名も無き都市 第五節
「――というわけで……」
「そう、やっぱり魔法なのね」
ユーの自己紹介の後に、ミトが伏せていた部分の経緯を簡単に説明した。
……というのも、ユーの説明では時間がかかりそうなところを見かねたミトが助け舟を出した訳なのだが。
魔法が得意と述べたユーに興味が沸いたランサは、ここまで来た際に瘴気をどうやって対処したのかを細かく聞いていた。
ここ数年の研究成果が一瞬にして解決できたとなると心が折れるものだが、むしろ探求心に駆られたように質問攻めとなっていた。
途中からユーが質問を答えるようになり、あたふたしている姿をミトが眺める光景が続いた。
ミトは魔法について詳しくは説明できないため仕方がない、ということにしておく。
「……とりあえず、魔法は存在したってだけでも収穫ね」
「えっと……私の説明では不十分だったのでしょうか……?」
「新しい情報が多すぎてまだ整理しきれないだけよ、ありがとう」
ランサは少しだけ頬を綻ばせて答えた。
そして立ち上がり、ユーに問いかけた。
「転移魔法って今すぐできるの?」
「できると思います……」
そう答えたユーだが、当の本人もまだ理解しきれていない。
意図的に転移できても、座標が安定しない。
その上、無自覚な極度の方向音痴も相まって見知った地への転移もできていない。
……のはずなのだが――
ユーはすぐに杖を構え、目を閉じて集中した。
徐々に淡い光と風がユーとミトを包んでいく。
ランサは少し下がって二人をじっくりと観察し始める。
だが、ここに一人だけ驚きのあまりキョトンとしている人物がいた。
ミトである。
「……へ?」
あまりにも急な流れで思わず変な声が漏れてしまった。
少し間があって、我に返ったミトはすぐさまユーに声をかける。
「ユーちゃんちょっと待――」
「……ほんとに一瞬なのね」
淡い光と風が一瞬にして消え去り、同時に二人の姿も跡かたなく消えた。
最初から何もなかったかのように静まり返った室内で、ランサは再び一人となった。
「メル、いる?」
(ここに)
メルと呼ばれた生物『メルセナリオ』はランスの傍に姿を現した。
先ほどミトと一戦交えた生物だが、今は瘴気を纏っていない。
それどころか子犬のように小柄なサイズになっていた。
ランサは屈んでメルの頭を撫で、怪我がないか全身を隈なく確認する。
「……無傷なのね、瘴気の充満した場所で治療までするなんてとんでもないお人よしのお嬢さんね」
(……申し訳ない)
「私にはあなたの言葉は分からないけど、あの子はそれも分かっていたのかしら……?」
(主様……)
ランサは再び術式のモニターの前に座り、作業に戻る。
が、すぐに何かを思い出して手が止まった。
「メルと話す方法を聞いてないのに術式データを渡したままだったわ……」
そのつぶやきはメルセナリオにははっきりと聞こえていた。




