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Lost Child  作者: 未兔
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フリオ・グルタ 第六節

門を抜けると、突然足元が雪だらけになった。

既に日が沈んでいて視界のほとんどが暗闇だが、なにかが照らしていて二人の足元は明るい。

ミトが先ほど村長から渡されたクリスタルを取り出してみると、クリスタルの輝きにより可視範囲が広がった。


ユーはそれを見て、自分にも渡されたクリスタルを取り出した。

ミトの持っているクリスタルと呼応するかのように、ユーのクリスタルも一層輝きを増した。

同時に、暗闇はクリスタルの輝きによってかき消された。


ミトは周囲を確認してみるが、そこには文字通りなにもなかった。

前方はもちろん、左右や背後に至るまで銀色の大自然しか視界に入らない。

一歩間違えればどこにいるのかわからなくなってしまいそうだ。


「ユーちゃんにはなにか見えてるの?」

ミトは何となく察しがついたようだ。

村長のときに見たムンドがここでも展開されているのではないかと感じていた。


「はい、えっと……道があって、先に大きな空間が見えます……」

ユーの視界には雪が被っていない石畳の道が続いているそうだ。

その道の先に不自然にできた大きなスペースがあり、そこに祠があるのではないかと話した。

それ以外に建物や目立った特徴もなかった。


「ボクには雪しか見えないから、ユーちゃんに道案内はお願いしてもいいかな?」

「はい、えっと……頑張り……ます!」

「もし魔物とかが現れたらボクに任せて!」


ミトにはムンドの仕組みを理解しても、村長のように誰かに展開してもらわなければ認知できない。

つまり、ユーでなければ目的の祠までたどり着けないのだ。

ユーは案内ができるかどうか一瞬戸惑ったが、笑みを浮かべながら嬉しそうに歩きだした。

自分にしかできない役割をミトから任されたことに、気分を良くしていた。

そんなユーをミトは横から眺め、小さい子どもが無邪気に喜んでいるように思えて釣られて微笑んだ。


「……っと、言ったそばからっ!」

二人の少し先で雪がもぞもぞと動くのが見えた。

ミトはすぐにユーの前へ動き、臨戦態勢の準備に入る。


雪の中から何かが出てくる。

それはしっかりと凝視しなければわからなほど小さくて白かった。

しばらくすると、赤い目で周囲をきょろきょろと見回し始めた。


「……ウサギ?」

「あ、ミトさんダメです!それは動物ではーー」

「おっとっと!?」


ミトは警戒を解いて近くに寄ろうとしたが、その瞬間ミトにとびかかってきた。

咄嗟に鞘に納めたままの刀を盾のようにして防ぎ、白い生物の攻撃を防ぐ。

見た目はウサギのような白くて可愛らしい姿の生物。

しかし、口にはその容姿からは想像できない鋭い牙が鞘を噛み砕かんばかりに食らいていた。


ミトは鞘をごと白い生物を振り払い、いったん距離を離す。

しかし、ミトにはあまり敵意が感じられなかった。

現に距離を離している今は襲ってくることもなく、再びきょろきょろと見回した。


「ミトさん、多分この生き物は魔物ではないです!」

「というと……?」

「えっと、この通路を進めばこちらに危害はないとおもいます……仕掛けのようになっているんでしょうか……?」

「……ユーちゃんは村長みたいにムンドを展開できる?」

「えっと、やってみます……。ミトさん、もう少し近くに来てください……」


ユーは杖を構え、目を閉じてゆっくりと息を吐いて呼吸を整える。

ユーの意志に応えるかのように杖が光る。


「展開せよ、ムンドの標よ……!」

ユーの言葉に反応し、一瞬にしてミトの視界に映る世界が変わった。

雪以外何もなかった銀世界が、歩道のある雪道となった。

少なくともこれでミトにも方角の目星がつけられるようになった。


しかし、同時に問題も起きた。

ミトの視界は若干悪くなったのだ。

ユーの腕では完全に他者をムンドに誘いこむことができず、数十メートル先は真っ暗になっていた。

しかし、ミトはそんなことを気に留めず、ユーに感謝を述べた。


「すごいや!それになんだかこの道を歩いてると暖かいね。さっきまで正直なところめちゃくちゃ寒くてずっと居たら風邪をひいちゃいそうだったもん!」

「そうですね……どうやら魔法で暖房と断熱、それに外敵からも守られるようにセキュリティもかけられてるみたいです。村長さんの真似事なのでうまくいかないかもしれないと思いましたが……どうでしょうか……?」

「ばっちりだよ!さっきのままじゃボクが迷子になっちゃうもん!ありがとう!」

「あ、えっと……ありがとうございます……」


そういってユーは歩き始める。

先ほどのウサギのような生物の近くを通るが、まるでこちらに気づいていないように何の反応も示さない。

ミトが通ってもそれは同じで、どうやらこの道を進めば安全に目的地までたどり着けるようだ。


「こりゃ普通の人じゃわかんないわけだね……」

ミトは感心しながら、ユーの後について行った。

どうなってるのか、何が目的でこのような仕掛けを用意していたのかといったことを話しながら進んでいく二人。


ユーはミトに褒められて嬉しかったのと同時に少し自信もついた。

話しながら進むユーの足取りは軽いが、進んでいる方向はどんどんと目的地から離れていく。

ミトの視界では目的地をはっきりととらえられないため、そのことに気づくことなくどんどんとユーの歩む方へと進んでいくのであった。

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