのはうち半数のジオ兵のみ。だが真正面からぶつかればこちらの死傷者も少なくないであろうし、町への被害も出るだろう。そこで我々は敢えて隊を三つに分ける」


 リーシが懐から幼子が使うような木剣を取り出し、地図の北部と東部を指した。


「別働隊には北の副市との川を繋ぐ築城橋と、町の東部の兵舎で同時に騒ぎを起こしてもらう。具体的には築城橋を燃やし、跳ね橋を上げ、しばらく通行不能にする。兵舎については、農耕用と偽って備蓄していた土の霊晶を使い、兵舎の周辺を泥沼にして初動を遅らせる。ここに三十ずつの兵を差し向ける」


 北の副市は、元々はジオに対する前線基地の機能を持っていた。既にジオの占領下になっているとはいえ、ここに異変が起きることに領主を含めたイルグネの民は神経質だ。また東の兵舎は町を共同統治するジオ軍の駐屯地になっており、ここを足止めできれば敵戦力を大きく削ぐことができる。この二カ所に対する陽動は、かなり効果的であるといえよう。

 木剣は続いて町の中心へと切っ先を向ける。


「本隊は陽動の成功を確認し次第、城に攻め上る。門番に内通者を作っており、こちらの合図と共に開門する手筈だ。夕刻の鐘までには出撃したい」

「時間との戦いだな」


 アルフリスが腕組みすると、リーシが振り返った。


「その通り。陽動の部隊が戻ってから城門を攻めるまでに許される時間はそれほど長くない。迅速な行動が求められる。だが、相手の意識を逸らすためには、ある程度派手な行動が必要と考えた。それに、副市との往来を遮断し、兵舎を封鎖すれば、兵力としては互角に近いところまで引きずり下ろすことができる」

「互角では危険ではないか? 攻城戦は二倍から三倍の兵力が要るというぞ」


 ロベルクが発言する。一部の義勇兵が頷く。

 リーシは腹を立てるでもなく、肩を竦めた。


「その通りだ。この作戦はカルフヤルカ卿が加わったことによる士気の向上、それと内通者という不安定な要素を孕んだものだ。だからこそ、陽動による混乱を引き起こし、統率の差で勝利をひったくる必要があるというわけだ」

「…………」


 ロベルクは短く唸るとこめかみに指先を当てた。リーシが手持ちの戦力から必死で捻り出した作戦なのであろうが、合流失敗や各個撃破の危険も拭いきれない。なにかあとひと声、勝ち目を増やす手が欲しいところだ。


(手は……手はある)


 ロベルクはおもむろに手を挙げた。


「その陽動、僕らにやらせてもらえないか?」

「カルフヤルカ卿のお仲間か、ありがたい! では築城橋の陽動部隊を四人減らして……」

「いや、二カ所の陽動を僕ら四人で行う。人数が少ないほど敵に悟られにくいのではないだろうか」

「確かに……それはそうだが……」


 リーシは引き攣りつつ笑顔を作ろうとして失敗した。アルフリスの同行者でなければ、思い上がった言動を一喝しているところだ。彼女はちらとアルフリスの顔色を窺った。


「……そいつらなら、やれると、思う……」


 アルフリスは不愉快そうに言葉を絞り出した。


「いや……だって……なあ?」


 リーシはしどろもどろになって、今度は背後に立つ長身の部下へ振り向いた。

 大きく頷く部下。


「なにか……ここでお示しできる力などは?」

「そうだな。では……」


 ロベルクは氷の王シャルレグを召喚し、心で命令する。


「僕らに任せてもらえれば、築城橋と兵舎を精霊魔法で封鎖する……このような感じで」


 義勇軍の周囲はいつの間にか分厚い氷の壁が立ち上がり始めていた。壁はみるみるうちに高さを増し、屋根近くまで伸びていた。

 廃倉庫にどよめきが広がる。


「……わかった」


 リーシは眼を丸くして透明な壁を見上げた。


「では陽動はお仲間の、えーと……」

「ロベルクだ。僕たちに任せてほしい」


 ロベルクは氷壁を収めた。


「リーシさんたちは陽動が成功し次第、全部隊を以て城に攻め上ってほしい」

「わかったわ。では今夜、日暮れの鐘が鳴ると同時に作戦を開始する」


 リーシの許可を得たロベルクたちは、早速出発することになった。


「築城橋を燃やすとあとあと不便だ。僕と彼女が行って、もっと派手にもっと修復しやすい状態で封じてこよう」


 隠し通路で市街に移動しつつ、ロベルクは陽動の作戦を練る。


「兵舎はフィスィアーダとメイハースレアルに行ってもらえるかい? 一日ほど氷の壁に閉じ込めておければいいと思う」

「わかったよ」


 フィスィアーダとメイハースレアルが頷いた。

 義勇軍の隠し通路がある薄汚れた酒場から通りに出る。相変わらず占領下の張り詰めた生活の営みが広がっている。

 ロベルクたちは互いの顔を見合わせた。


「僕はこのためにウインガルドにやってきた。皆、力を貸してほしい」


 四人は頷くと、何気ない様子を装いつつそれぞれの方向へ歩き始めた。

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