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Lost Child  作者: 未兔
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バルヘント 第三節

大通りの一角に夜だけ明かりが灯っている武器屋があった。

ユーが眠った後、ミトは一人でこの店に立ち寄っていた。


「…というわけなんだけど、どう?直せる?」

「うーん、これまた酷い使い方したねぇ…龍の鱗でも斬り落とそうとしたのかい?」

「まぁそんなところかなー」

「あまり無茶せんでくれよ、武器も泣いとる」

ミトはごめんねと言わんばかりの悪戯っぽい笑みを見せた。


この店での目的は、ミトがユーを助けた時に破損した武器の修理である。

状態が予想以上に悪いため、修理に時間がかかるのだそうだ。

見た目は古くてあまり高価なものではなさそうなのだが、一応騎士団の預かりものである。


もし団長にこのことが知れればこっ酷く怒られるであろう。

そのため、あまり目立たないこの店でこっそり修理して返そうという算段を立てたのだった。


「三日三晩寝ないでやれば終わるだろう、5日後に自由の街(リベルタージュ)へ発送でいいんだな?」

「うん!」


自由の街(リベルタージュ)はここからかなり離れた位置にある、バルヘントにも負けないほど大きな街だ。

内陸にあるため海は無いが、ありとあらゆるところから人や物資が行きかっている。

距離を考えると5日では到底たどり着けない場所なのだが、店主は何も言わず作業を始めようとした。


「ありがとう、またくるね!」

「気を付けてな、今度は壊れていない武器を頼むよ!」

ミトは元気よくに店を出た。


「さてと……」

ミトはまだ店を出て数歩しか歩いていないが、違和感を感じていた。

「イルサオン……ってとこかな?」


ミトがぽつりとつぶやいた。

イルサオンはいわゆる幻術系の類。

主に自分の優位な場を展開したり、空間内にターゲットを閉じ込めるという目的で使われている術式だ。


しかし、見たところ視界には大きな変化はなかった。

建物や街道はそのままで、振り返ればたった今出てきたばかりの店の扉があった。

だが、ミトは違和感を感じた原因を一つ察知した。


人が誰一人として居ないことである。

人通りの少ない夜の街とはいえ、まるでこの世界にミト一人だけが取り残されたかのように物音ひとつない。


この術式で作られた空間は、言わばパラレルワールドのようなものである。

恐らくミトを尾行したのち、ピンポイントで狙いドアの前に術式を仕掛けておいたのであろう。

この術式を解くには、術者が任意で解除するか術者の意識が失ったとき、または死んだときのみである。

また、必ず出口となる場所が最低でも一箇所設けられている。


ミトは闇雲に術者を探るより出口を探しつつ相手のほうから出てきてもらうほうが効率がいいと判断し、周囲を警戒しながら宿屋までの帰路を辿った。

特にこれといった問題もなく、宿屋の見える大通りまで戻ってきた。

後は大通りを横切り、細い道を進めば宿の前に辿り着く。


しかし、大通りの中央あたりに差し掛かったとき、後方から術式の光がミトを目がけて襲ってきた。

瞬時に刀を収めたままの鞘で軌道を変えながら、身をかわした。


攻撃が来た方向をよく見ると、建物の影に紫色に光る何かが隠れた。

ミトはすぐに近寄ると流れるような手さばきで刀を抜き、至近距離で紫色に光る何かを斬りつけた。

光の中心部にあった結晶が割れると、輝きを失うと同時に結晶が消滅した。


この結晶は敵を見つけると自らで判断して攻撃を行う独立型の監視術式で、グアルダと呼ばれている。

また、必ずしも結晶とは限らず、人や物に擬態している可能性もある。

そして単体であるとも限らない。


「おっと!」

後方上部から術式による攻撃が行われ、それをミトは寸前のところでかわす。

周囲を見回すとグアルダが前後左右、そして頭上にもいくつか確認できた。

建物の裏手は狭い路地になっていて、露店や民家が使っているであろう木箱や樽などがグアルダにとって都合のいい身の潜め所となっていた。


「すっごい分かりやすい罠に乗ってみたけど、こりゃちょっとまずいかな……?」

ミトは言葉とは裏腹に、あまり危機感を抱いていないようだった。


グアルダが小さく発光し、一斉に攻撃を開始しようとした。

その瞬間にミトは来た道を戻るように後ろにいたグアルダへ突進した。


「鳳仙花!」

言葉と同時にミトが刀に軽く触れると、ミト目の前のグアルダが一瞬にして斬り刻まれた。

ミトは移動しながら事前に空間を斬り刻み、それを今解放したのだった。


「ボクが何の対策もなしに突っ込んだりすると思った?」

ミトはそのまま走り抜け、グアルダの攻撃を回避しつつ大通りに戻った。

しかし、ミトはそこで見た光景に一瞬立ち止まってしまった。


「あ、ミトさん!」

「ユーちゃん!?どうしてここに……?」

宿で眠っていたはずのユーが目の前に居た。

術式による罠の可能性も考慮したが、ミトは直感で本人だと確信した。


「ミトさん、後ろに誰かいるんですか?」

ユーはミトの背後から迫ってくるグアルダの気配を感じ取っていたが、この状況とグアルダについての知識はまったくもってなかった。


ミトはすぐに振り返って武器を構え、応戦した。

同時に三つの攻撃が来たため、一つを刀で逸らし、もう一つを腰の鞘で弾き返した。

そして最後の一つをかわそうとしたが、ミトの背後にいるユーの存在を考慮していなかった。

仮にミトがうまくかわしたとしても、ユーがこの一瞬で状況を判断して攻撃をかわせるとは到底思えない。

武器で防ごうにも既に直前の技を防ぐために振りかぶっていて構えが間に合わない状態だった。


「くっ……!」

ミトはユーを庇うように立ち、背でグアルダの攻撃を受け止めた。

そして素早く反撃に移り、三つのグアルダを瞬時に破壊した。


「ミトさん!?」

「ボクは大丈夫、それよりも早くここから逃げよう!」

ミトの表情こそ普段と変わらないが、声からは若干の苦痛を感じられた。

こうしている間にも追手のグアルダがどんどん集まっていき、状況は悪くなっていく一方だった。


「私のせいで……ごめんなさい……」

ユーは申し訳なさそうに言葉を漏らした。


「いいから!それよりもここでじっとしてるほうが危ないから動くよ!」

「もっと遠くへ逃げれたら……私も……一緒に……」

「ユーちゃん……?」


ユーはその場から動こうとはせず、ゆっくりとミトの手を握り目を閉じた。

ミトもよくわからないがそれに応じ、しっかりと手を握り返した。

背後には既に数多のグアルダが迫っていた。

しかし、ミトが瞬きをするほどの一瞬目を閉じると、次に視界へ映りこんだのはグアルダでも大通りでもなく、雪山だった。


「こ、これは……!?」

ミトは何が起こったのか理解できずにいた。

暖かい気候とはかけ離れた冷たい空気が肌に触れた。

確かに寒いという感覚がミトには伝わっていた。


「どうなってるの……?」

ミトはしっかりとユーの手を握ったまま唖然としていた。

目の前にはユーが何事もなかったかのようにすやすやと眠っていた。

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