表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lost Child  作者: 未兔
8/34

フリオ・グルタ 第二節

(到着!ここがフリオ・グルタだよ!)

洞窟の中はとても暖かく、先ほどまでの雪山とは全く違う場所に出た。

見上げれば辺り一帯を光が照らし、昼間のような明るさだった。

様々な建物があり、活気もあった。


「すごい……洞窟の中なのにお昼の街みたい……」

まるで別世界に移動したようだった。


不意に背後から大きな物音がして、ユーは振り返った。

大きな門扉が閉じて、そのまま壁となった。

ほかの街で見かけた門扉と同じような役割と考えられた。


(ともかく、お医者さんのところに行くよ!)

「あ……はい、お願いします!」


ユーは気になることが多々あったが、今はミトの治療を最優先で考えた。

しばらく歩くと、一軒の小さな建物にたどり着いた。


(着いたー!ここがお医者さんのお家だよ!)

扉の前まで来ると、ウルソは二人を扉の前へ降ろした。

(話は通しておいた、後はここの医術士に頼むがよい)

「はい、ありがとうございました!」


ウルソは二人を扉の前へと運び、そのままどこかへ歩いて行ってしまった。

リンセは医者がいるという建物の扉を叩いた。

(センセー!患者さん連れてきたよ!)

すぐにドアが開き、一人の女性が現れた。


「その子が怪我をした子?とりあえず診るからベッドまで運べる?」

「はい!」

ユーはミトを部屋の中へと運ぼうとした。

「ミ、ミトさん……重くて運べない……」

ユーがどうやって動かそうとしても、ミトはその場から動かなかった。


「ど、どうしよう……」

ここまでウルソが運んでいたので特に問題はなかったが、ユーの力だけではどうすることもできなかった。

あたふたしているユーに、リンセが不思議そうな表情を浮かべながら近寄ってきた。


(えっと……ユーさんはこの子を洞窟までどうやって運んだの?てっきり魔法や小道具で動かしたと思ってたんだけど……)

「いえ、私は特に……。そうだ!浮力を使えば私にも……」

ユーは思い出したかのように詠唱し、ミトを優しい風で包み込んだ。

少し前にミトが抱き上げてくれたように、見様見真似で運んでみた。

「うぅ、思ったほど楽じゃない……!」

(頑張ってー!)

ユーはリンセに励まされながらベッドまで運んだ。


「はぁ、はぁ……ここでいいですか……?」

「はい、お疲れ様!それじゃあちょっと診させてもらうねー」

女性はいつの間にか白衣を身にまとっていた。

ミトの診察が始まった。


「つ、疲れました……」

(ユーさん、お疲れさま!)

ユーはベッドの近くにある椅子へと腰を下ろした。


(ユーさん、ひとつ聞いてもいい?)

「なんでしょうか……?」

(さっきも聞いたけど、ミトさんをどうやって運んできたの?)

「えっと、私が最初に目が覚めた時にはリンセさんたちと会ったあの場所にいて、どうしてこうなったのかもよく覚えていなくて……」

(ふーん。じゃあこの子はどうして怪我をしたの?)

「それは……」


ユーは俯いて言葉を詰まらせた。

自分のせいで怪我をさせてしまったことを思い出し、深く落ち込んでいた。

思い返せば、最初に会ったときからお世話になりっぱなしで、何もお礼ができていないような気がした。

このままミトの意識が戻らなければどうしようなどと考えているうちに、自然と涙ぐんでいた。


(ユーさん……?)

リンセはユーの膝の上に乗り、顔を覗き込んでいた。

「ごめんなさい、私のせいでミトさんが……」


「お取込み中に悪いんだけど、少しいい?」

白衣の女性はユーに話しかけた。

「この子の様態についてだけど、特に問題はないわ。いつ意識が戻ってもおかしくないし、外傷も残らない」

(センセーがそこまで断言するなんて珍しいね!結構な怪我だったと思ったんだけど)

「本当……ですか……?」

「あぁ、怪我については保証するよ」

「よかった……」

ユーはようやく胸を撫で下ろした。


「それで、聞きたいことがいくつかあるんだけども」

「な、なんでしょうか……?」

「この治癒魔法を施したのはあなたね?」

「はい……」


ユーの言葉に白衣の女性は眉をひそめた。

「あなたの治癒魔法でこの子の傷は完治したといってもいいほどだから、すごいわね」

「えっと……ありがとうございます……」

「治癒というよりも、本来の姿に復元させているの方が正しいかしら?」

「復元……?」


ユーには言葉の違いをうまく理解できていなかった。

その気持ちを感じ取ったのか、リンセが話しかけてきた。


(治癒は直接傷を癒したり、身体に回復を促したりするの。復元は元の状態に戻すこと、簡単に言うと身体の状態を無傷のときに戻すことかな)

「あ、ありがとう……」

ユーがお礼を言うと、リンセも軽く会釈をした。


「それともうひとつ、あなたはリンセたちの声が聞こえてるのね?」

「えっと……はい……」

「わたしたちにははっきりとした声はわからないけど、何を伝えたいのかは感じ取れるの」

「それじゃあさっきリンセさんが話してたことは……」

「内容まではわからないけど、補足してくれてたってところかしら」

「そう……ですね……」


ユーは少し俯いていた。

アニマル・ファクトについて人に話したことはほとんどない。

今まで他人に気付かれたことは一度もなかったが、母親に口外しないように言われていたので反応に困っていた。


「そう、やっぱりあなたは珍しい特性を持ってるのね」

「そう……なんでしょうか……?私にはよくわからなくて……」

「もっと自信をもっていいのよ、それはあなたにしかできないことなんだから」

「ありがとうございます……私、こんなこと話したの初めてかもしれません……」

「あら、わたし悪いことしちゃった?」

「いえ、そんなことは……」


先生はごめんねと言わんばかりの表情で笑っていた。

ユーは少し照れくさそうだった。

自分のことを母親以外に真摯に受け止めてくれた嬉しさで胸がいっぱいだった。

先生はそのまま眠っているミトの元へ視線を移した。


「そうそう、あの子はあなたとどんな関係なのかしら?」

「ミトさんは……優しくて強くて、素敵なお友達……でしょうか?」

「わたしに聞かれてもわからないわ、あなたの感じたままを話せばいいのよ」

「私の……感じたまま……」


ユーは立ち上がってミトの横へと移動した。

じっとミトを見つめ、優しく手を握る。

そして少し考えてから、再び口を開いた。


「ミトさんは私と初めて仲良くなれたお友達で、大切な人……です……」

「ボクもユーちゃんが大好きだよ!」

「きゃ!?」


突然ミトは目を開き、起き上がって抱きついた。

ユーは驚きと同時にミトの意識が戻って心底ほっとしていた。


「ミトさん!体の方は大丈夫なんですか!?」

「平気だよ!だってユーちゃんが治してくれたんでしょ?ありがとう!」

「あの、いつから起きてたんですか……?」

「んー、今さっきかな!」

「本当ですか……?」


ミトはそれ以上は何も言わず、笑ってごまかした。

ユーは少しむすっとしていたが、次第に笑顔になった。


「私は、ミトさんが無事でなによりです……!」

「心配かけてごめんね、ユーちゃん」

「すごく心配しました!もしこのまま目が覚めなかったらどうしようって……」

「ユーちゃんは優しいね、怪我を治してくれてありがとう!」

「いえ、もとはといえば私のせいで……ごめんなさい……」


ユーは泣きじゃくってミトの胸に体を預けた。

「ユーちゃんのおかげでボクは今とっても嬉しいんだよ!だからユーちゃんが悩むことなんてないよ!」

「ミトさん……」

「はいはーい、お二人さん感動のご対面中に申し訳ないけどそろそろいいかなー?」


唐突に二人の会話が遮られた。

「お客さんが来たみたいなの」


先生は扉の方へと歩いて行った。

落ち着いて耳を傾ければ、扉からノックの音が聞こえてきた。

どうぞ、と声をかけると一人の男性が姿を現した。


「先生、失礼します。外界の者がこちらに来ていると伺ったのですがーー」

「あら、早かったわね」

「こちらの二人ですね、すみませんが村長のところまでご同行願えますか?」

「はい!」


ミトが元気に返事をし、ユーは流した涙を拭っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ