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作者: 黒匣知輝


俺は証券会社の営業部門でせっせと働いている一介のサラリーマンだ。最近は業績もうなぎのぼりで、今までの努力が報われる時、つまり出世も近いのではないか、そう思っている。

中高と男子校で育った俺は、女性との接触が極端に少なくなるということを引き換えに、高いコミュニケーション能力を手に入れた。運動はからきしだが、話術はお手の物だと自負している。

だが、昨今の世の中、女性が社会進出をするのは当たり前。会社のお得意様の中にも女性の顧客は少なくない。悪いことに、俺は女性に対する配慮というもののボーダーラインがどこにあるのかよく知らない。

だが、コミュニケーションをとることはそこまで苦にはしていない。なぜか。


俺には嫁がいる。幼馴染みの嫁だ。


気づけば彼女はいつも俺のそばにいた。あたかもそうなることが俺が生まれる前から、いや、世界が誕生する前から決まっていた運命であるかのように。

彼女はとても物静かだ。家事もろくにできやしない。なぜなら彼女は生来立ち上がることが出来ないからだ。それでも、優しい微笑みを俺に向けてくれる。俺の生きる希望ともいえよう。

ある日なんかは、仕事でヘマをやらかし、疲れて帰ってきた俺を優しく抱きしめてくれた。彼女の体は冬のせいか、少し冷たかったが、それでも俺は温かい心に暖められた。

何より、彼女は俺のワガママ全てに応じてくれるのだ。家事は出来なくとも、俺がやる。むしろ、お釣りがくるくらいの素晴らしさだと思わないか?


今日もお得意が1つ増えた。同僚が祝い酒をやろうと呑みに誘ってくるが、嫁が待ってるからと、謝りながら断る。

「そうか、大事にしてやれよ」

当然だ。一生彼女と寄り添ってやらないといけない。これは決められた運命なのだから。

今は子供はいない。欲しいのだが、なかなか懐妊までこぎつけることができない。今度産婦人科へ連れていってやろうかと思う。

大変なことはあるが、幸せだ。不器用な幸せだとは思うが、それでいい。現状に満足してしまう奴はそれで終わりだ、などと言う先人がいたような気がするが、現状で満足出来ない人生など御免被りたい。これでいいのだ。バカボンのパパもそう言っているように。

さて、今日は何をしてやろう。どんなワガママを言おう。楽しみだなぁ。幸せだなぁ。




























……







『昨夜、○○県○○市に住む営業職の男性、小島私市(こじま・きさいち)容疑者(29)を逮捕しました。失踪した同市の29歳女性の大学の同級生ということです。警視庁は「小島容疑者は話せる状態にないので精神鑑定も視野に入れて操作を行う」と発表しています。繰り返します――』

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