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Lost Child  作者: 未兔
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フリオ・グルタ 第一節

どこまでも雪景色が続いるかのようだ。

感覚からしてイルサオンからは脱出できたのだろう。

だが、この場所がどこか全く分からない。


恐らくユーが何らかの手段でこの事象を起こしたであろうことは推測できたが、その方法がわからない。

本人から直接聞き出そうにもユーは眠ったまま動かない。

ミトが揺すってもほっぺを抓っても全く反応がない。

呼吸はあるが、この寒さの中で眠ったままだった。


ユーの心配をしているミト自身も背中の傷が思っていたよりも深い。

急所は外していたが、段々と体の力が抜けていく。

周囲を確認すると、すぐ後ろに洞窟のような空洞があり、そこに身を潜めることにした。

ミトはユーの肩を担ぎ、洞窟へと向かった。


「はぁ……はぁ……」

洞窟の入り口まで来ると、ミトの体力はもう限界だった。

意識が朦朧としていて、足取りがおぼつかない。


「ごめん……ユーちゃん……ボク、もう……動けそうに……ないや……」

ミトはそのまま意識を失い、俯せになって倒れた。


「う、痛い……」

ミトに担がれていたユーは、その衝撃で目が覚めた。

「ミ、ミトさん……?」


一緒に倒れていたユーはミトに声をかけたが、返事はない。

背中には焼けたような跡があり、服の上からでも怪我をしているのがうかがえた。

呼吸は荒く、熱もあるようだ。


「ミトさん!しっかりしてください!」

ユーがどんなに声をかけてもミトは目を覚まさない。

それどころか呼吸はどんどんと荒くなっていく一方だった。


「どうしよう、私のせいで……ミトさんが……」

ユーはどうにかしようとあたふたしていたが、パニック状態に陥っていてなにもできなかった。

そのとき、ユーは何かが視界に入ったのを感じて顔を上げた。


「あ……あぁ……」

思わず掠れたような声が出た。

洞窟の入り口より少し離れた場所からユーの何倍もの大きさの生物がこちらを覗いていた。

うさぎのような外見をしているが、熊のように大きな生物だ。

ユーは動かないミトにくっついて震えていた。


その生物は一瞬目が合うと、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。

ユーの目の前までやって来ると、その生物との体格差に圧巻された。


(ほら、やっぱり誰かいるよ!)

(確かにいるな……どうやってここに?)

不意にユーの心に優しい声が流れ込んできた。


「あれ……魔物じゃない……?」

ユーが思わず声を漏らすと同時に、大きな生物の懐から小動物がユーの膝の上にぴょこんと飛び乗った。


(あれ?もしかしてわたしたちの声が聞こえるんですか!?)

「あ、えっと……はい……」

(我々の声が聞こえるとは珍しいな……)


ユーは驚きと同時に動物と対話できる能力、アニマル・ファクトが通じていることを理解した。

小動物は真っ白な毛で全身を覆い、猫のような姿をしていた。


(初めまして、わたしの名前はリンセ。あなたはだあれ?どこからきたの?)

リンセと名乗った小動物はユーに問いかけた。


「初めまして……。えっと、私は……ユーと申します。来た場所は……えっと……」

ユーは言葉に詰まった。

一瞬フルネームで名乗るかを考えたが、ユーとだけ名乗ることにした。

だが、どこから来たのかを思い出そうにも名称や移動方法をよく覚えていなかった。


(失礼、我が名はウルソ。貴公がここに至るまでの経緯を覚えていないのか?)

ユーが必死に思い出そうとしているものの、ウルソと名乗る大きな生物が察して声をかけた。


「すみません、よく覚えてなくて……」

ユーは申し訳なさそうに答えたが、すぐに大事なことを思い出して再び口を開いた。


「そうだった!あの、ミトさんがすごく怪我をしてて意識を失ってて……!」

慌ててユーが説明をしようとするが、うまく伝えることができない。

その言葉を聞いたリンセは、ミトの傍に駆け駆け寄った。


(酷い傷……まずは手当てをしないと……)

「ど、どうしよう!?ミトさんが……!」

(お医者さんならこの近くにいるよ!)

(だが、その前に応急処置をせねばこの者を運ぶこともできまい)

「応急処置……そ、そうだ!私が傷を治せば……!」


ユーはミトの身体状況を確認し、傷口の位置や出血の量を把握した。

そして杖を構え、傷口に治癒魔法をかけた。

するとみるみるうちにミトの傷口が塞がっていき、止血も同時に行っていた。

ユーの治癒魔法でミトの目立った外傷への応急処置は完了した。


僅かに呼吸は落ち着いたが、まだミトの様態は芳しくなかった。

高熱は相変わらずで、この寒さでは長くはもたないことは明らかだといえた。


(これは……!?)

(貴公はやはり魔法が使えるのだな)

「あ……えっと、これは……あの……その……」

ユーは慌てて誤魔化そうとするが、咄嗟に言葉が出なかった。


(まぁよい、我々が安静にできる場所まで負ぶっていこう)

「わあ!?」

(それじゃあわたしが案内するから、二人とも落ちないでね!)


リンセが先導を切ると、ウルソはミトとユーを肩に乗せて洞窟の中へと進んでいった。


「あの、ありがとうございます!」

しかし、あっという間に行き止まりに突き当たった。


「あれ……?行き止まり……?」

しかし、ユーの言葉に誰も反応をせず、そのまま進んでいく。


「壁が……!?」

すると、壁に触れた部分から液体のように波を打ち、体が壁の中へと溶け込んでいった。


「わあ……!」

そのまま壁の中へと入ると、小さな都市が広がっていた。


(ようこそ、極寒の隠れ都市『フリオ・グルタ』へ!)

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