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半妖精戦記 〜不吉の子と亡命の姫と女神の剣〜  作者: 近藤銀竹
第十五章  営みがあり営みとなり
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第九十九話 『確執の末に』

 フルシャマルの街を恐怖に陥れた魔導像の襲撃から一夜明けて。


 街では、公子シャハーブに対する裁判が行われた。街全体を危機に陥れる凶行は死罪に相当するものであったが、被告であるシャハーブが既に死亡しているため、フルシャマーリ一族からの除名という処分のみで結審した。破壊された城壁周りについては精霊魔法を扱える冒険者が共同で石材を発生・接着し、修理を行った。城門に関しては、他領に発注した木材などが到着するまでは、魔導像に破壊された破片を鉄板と大きな釘でつなぎ合わせて簡易的な柵で当座を凌ぐこととなった。この際、城壁の修復作業に携わったロベルクは少なくない収入を得ることができた。





 同日夕刻、炎神ドルバゴンの聖職者が招聘され、シャハーブを荼毘に付した。外傷の激しいシャハーブの遺体は劣化が早いだろうとの懸念から、急ぎ執り行われた。





 翌日、ロベルクたちはバオラードから呼び出しが掛かった。用向きはシャハーブの葬儀への参列依頼だ。

 集合場所の城門でロベルクたちを待っていたのは、遺灰を抱いたバオラード、キアラシュ、葬儀を執り行う死神ネレーダーの聖職者、そして六名の護衛――族長の息子の葬儀にしては余りにも寂しい参列者だった。

 重傷と伝え聞いていたバオラードは、治療が行われたのか、杖や介助もなく自力で立っていた。とは言え、至る所に包帯が巻かれ、痛みを堪えるように微笑む様はいたわしいものがあった。

 メイハースレアルがお抱えの精霊使いを遙かに上回る治癒魔法を掛けると、一瞬で苦痛が吹き飛んだのか、バオラードの顔に血の気が戻った。しかし弟を失ったことによる表情の陰りまでは拭い去ることができなかった。


 フルシャマル兵に案内されて向かった先は、城門から出て暫く歩いた、墓地とは名ばかりの岩石砂漠だった。


「シャハーブは一族から追放の扱いにされているので、フルシャマーリ家の墓に入れることはできなかったんだよ。父も参列を断念したので、私は名代だ」


 小さな壺に収まる大きさになってしまった弟を抱き、バオラードは寂しげに笑った。


「バオラードさん……」

「悲観しないでくれ、ロベルク。本来であれば死体を野ざらしにされてもおかしくない行いをした弟だ。こんなでも葬式を出すことができて私たちはほっとしているんだ」


 バオラードがネレーダーの聖職者に合図すると、祈りが始まった。

 一般市民の基準にしても相当質素な葬儀を終えると、一行は街へ戻った。

 ほっとした表情のバオラードが振り返る。


「君たちはこれからどうするんだい? 遺跡の探索や研究に協力してくれると嬉しいのだけど」

「僕らは旅の途中なんです」

「やはり、西へ?」


 公子がウインガルド人の二人を交互に見比べて問う。


「はい」

「そうか……」


 バオラードは一瞬残念そうな色を浮かべるが、すぐに気持ちを切り替えた。


「一日だけ待ってはくれないか? 御礼を届けさせる」


 セラーナが頷いたのを確かめたロベルクは、バオラードの提案を承諾した。





 次の日、宿へ族長の使者が褒賞を届けにやってきた。

 褒賞は莫大なものだった。数年は遊んで暮らせそうな量の宝石が入った袋を人数分と、ヴィンドリア国内を快適に目立たず移動することができる、仕立てのよいヴィンドリアの民族服、貴重品の地図、ヴィンドリア側の国境警備を無審査で通過できる手形、そしてロベルクたちを賓客として扱い、一族を挙げて支援するという覚え書きだ。この数々の褒賞には、バオラードを救出しただけでなく、街の生命線である城壁を守ったロベルクたちへの、ナムダールの感謝の気持ちが込められていた。

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