球体関節人形に転生しました
目の前の状況をどうしようと考える私、マリーって言うの。
持ち主となった少女に忍び寄る黒装束の人物。
どうしてこうなったか?を思い出すと、自分は迷宮で生まれた人形族機人種であり。前世の記憶というものがうっすらと残り、自分自身はその前世の世界で生きていたとはっきり言える人格は自分なんだろうと考えていた。
迷宮の他のモンスターに殺されそうになったり、殺したりをして“世界のルール”を実地で学びすごしていたある日。(ご飯の心配もないし、排泄も必要ないし、疲れもしない。睡眠も必要ないので迷宮をうろうろとしていた)
他の生物の気配を感じ、壁際から覗き込むと完全武装した人族が迷宮の魔物たちを血祭りにあげていた。そりゃもう声が出ていたら悲鳴を上げていただろう惨劇だった。
人形族として生きている自分は討伐の対象であるため、やりすごそうと近くの小部屋へ向かう。
だが人族はその小部屋へと向かってきた。死ぬようなことはないが死んだものは溶けるように消える迷宮で自分の“特異性”を発揮すればおかしいと思われる。
隠れるところを探すと丁度膝を抱えれば入れそうな豪華な装飾がされた箱を見つける。その中に隠れやり過ごそうとじっとしていると、箱を開けられた。隠れたソレは宝箱だったからだ。
私の馬鹿。
身体の力を抜いて人形の振りをする。
外見は整っているはず。烏の濡羽色をした腰を超える長髪、顔は人の手による人形細工では到底到達することのできない造形。人形ゆえに整った体型。やや伏せ気味の陶器の瞳は冬の空のように澄み冷たい色彩をしていた。
宝箱を開けた男性はほぅと私をじっと眺め、関節が球体で出来ることに気がついて、私が普通の球体関節人形だと思ったらしい。
何かの袋に入れようとしたが入れることが出来ず、仲間の一人に持つように頼み込んでいた。一人娘の土産にするとか。
で、迷宮から出るまで成すがままに運ばれ、男性の屋敷に到着する。すごくでかい。映画とかで出てくるような西洋風の屋敷は、噴水のある庭園があり、敷地の入り口から屋敷の入り口まで優に100mはあった。
オールドスタイルメイド服を着たメイドさん達に、自分はフリル満載のドレス、キャップもかぶせられ、髪も綺麗にリボンを編み込んで結われた。身体が女性の形してたし服装云々については仕方ない。
で、一人娘という少女は私よりも人形のようで、絹糸のような金髪に大きな瞳、ふっくらした頬、私を見た瞬間に眼を大きく開けて父である男性に何かを聞き私の傍へ。
「あなたのなまえはマリエッタ、マリーよ。よろしくね、マリー……!」
私の手を取って満面の笑みで名前を告げる少女。
……あかーん!かわいい!かわいいぞー!うぉー!!と内心叫んだ。ガラスの瞳でよかった。生身だったら眼が潰れてて、のた打ち回るところだった。
で、そんな少女の部屋にいっぱいの人形とともに飾られた訳で。
そして、目の前に暗殺者が居るので捕まえることにした。あんな少女をころすなんて とんでもない。人類の損失だと思う。
音もなく動き、暗殺者の頬を片手でつかみ、力をこめる。口をふさぐことも出来るし。
驚きに眼を張りながら暗殺者はナイフを落とす。みしみしと軋む下あごの激痛に、私の腕をつかむ。
つかんだ手を更につかんで、手首を握りつぶす。
人形族となったせいなのかはわからないけど、この細い腕からは想像もできない握力である。握撃も出来るんじゃないだろうか。手が小さいから無理か。
両腕をつぶし、下あごを砕く。
真っ赤な泡を吹いて倒れた暗殺者を予備のシーツを裂いて作った縄で亀甲縛りで縛り、テーブルに引かれた布に“暗殺者なう”と書いて近くに転がしておく。
そして、手近にあった文鎮を手にとって、私の定位置に戻る。手の文鎮をドアに向かって投げた。
大きな音で、守衛の兵士が部屋に飛び込んでくる。そして、暗殺者の姿を見てばたばたと騒がしくなっていった。
うむうむ。さっさと引きずって行ってくれ。
で、少女の父である男性は誰がこんな事をと首をかしげていた。
……で、数日たったら何でまた暗殺者が入ってきてるんですかね。
後ろから首を絞めて、落とす。……なんでこんなことができるのかはわからない。前世の記憶にしてはなんていうか的確すぎない?
次は、拷問で使われた、身体をふかく折り曲げるようにして脚を開き、足首と首を縛る縛り方にしてみた。……なんでこんなこと知ってるんだ?まぁ……有効に使えるんだからいいや。
再び、文鎮を投げて守衛の兵士に気づかせる。
少女の父は首をひねる。で、私のほうを見た。
……表情筋がなくてよかった!あと瞬きも、呼吸も汗もかかないこの身体に感謝。パーフェクトにポーカーフェイスだし。
その後も何度も暗殺者がやってくる。飽きてきた。
暗殺者に逆えび固めをしていると、部屋の扉が開いた。
一瞬、力が抜けたところで暗殺者が少女に飛び掛るが、空中で捕まえ足首を持ち、脚で脇を固定して床に突き刺すように落下。
暗殺者の頭が床に突き刺さり痙攣し始めたが無視して、そのままに少女の父と対峙する。
「……いままで暗殺者を捕まえ続けていたのか、おまえか」
言葉と共に剣を抜く男性。
こくりと頷く。
私の正体を考えていたようだったが、瞬きもせず動かない表情、そして、球体関節や自分が見つかった状況から、私の正体を見破ったらしい。
……流石に殺されるだろうなぁ……うーん……んー……。
男性の技量はそこらの暗殺者を遥か上。……だけど、私の身体はそこらの人形族と違う。簡単には死ねないんだよなぁ……。
少女が眼を覚まし、対峙する私と男性を見て驚きつつも私の前に立った。
「エミリア!離れなさい!」
「ダメよ、お父様!マリーはいつも私を護っていたのよ!」
なんとなく気がついていたそうだ。……まぁ、あんなどたばたしてたら気がつくよね。
「それは……マリーは人形族機人種!オートマタなんだぞ!」
「それがどうしたのお父様!ずっと私を護ってくれたことは本当のことでしょ!私の恩人を傷つけるの……?」
少女、エミリア・フラムテール・ランロットが私の腰に抱きついてくる。むぅっと頬を膨らませた顔は非常にかぁいい。
流石に目の前で剣を抜いたままの武人の前で抱きつかれているのは身を守る上で非常にまずい。かといって無理やり離すわけにも行かず、かといって声を出せないから離れるようにも言えず……身振り手振りで離れるように促すがエミリア嬢は一層、抱きついた力を込めて来る。
思わずすがるように男性を見てしまった。そんな様子を見て男性は小さくため息をついて剣を収めた。
「あー……名前はなんていうんだ?」
「マリーよ、お父様!」
「ああ、いや…そうじゃなくてだな…」
本当の名前を聞いたのだろうと思うけど、私は小さく首を横に振った。
前世の名前は忘れたし、マリエッタというのが今の私の名前だ。
■ □ ■
動けることがわかった私は少女の付きのメイドになりました。
……正直、どうしてコウナッタ。
私への反応は様々。人形族であることを怖がる人も居れば、ものめずらしそうにする人もいた。
で、他のメイドと変わらない態度のメイド長に付いて、メイドとしての仕事を学んでいく。……精密機械並みに自分の身体は動けるし、体力という概念がない私はせっせと仕事を覚えていく。
この世界のことも学ぶため、夜は本を読むことにした。
月明かりがあればはっきりと本の文字は追えたので、エミリア、いいえ、お嬢様の部屋で寝ずの番である。
気配というものもないし、眠らなくていいので時折来る暗殺者を捕まえる。今日はCQCを試した。マリー、基本を思い出すのよ。
芋虫にした後、外にいる衛兵に突き出しておいた。
本の続きを読むとこの世界には魔法と言うものがあるらしい。体内や外気に存在する魔力、マナを使用して、『想像し創造する力』だそうだ。
うーん……魔法、なんていうか憧れに似た感情があった気がするけど……そんな風にいわれてもいまいちピンとこない。魔法は使えたほうがいいけどね。
魔力は体内のマナを操作して循環させ練ることでその総量を増やせるとか。
自分の身体中はがらんどうで、心臓と同じ位置に私の核となる魔石があるぐらい。核の回りにあるもやもやとした熱のようなものを広げて空のところに詰め込んで、こう流動するような……。
お?おおー。ぐるぐる動いてますよ!
……でも、増やしてどうする?火を放つとか屋敷の中じゃ危険すぎるし。
あ、『想像し創造する力』だというのなら、しゃべれるんじゃないかな。
声、音は空気の振動、振動の幅が音の高さ。
『あ……あ……?』
おお、できるできる。正に想像し創造する力、魔法!
流石に低すぎるかな……お嬢様が寝ている間に練習練習。……安眠妨害にならないないように音は伝わらないようにしてみよう。……大丈夫かな?
魔法で練習しているうちに、朝日が昇りました。
今日もいい天気。どの世界の朝日というのはこう、心が沸き立つというか、やるぞー!って気分にさせるというか全てを一新するかのような……すっきりした気持ちになるね。
……っと、そろそろ、お嬢様の起きる時間だった。
メイドとしてやっていくなら口調もちゃんと整えた方がいいかな。他のメイドさん達のしゃべり方を真似てみよう。
『お嬢様、おはようございます』
「ん……うん……ふぁ……おはよう……マリー」
『おはようございます。今日も良い天気ですよ』
「そう……?なら、今日はお外でお茶……。マ、マリー?」
『何でしょうか、お嬢様』
「……しゃべれるの?」
『魔法で音を出していると言ったほうがいい方法でですが』
「わぁ、すごいすごい!マリーとおしゃべりできたらいいなーって思ってたの!」
ベッドの上で飛び跳ねるのははしたないですよ、お嬢様。
『改めまして……おはようございます、エミリア様。傍付メイドとなりました、マリエッタにございます。どうぞ、マリーとおよびくださいませ』
「うん、よろしくね!マリー!」
嬉しそうに目を細めて私に抱きついてくるお嬢様。表情筋があれば私も思いっきり笑みを浮かべていただろう。
他の人と意思疎通ができるのは非常によかった。特にお嬢様の父上であるヤコール・アフラータ・ランロット様とこの世界について話すことは非常に有意義だった。私は常識って言うものを知らないからだ。
■ □ ■
今日の暗殺者は一味違いますね。巴投げの要領で庭に共に飛び出しました。
……手加減は無用のようです。
右手を動かし、内蔵していた剣を取り出します。
手首のところから二つに分かれ、自分の腕と同じ長さの剣を展開させます。見た目は手首のところから剣が生えているような感じになります。この状態でも右手は動かせます。
人形族機人族の真骨頂である、身体の各部に隠された暗器です。腕にはもう一つの武装はありますが、まぁ、大丈夫でしょう。大きく展開するので袖が邪魔ですしね。
これに驚いたのは暗殺者の方です。
人間かと思っていた相手の手首から剣が生えたのですから。ですが、怯まずに戦う気になったのか腰の剣を抜きます。
サーベルのような剣ですが、刀身が真っ黒に塗られています。
距離を詰めて切りかかってきます。
流石に騒ぎに気が付いたのか、屋敷のほうが騒がしくなってきました。ここで逃がすのもいけませんし……。
剣を交わし、メイド服が僅かに切り裂かれていきます。割りと高い服なんですが……。
決め手となる一手がないまま攻防が続きます。
上段からの攻撃をかわせず、左の鎖骨からお腹の球体関節まで切り裂かれてしまいました。が、チャンスです。
「なっ……ぐあぁぁぁっ!?」
左手で切り裂かれた剣をつかみ、剣を収納した右腕で頭をつかみます。アイアンクローです。みしりみしりと相手の頭蓋が軋みます。
『……女性の身体を切り裂くとは、許せません』
「あっ!?あっ!?があぁぁぁぁっ!!?」
右手だけで相手を持上げます。その分余計に力が篭ります。
……おや、泡を吹いて意識を失いましたね身体がびくんびくんと跳ねてますが死んではいないようです。
「マリエッタ殿!…だ、だいじょうぶですか!?け、剣が…」
『私の種族を忘れた訳ではないでしょう。これをお願いします』
「は、はい」
数人の兵士がやってきて暗殺者を預ける。
腹部までざっくりいった剣を抜き、一緒に預ける。
……自分の身体の中を見るのは、何度目かですが今は綿のようなスポンジのような繊維が詰められて居ました。魔法を使うにつれて身体の能力が上がっていることに気が付いていましたが、防御力があがっているとか?
僅かに光輝く真紅の宝石が私の核である魔石でしょう。
「マリエッタ!?無事か?」
『旦那様、この通り無事でございます』
「いやいやいやいや……肩口から胸の下まで傷は無事とは言わん!」
駆け込んできた少女の父親、旦那様がぶんぶんと首を振ります。
人間であればそうでしょうが、オートマタとも呼ばれる私にはたいした問題ではないです、さらに私の種族特性が不死身に近い身体を与えています。
が、動けないようにすることはできるので、旦那様と私の回りに真空の壁を魔法で作り出します。
『この言葉は旦那様のみ伝えています。私の種族特性は【自動修復】です。この程度であれば数日で修復してしまいます』
「人形族の…」
この種族特性は、たとえ核が破壊されても残っていれば周囲のマナや魔石や身体に残ったマナによって復活できる。
どこまで破壊されれば私が死ぬのかは試していないが。
「はぁ……わかった。確かにそうならばその程度の傷何も問題ではない。が、その姿をエミリアに見せるわけにもいかん」
『はい。適当に固定すれば勝手に直りますので、着替えてまいります』
自室という私の衣裳部屋に戻り、切断部分を包帯で巻いて固定する。
マナを流動させ、傷ついたところに集中させる。パキ、パキと小さな音を立てながら身体の修復が始まった。
新しいメイド服に着替え、お嬢様のところに行きましょう。
涙目になっていたお嬢様に抱きつかれて、危険なことはダメと言われ少しだけ反省します。お嬢様を護る為もっと強くなる必要があるでしょう。
とりあえず名うての冒険者であるという旦那様に剣を教わりましょうかね。
■ □ ■
多くの人に祝福され、純白のドレスを纏い歩むお嬢様。
いまや立派に成長され完璧な淑女となりました。
お嬢様の隣には想い人である次期公爵の青年。
まったく、ここまでたどり着くのどれだけの苦労があったと思います?
まずお嬢様に弟君がうまれました。立派なシスターコンプレックス、いわゆるシスコンの弟に育ちましたが、矯正はできなかったもののお嬢様の結婚は認めました。
社交デビューをすればその外見から山のような見合い用の絵が届き、それを大体は燃やした旦那様をたしなめました。私が屋敷に来たときにはお嬢様の母君は亡くなっていました。そのため一人娘がかわいいのはわかりますが、だからと言って上位貴族の見合い状を燃やすのはだめです。
心情は理解できますが。
誘拐されそうになったお嬢様を助けたり、ヘタレだったお嬢様の夫君のケツを蹴り飛ばしたり、絡んでくる恋敵と角を付き合わせるお嬢様を援護したり。
わたくし、パーフェクトなメイドですから。
その結果、大恋愛というか波乱万丈な紆余曲折を経て結果、迎えた大団円にほっとしています。
そして、1年も経たないうちに念願の第一子が生まれました。
毎晩お盛んでした。あるときなど、お嬢様、いえ、奥様が物憂げにため息をついおりましたので理由を聞くと
「マリー、私、フリアに飽きられていないかしら……」
手に持っていたティーカップのコースターがかけた親指の部分だけ削れるように割れました。……味覚というものはないはずなんですが、甘ったるいです。
フリアというのは奥様の夫であるフリアーレ・グロッソ・エリュシオン様のこと。奥様のことになると途端にヘタレになる御仁です。
奥様が居ない時に、フリア様が相談と『ちゃんとエミーを満足させているだろうか?』と真剣な表情で聞かれ、手に持っていたポットの取っ手が砕けました。その後は、極く濃く苦く出した紅茶をお出ししましたよ。
フリア様にはそれは男の甲斐性です。ときっぱり言い、お嬢様にはセクシーな下着のカタログをお出ししました。
マンネリ解消には雰囲気を変えることからと前世の記憶にあったのです。……本当にこの前世の記憶というのは訳がわかりません。謎の戦闘技術から聞いたこともない料理の知識、おばあちゃんの知恵という便利な知識には非常に助けられましたが、本当に正しい知識なんでしょうか。
セクシーな下着を纏った奥様は恥じらいで顔を赤くなっておりました。後日、フリア様が私へ親指を立てて居たのでよかったようです。
この作戦が成功したかはわかりませんが難産ということもなく、第一子、アリステール・エミリア・エリュシオン様がお生まれになれました。
これを喜んだのは、奥様のお父様である、ヤコール様。
完全に爺馬鹿となっていました。生まれる前から過保護気味ではあったものの、振り切っていましたね。
ヤコール様はアリステール様を抱き上げながら言ったのです。
「うむ、アリステールの婿になるのはワシを倒せるほどの男ではないと認めんぞ!」
『ヤコール様、それには同意いたしますが、老骨に鞭打つ必要はないですよ。ここは、私が……』
すでに冒険者を引退している身であるものヤコール様はそこらの貴族の子供など無手でも戦えるだろう。
だが、やはり歳を召しているため万全を期し私がその役目を担うべきだろう。
「うーむ……いや、ここは二人を倒した男にすべきだろうか」
『流石でございます、ヤコール様』
「お父様もマリーも変なこと言わないで!」
ちょっと私もメイド馬鹿になっていたようであると反省した。
その三年後、第二子であるクラウデン・エミリア・エリュシオン様がお生まれになりました。
ですが、その頃になるとヤコール様はベッドの上で過ごすことが多くなられました。
「クラウデン、良い子に育つんだぞ。マリー、話がある。他の者ははずしてくれないか」
奥様に抱かれたクラウデン様の頭を撫でたヤコール様はそうおっしゃりました。
二人っきりになった部屋で、ヤコール様は深く長く息を吐かれました。
「マリー、後は頼むぞ」
『ヤコール様、なにを弱気になられているのです。アリステール様の婿を二人でぼこぼこにすると言ったではありませんか』
「くくく……げほっ……げほっ」
咳き込まれたヤコール様の背を撫でると大丈夫と呟かれる。呼吸が落ち着くまで背を撫でた。
ヤコール様は私の手を取って目をあわせられる。年老いてもなお強い光を放つ目がじっと私を見ていた。
「自分の死期はわかっているつもりだ。あの時、マリーを迷宮から拾ってきたのは正解だった」
『ヤコール様、それは私の言葉です。迷宮という限られた場所からこの広い世界へ連れ出してくれたのはヤコール様です』
「ああ……そうだな。……一つだけ、頼まれてくれないかマリー」
『なんでしょうか?ヤコール様』
「娘を、孫達を頼む」
再び真っ直ぐに目を向けられて言われた言葉。
私は、腰を折り最敬礼を取る。
『かしこまりました。ヤコール様』
「ああ、頼むぞ。剣の腕は最盛期の俺と変わらんしな……これで思い残すことはないな」
満足そうに息を吐くヤコール様。
『ヤコール様、クラウデン様に剣の稽古をつけるということも出来ましょう。気を強くお持ちください』
「ああ……そうだな」
クラウデン様に剣を教えるところを想像されたのか、ヤコール様は笑みを浮かべていた。
だが、ヤコール様はこの7日後、旅立たれた。
葬儀が済み、奥様はフリア様がついているので私は屋敷の庭に出て夜空を眺めていた。
前世の知識には死を迎えた人は星になるとか、草葉の陰から見守っているとかあったが、私自身の経験から言えば輪廻転生ということを考える。途方もなく大きな流れの中で死のない私、もしかしたらもう一度、この世でめぐり合えるかもしれない。もしかしたら異世界に転生されているかもしれないが。
『ヤコール様、またいつかどこかでお会いしましょう』
私はその場で再び最敬礼を取った。
■ □ ■
立派に成長されたアリステール様が結婚された。婿養子ということだが、才覚のある男性だった。
私のことも割とあっさりと受け入れてくださった。むしろ、魔物の研究をしているということでいろいろと調べられたりもしたせいかもしれないが。
すぐに第一子であるフィフテリア様がお生まれになった。だがその際にアリステール様は命が助かる事と引き換えに子を産むことが出来ない体になってしまった。
初めはアリステール様の命か、フィフテリア様の命かという瀬戸際だったのだが、アリステール様はフィフテリア様の命を優先させた。だが結果は子を産むことができなくなったが二人の命が助かったのだ、悪い結果ではなかったと私は思う。
それでも妾を取ることもせずに旦那様はアリステール様を愛されたので少しだけ見直した。
そして、再び別れの時が来た。
「マリー?」
『何でしょうか、大奥様』
「ふふ、昔のようによんでくれないかしら」
『はい、エミリア様』
エミリア様は老婦人となっていた。美しいままに歳を召され、今はベッドに横になられている。
死の床ということだ、ベッドから差し出された手は細くやせ細っていた。
伸ばされた手は私の頬をなでる。人のように柔らかくはないが、魔法によって人肌程度には温かいはずだ。
エミリア様の手に自分の手を重ねる。
「あなたはあの頃と変わらないのわね」
『そういう種族……でありますから』
「そうね。こればっかりはどうすることも出来ないわね。ふふ、あなたを見ていると私も若返った気がするわ」
『今でも若々しいと思いますよ』
エミリア様の腕をベッドに戻す。
「そう……そうね。でも、平等に終わりは来るわ。もうすぐ私もフリアの元へ行くことでしょう」
フリア様は2年前にお亡くなりになっている。そこからエミリア様は次第に弱られていった。
涙を流せない自分が疎ましい。声を上げて泣きたい。
「泣かないで」
『なぜ……?』
表情が変わらないはずの私にかけられた言葉に首をかしげる。誤魔化すようにエミリア様は笑った。
「ふふ……一つ、そう一つだけお願いしてもいいかしら」
『はい、エミリア様』
「アリステール、そして、フィフテリアを頼みます」
エミリア様の言葉に人であれば大きく目を見開いていたであろう言葉。
この一言を口にする魂を持つヤコール様やエミリア様が居るこそ、私はメイドとして仕え生き続けようと思うのだ。
『かしこまりました、エミリア様』
私は再び腰を折り最敬礼をする。
そして、エミリア様は家族に見守られ、旅立たれた。
■ □ ■
幼いフィフテリア様は、エミリア様のようにどこかお転婆で胆力があった。
肝が座っていると思う。
自然と人形族である私を受け入れられ、そして、廊下を走って私に向かってきた。
「マリー!マリー!ねぇ、魔法について教えてほしいの!」
『お嬢様、学園に通われるようになれば嫌でも授業を受けるようになりますよ。それに廊下を走ってはいけません』
「ごめんなさい。でもでも、夜になっても魔法で光を生み出せば本が読めるし……」
お転婆でありながら、読書家で天才肌。
教えたことをどんどん吸収していくので教えるほうも面白くなってしまう。ついフィフテリア様の父である旦那様もいろいろと教えているようだが、釘を刺しておくべきだろうか。
せがまれるままに知識を教えていくうちにフィフテリア様はすくすくと成長され、学園を無事に卒業され……後宮へと召抱えられることとなった。
……私が主と仰ぐ人物達は波乱に巻き込まれる運命にあるんだろうか、これが血の運命……。
……現実逃避をしているわけにもいかない。
後宮に入る理由は王太子に見初められたとか。男爵位のダンスパーティーに何で王太子がでてるんだ、ちくしょう!……失礼。
前世の知識では後宮は女の戦場とのことなので、私はフィフテリア様付のメイドとして隙をなくさなければいけない。
主人のウィークポイントになるなど私のプライドにかけて許す訳には行かない。
最初に後宮に入る際、問題になったのは私の種族だった。
迷宮に出るような化物だっていうことを私はここ数十年、すっかり忘れていた。周りの人々があっさりと私を受け入れすぎなんだと思う。
だが、城の兵士達に囲まれる中でフィフテリア様は私の前に立ちこう言ったのだ。
「マリエッタは私の御婆様の代からランロット家、エリュシオン家に仕える忠義の者。その素性を疑うというのであれば例えどんな罪に問われようとも後宮に入ることをお断りさせていただきます」
私はフィフテリア様の姿に、始まりの日とも言えるあの日のエミリア様の姿、そして、身重の身でありながら気丈に言葉を紡ぐアリステール様を見た。
抱きつきはっきりと私が無害だと訴えるエミリア様、自らの命を差し出すと言ってフィフテリア様を生んだアリステール様、そして、数多くの屈強な兵士達の殺気だった姿に物怖じもせず凛然と立ち言葉を紡ぐフィフテリア様。
私が仕える人の血の繋がり垣間見た気がした。
結果、騒ぎを聞き駆けつけた王太子の鶴の一声で私は入城を許可された。
……満足げに鼻息を立てるのは淑女としてどうかと思いますよ、フィフテリア様。
そして、現王妃の暗殺を未然に防いだり、大臣の不正を暴いたり、後宮の幽霊騒動を解決したりしているうちに、フィフテリア様は王太子様と御結婚された。
なんていうか私が他の後宮の令嬢の嫌がらせを防いでいるうちに逢瀬を重ねたフィフテリア様の一人勝ちである。嫌がらせよりも王太子の気を引くことを考えろと他のご令嬢にご忠告したほうがよかっただろうか。いやでも、つい言ってしまったような気もする。
結婚に際しフィフテリア様の名前も、フィフテリア・アリステール・フォルトゥ・アレクサンドラに変わられた。
物語の大団円には相応しい結末だと思う。正直、これで私の役目も終わりだろうと思っていた。
「マリー、私が王城へ行っても傍に居てほしいのだけど」
『王太子妃様、それは……』
「マリー、僕からも頼む。テリアを支えてほしい」
フィフテリア様の腰に手を回して支える青年、王太子、グラストル・エリメンタ・フォルトゥ・アレクサンドラ様にそう言われてしまっては断ることも出来ず、私は最敬礼で応じた。
■ □ ■
私が礼をとってから数年後、王妃となったフィフテリア様は小さく震えていた。
客人と迎え入れた隣国の大臣が自らの国の兵隊をひそかに城へ入れて、国取りを始めたのだ。まったく、自国でやってほしい。
ここは王と王妃の寝室。城の最も奥まった場所にあるため賊が入りこむまで時間はある。
城を護る騎士や兵士達も動いてはいる。魔法で緊急事態を伝えているからだ。
だが賊がここに来るまで間に合わないだろう。
隠していた剣を私は手に取り扉へ向かった。この剣はヤコール様が私に下さった剣のひとつだ。
数少ない兵士達が護っているドアに近づく。
「マリー……!?」
『王妃様、御身を護る為、私が戦います。私が出た後は机等で扉を塞いで下さい』
「ダメよ!そんなこと!」
『フィフテリア様、私の種族をお忘れですか?それとあなたの曾お爺様直伝の剣技があります』
「で、でも……」
『陛下、王妃様をお願い致します』
追いすがろうとするフィフテリア様を止めたグラストル様に小さく会釈し、私は部屋を出て進み唯一の侵入口である長い廊下の真ん中に背筋を伸ばして立った。
メイドの基本姿勢だ、ランロット家の厳しいメイド長にもほめられた。
片手に握られた剣が不釣合いだが。ここはモップでも持っていたほうが似合いそうだ。
剣を振るう為ともしもの時のために手袋を脱ぎ、ポケットへ仕舞う。
ふと、私は球体関節が見える自分の手を眺める。
色々な人と出会った。
――この手に剣を教えてくれたヤコール様。
――この手を取ってくれたエミリア様。
――この手を引き、庭を一緒に歩いたアリステール様。
――この手で剣を教えたクラウデン様。
――この手で、その御身を護ると誓ったフィフテリア様。
人以上の寿命の中での出会いと別れ。この手はその人たちの憩いや手助け、護りを担ってきた。
暗い迷宮で朽ち果てるよりも真っ当な良い生ではないだろうか。前世の死に際はなにも覚えていない。だが、それはどうでもいいことだ。
今、私はここに立っている。
慌しい足音が聞こえ賊の姿を見ることが出来た。
この暴挙は絶対に許さない。私が見守った人々が人生をかけて努力し、苦悩し、盛り立ててきたこの時間をないがしろにすることなど、絶対に許しはしない。
自分の核だけがあるはずの胸がかぁっと熱く、滾る。
『このがらんどうの体に熱く燃える忠義!貴様達に思い知らせてやる!!』
一人立つ私に脚を緩めることなく進もうとする。
練り上げた魔力を使い、火球をいくつも生み出し突っ込んでくる賊に放つ。
粘りつく火を撒き散らし被害を増やしていく火球。エミリア様と共に訓練を積んだ魔法だ。だが賊達は焼け死んだ仲間を盾に前に進み始めた。
私は剣を抜き、さらに火球を放つ。
相手の密度が減った為被害は少なくなったがが、突っ込んできた賊の一人の頭を刎ね飛ばす。
自分に護る力を手に入れようとヤコール様に教えを請うた剣技だ。
更に一人、二人と切り裂き、返り血を、剣戟を浴びながも剣を振るう。
賊は動かなくなった仲間を盾に私の剣を防ぎ、そして、死体に力をかけられて突き刺した剣はあっけなく折れた。隙を突くように腹部へ突き刺さった剣に賊は勝利を確信した表情が浮かんだが、その顔のまま賊の頭は宙を舞った。
『剣の一つ折れた程度で私の忠義、折れたと思うな』
両手の手首から姿を現した刃は先ほどの剣よりも鋭利なものだ。
返り血で真っ赤に染まり、剣戟で切られたメイド服。瞬きをすることのない水晶の瞳。襲い掛かる兵士を武器ごと切り裂いていく人形族としての力。
私の正体に思い当たったのか、腰が引けていた。
だが、賊もまた決死の覚悟で私に剣を槍を振るってくる。
複数同時に剣を突きつかれ、再び身体を貫かれる。切っ先が核を掠める。一瞬私の動きが止まった。
笑みを浮かべた兵士の腕をつかみ首を刎ねた。流石に戦闘中に核が傷つけられるのはいけない。
動きが鈍った私に次々に剣や槍が突き立てられ、そのまま壁まで押し込まれて縫いとめられる。
最後の一撃が私の核を二つに砕いた。
意識が遠のく。
霞み始めた視界で賊達の後ろに王宮の騎士達が迫るのが見えて、私は安堵した。壁に縫いとめられた私の姿を見て騎士達は声を上げて賊達に向かって行く。
正直、賊の全員を殺せる気はしなかった。騎士達が間に合えば、奥の陛下やフィフテリア様は救われるだろう。
意識が途切れ、途切れになっていく。
これが死であるとすれば、私は、満足の中、死ぬことが……。
■ □ ■
気が付いたとき、私は庭の見える椅子に腰掛けていた。すぐ近くのテーブルには茶菓子とティーセットが置かれている。
「マリー」
私を呼ぶ声にテーブルの向かい側に座る人物が誰かわかった。
『エミリアお嬢様……』
私が初めて仕えた少女が、あの時の姿のまま変わらぬ笑みを私に向けていた。
ティーカップが空になっているのに気がついた私は立ち上がり、お茶を用意して注いだ。
エミリアお嬢様は、私の注いだお茶を飲み満足げに目を閉じた。
「マリー、座ってくれないかしら」
私がまだ人形と思われていたとき、エミリアお嬢様はこうして私とお茶を飲んで過ごすことがあった。
素直に椅子に腰掛ける。
「約束、まもってくれているのね」
『はい、あんな風に約束したのです。反故するわけにはいきません』
「だからってあんな無茶、ダメじゃない」
むぅっと頬を膨らませるエミリアお嬢様はかわいい。
無茶というのは、ここに来る前に一人で戦ったことだろう。多分。……思い当たる無茶が多くてなんとも言えない。
『人ではできない無茶です。この身だからこそできることですから』
「まったく……。でも、まだこっちに来るのは早いわ」
『……はい』
【自動修復】を持つ私に破壊された死というものほど縁遠いものはない。
これもきっと一時の夢に近いものなのだろう。この身になって夢は一度も見たことがなかったが。
「ふふ、私も旅立つ前にこうしてマリーとお話できてよかったわ。そろそろ行くわね」
『はい』
迷いなく頷く私にエミリアお嬢様は、むっと眉を寄せる。その顔もかわいいです。
「疑問に思わないの?」
『……経験済みですので。前の記憶はうっすらとしか残っていませんが人間だったんです』
「ふふふ、そう、そうなのね。どうりで……」
逆に私が不思議そうに思っていると、エミリアお嬢様は不思議かしら?と尋ねてくる。パーフェクトなポーカーフェイスなはずなんですが。
「マリーは人形族というには人間臭いのよ」
『……そうでしたか?』
「ええ。それに人形族が人に溶け込んで生活できるなんて聞いたこともないし」
くすくすと笑うエミリアお嬢様。
でも、そんな人形族を受け入れてくださったお嬢様が、一番すごいと私は思います。
「また別れを貴方に経験させてしまうのは申し訳ないけど……あの子達をお願いね」
『別れは辛いですが、それ以上に出会いがあります。廻る中で再びエミリアお嬢様と出会うことがあるかもしれません』
きょとんとしていたエミリアお嬢様はくすくすと笑い出した。
「そうね……。じゃぁ、私に出会ったら貴方の入れたお茶を飲ませてくれるかしら」
『もちろんです、エミリアお嬢様』
「約束よ。……ほら、あの子が貴方の事を呼んでいるわ。いつか出会うその日まで、さようならね」
あの時と変わらない笑顔を浮かべたエミリアお嬢様。
『はい、お嬢様。ではまたいつか、その日に』
私の呼ぶ声に身体の感覚を取り戻し、意識が浮上する。エミリアお嬢様は最後まで笑みを浮かべて私を見送ってくれた。
「マリー!マリー!!返事をして!」
涙を浮かべながら私を呼ぶ王妃、フィフテリア様。滅多なことで涙を流さない方だったが、悲しませてしまったようだ。
『はい、フィフテリア様。少し離れてください』
「マリー!」
声を発した私から少し離れたフィフテリア様を確認し、大体修復が済み動く右手で体に刺さった剣やら槍を抜いていく。
半分になった核もくっついて修復がほとんど終わっていた。
周囲は私の姿に呆然としているが、壁から離れた私は、エミリア様と共に教わった礼儀作法で完璧に礼を取る。
『ご無事で何よりです、王妃様』
「あぁ……マリー!」
フィフテリア様にきつく抱きすくめられ、周囲はほっとした様子だった。王と駆けつけた側近達は後始末に向かって行った。
その後、王と王妃を護る為に一人、賊と戦ったメイドの話が王都で広まった。
正直、恥ずかしいからやめてほしい。脚色されて劇になったとかも聞いたが私は見に行っていない。
■ □ ■
そんな“忠義のメイド”のお話も数十年経てば、過去のお話になっていた。
「マリー」
『何でしょうか、皇太后様』
「名前で呼んでほしいわ」
『はい、フィフテリア様』
ちょっとむっとされたようにおっしゃるのは、ベッドに横になられたフィフテリア様。
すでに王妃としての職を全うし、王宮を離れ離宮で静かに暮らしていた。
あの王宮の事件の2年後、第一子となる王子が生まれ、続けて王女、王子と子供をもうけられた。王と共にひかれた政治により、国は今も割と安定している。
夫であったグラストル様に先立たれ、私と数人のメイドと共に離宮で暮らしていたが、ここ数ヶ月体調を崩されることが多くなり、王宮の一室で生活をしている。
もう別れの時は迫っている。
フィフテリア様に手を取られ、私は軽く握った。
「一つ、お願いがあるの」
『何でしょうか?』
「貴方をこの場所へ縛り付けてしまうことになるかもしれないけど……エリダの事を守ってほしいの」
何度目になるだろうその言葉に私は、驚いていた。
そして、つくづく感じ入るのは、こうして魂は心は繋がっていくのだということ。
エリダ様は、フィフテリア様の孫にあたる王女で、まだ3歳ほどの少女である。
「あなたが驚くのは珍しいわね」
何時の頃からか最初のお嬢様であるエミリア様と同じようにフィフテリア様は私の表情を感じることができるようになっていた。パーフェクトにポーカーフェイスなんだけどなぁ……?
『……フィフテリア様の曾御爺様である、ヤコール様にエミリア様とアリステール様を、御婆様であるエミリア様からアリステール様とフィフテリア様をと、同じようにお願いされましたので』
「そう……なの?」
『はい。私の答えは何時も変わりません。かしこまりました、フィフテリア様』
きょとんとするフィフテリア様の前で私は最敬礼を取る。
「いいの……?」
『はい。お願いというのもありますが、私は私の意志で必ず御守りいたします』
「そう……ありがとう……。よろしくたのむわ……これでお別れかしら」
『はい、フィフテリア様。いつの日にかまた、どこか廻り会うその時までお別れです』
私のかけた言葉にフィフテリア様は笑みを浮かべた。
「いつか廻り会う時まで……そう、そうね……。また、いつか出会いましょう」
穏かな笑みを浮かべられたフィフテリア様に丁寧に礼をして部屋を辞する。入れ替わりに王となったフィフテリアの息子とその家族が部屋に入って行った。
ほどなくしてフィフテリアお嬢様は旅立たれた。いつか、また、どこかで、廻り合いましょう。
数日後、遺言として伝えられた言葉の通り、私はある部屋へ入り、腰を折った。
『おはようございます、エリダ様。本日より傍付メイドとなりました、マリエッタにございます。どうぞ、マリーとおよびくださいませ』
エリダお嬢様はどんな物語を紡ぐだろうか。
END
14/12/18 誤字を修正しました。
14/12/19 誤字を修正しました。
15/12/18 誤字を修正しました。