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Lost Child  作者: 未兔
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フリオ・グルタ 第十節

明るい陽射しが差し込む静かな朝。

先に目が覚めたミトは布団をたたみ、出立の準備を済ませる。


ミトは何気なく村長から頂いた水晶を手に取って眺めていた。

完全な球体は透き通った美しさがあり、屈折具合で鏡のように反射して映った自分の姿が見えた。

その向こう側にはぐっすりと寝ているユーの姿が映っていた。


「そろそろ起こした方がいいかな?」

ミトは水晶と整理した荷物をしまうと、ユーの元へと移動した。


「ユーちゃん、そろそろ起きよー?」

声をかけても起きる様子はない。


ミトはユーの体を揺すったりほっぺを摘まんだりしてみせた。

しかし、それでもユーの反応は全くなく眠っていた。


「んー……どうしよ……」

ユーの寝顔を眺めながら、ミトは悩んでいた。

少しだけ時間をおいてから、再びユーの顔を覗く。


ユーの鼻を一指し指と親指でそっと塞ぎ、左手は口元を抑えるようにして手で抑えた。

しばらくすると、ユーが息苦しくもがき始める。

このままでは起きる前に窒息しそうなので、ミトは止む無く手を離す。

ユーは少し噎せながら口で大きく呼吸をする。


「おはよう!」

「はぁ……はぁ……、おはようございます……」

「怖い夢でも見たの?」

「いえ……なんだか息苦しくて……」

「そっかー。とりあえず起きたことだし、そろそろ支度とか済ませようね!」


ユーは自分が何をされたかなど覚えておらず、寝起きは非常に弱いらしくほとんど記憶に残らない。

ミトはユーがただ夢でうなされていたということにして何食わぬ顔で布団を畳み始めた。


(今度から起きなかったら、いろいろ試してみようかな……)

ミトは何も気付かなかったユーの後ろ姿を見てほくそ笑んだ。



出立の準備を済ませた二人は部屋の出入り口へ向かった。

そのとき、一瞬強烈な光に周囲を覆われ視界を奪われた。


二人が目を開くと、村長が玄関前でのんびりとしている姿があった。

村長はすぐにこちらに気付き、小さく会釈をした。


「おはよう、よく眠れたかの?」

「おはようございます!ぐっすり眠れました!」

「おはようございます……よく眠れました……」

「うむ、それはなによりじゃ」


ミトは元気よく、ユーはまだ寝足りなさそうな声で返事をした。

もっとも、ユーはいつまでも寝ていられるタイプなので、満足するまで寝るということはほとんどないのだが……。


「そういえば、こっちに来るときに光に包まれて移動したんだけどーー」

「転移魔法は初めてじゃったかの?ここに来るときにも使ったような話をしとったようじゃが」

「あ、あれが転移魔法なの!?」


ミトは転移魔法を一度経験している。

イルサオンから脱出した時である。

ユーを庇って負傷した際、切羽詰まっていたためどういった現象が起きたのかなどは理解していなかった。


話によれば、魔法による空間転移なのだが、予め設置しておけば誰もが何度でも使用できる優れもの。

設置者が除去、もしくは亡くなった場合に効力が消滅する。

習得にはかなりの時間と鍛錬が必須だそうだ。


転移についての話が終わると、村長は床を杖で軽く叩いた。

見た目は変わらないが、区切りをつけたということだろう。


「さて、そろそろ行くのじゃろ?」

「はい、大変お世話になりました!」

「あ、ありがとうございました……!」

「ふむ、達者での!」


二人は門をくぐり、手を振りながら町を後にした。

次の瞬間、行き止まりの洞窟へと場所が移り変わった。


元の世界との落差にミトは夢から覚めたような不思議な気分になった。

一方のユーはというと、慣れているのか落ち着いた様子でどこか眠たそうにしていた。


「うー……んっ!やっぱり太陽の光が一番いいね!」

ミトは伸びをしながら元気に声を出した。

あまり感じなかったが、ずっと地下に閉じこもっていたので太陽の光が体に染み込んでいくようだった。


「いい天気ですね、ぽかぽかしててお昼寝日和です……」

「気持ちはわかるけどまだ寝ちゃだめだよー!」


ユーがミトの後ろから続いて歩く。

二人とも太陽の光に暫く慣れていなかったこともあり、普段より一層眩しく感じていた。

目を少しずつ慣らし、ゆっくりと目を開いた。


「わあー……!」


ユーは思わず声を漏らした。

二人が立っている場所を境にして、草原の大地が広がっていた。


後ろに振り向けば見慣れたネーヴェ氷山の雪景色があり雪の大地が光を反射させきらきらと輝き、まるで宝石がちりばめられているようだ。

「人と不用意に接触しないために普段は猛吹雪にしてるって言ってましたね」

「でも今は雪も降ってないし天候すごくいいよ?」

「きっと村長さんたちが私たちに気付いて気を利かせてくれて今だけ晴れにしているのかと……」

「魔法ってそんなにすごいことができるの!?」

「はい、その位ならできるかと……」


ユーは、魔法に関心を持つミトに嬉しそうな笑みを浮かべながら話した。

遠くに次の目的地の街が麓に見えた。

二人の知らない土地で待ち受けているものは果たして……?


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