小説を書くリリーとレイアの話
「リリー君」
「なんですか、レイア先輩うざいですから、あっち行ってください」
「君は小説を書いてるようだが、面倒臭くはないかね?」
「はぁ?」
わたしは小説を書く。
特にネットワークに投稿して、多くの人に無料で、ある程度価値ある情報を提供したいと思っているのだ。
それなのに、この。
「率直に、下らないからやめてみるべきと進言するよ」
「ちぃっ、理由を言ってくださいよ、ちゃんとした理路整然とした理由をね」
「私が小説を作るのが面倒臭いからだよ、他人が、それも君がそれをしてるのが我慢ならない。
では納得しないだろうね、分かっているよ」
小説創作が面倒臭い、それは当然だろう。
社会性のある芸術作品なのだ、多くの人に共通して価値を認めてもらえるには、情報価値以外に考慮する要素が数多存在する。
主観的な情報価値と、客観的、読者という実体のある存在群の総主観からの情報価値は、圧倒的に乖離する。
その為に世界を広く深く知り、どのような情報が読者総体に真に求められているか、それを意識しながら創作しなければ、上手くいかないのだ。
「つまり言いたいのは、小説創作は、リリー君の為にならないよ。
世界の底上げをしても、上位陣を引っ張っても、君の価値に対して変動はないのだからね。
我々上位者として圧倒的に君臨するような奴らは、ただ己を引き上げるに専念するのが、遥かに良い。
最終的に発生する価値の総量は、そちらの方が高いだろう?」
「知りませんよ、そんな事は、私は私のやりたい事をやるだけです」
相変わらず話にならない議論を醸してくれる。
私は小説を書くのだ、それで気分がいいし、気持ちよくなれるのだから、それで良いではないか?
なぜ、そういう簡単でシンプルな結論でなあなあにしないか、酷く疑問だ。
「ふーむ、そういう風に言われると、この学園では私の方が悪者みたいだね」
「レイア先輩は悪人です、嫌いですから、早くどっかいってくださいよ」
私はみんな大好きファンタジー小説を書くのに忙しいのだ。
これが下らない? ああそうでしょうね、だからなに? だ。
私は生まれた瞬間から、善人として、感動的に生きるだけだ。
「どれどれ、ほおほお、リリー君も、このヒロインみたいに、馬鹿みたいに媚び媚びしてみないか?」
「ちぃっ、わたしの小説をわたしの許可なく見ないでくれますかね?」
一瞬で速読したのか、ムカつく事に、いま書いてるゆるふわ甘々ヒロインの口上でも見られたか。
「ひぎぃーっ! あうあう! らめぇー! などなど、およそ現実的な台詞ではないな」
「ちっちっちぃっ、ああもう、ファンタジー世界ですから、フィクションですから!」
「それでも、限度がないかね? これでは読者を物語に引き込むに困難が生じないかね?」
「いいんですよ、別にそういう現実味や現実性を出して、リアリティーの感じれる描写とか設定とか、いろいろ他にしてますから」
「なるほど、それで補完して、読者を物語世界に騙して引き込み無我夢中にさせて、このような非現実的な妄想具現化存在に現実感を出す、そういう手法だな?」
「うざったらしい言い草ですね、なにか文句でもおありですか?」
「いや無いよ、流石リリー君だと、感心したくらいだ」
「ああ、そう」
それで飽きてくれたのか、レイア先輩どっかに行った、ふん、場が清々した。
確かに、わたしは小説を書く事が、世界にとってマイナスになる、かもしれないというのに自覚的だ。
わたしは私だけの為に生きて、世界を拡大すれば良い、
その方が最終的な世界全体の意味や価値は最大化する、かもしれない。
だが駄目だ、わたしは、私以外、世界に奉仕したいのだ。
そして世界の全体的な意味や価値を伸ばしたい、自分の単体での意味や価値の最大化による、
つまり、自分の価値を最大化する事が、自分すら内包する世界の意味や価値の最大化、
というのには、あんまり意味や価値を私自体が抱けないのだ、ただつまりはそういうことだ。