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5 とにかく私は運が悪いです

今回は、途中から別の誰かの視点の話が入ってきます。

 母の手紙には、数枚に渡って主な魔獣の取り扱い説明が書かれており、その後は植物や薬草の説明になっていた。その他、この異世界での様々な情報が綴られていた。中には、役に立つのかどうなのか、よく分からない情報もあったのだけど……?

 とにかく、この異世界の右も左も分からない私には、母の手紙の内容はとてもありがたい。私は、再び母に感謝したのだが、肝心の重要な部分が抜けていたので、がっくりと肩を落とした。

 そう、あの熊もどきに食われた一枚が、とても大事であったのである。

 熊もどきと最初に会った時、あれだけダラダラとヨダレを垂らしていたのは、私ではなく私の手の中にある手紙を見ていたのが、今になってよく分かった。


「もう、何でよりにもよって、この部分を食べたのよー!」


 私は、思わず手紙を握りしめながら大声で叫んだ。

 手紙の内容が頭の中で復唱される。



『……という事で、これぐらい説明しておけば大丈夫かしら? アケちゃんは、たくましいから何だかんだと言って生き抜いていけるとママは信じています。

それじゃあ、最後に異世界からこっちに戻る方法を書いておくわね?

その前に、大切な事も話しておくわ。

あのね、アケちゃん、実は』



 そう、ここで手紙がぷつっと切れていたのだ。

 元の世界に帰る方法も、その大切な事というのも分からない!

 私の知りたい肝心な部分は、すでにあの熊もどきのお腹の中で消化されているだろう。


「うわーっ、何てついていないのー!」


 偶然の不幸に、ただ悔しくて地面をドンドン叩く。

 いつもこうだ。とにかく私は運が悪い。

 生まれて一度もくじに当たったことはないし、買った宝くじは落とす始末。たまたま番号を控えていたから分かったのだが、それが当たりくじだった事もある。

 おみくじを引けば、いつも大凶か末吉。大吉を引いた経験が一度もない。

 友人と外食をすれば、私だけ食中毒になった事もある。友人が100円を拾った傍で、私は犬のフンを踏んづけていた。

 高校受験では、受験当日に盲腸で緊急手術。大学受験は第一志望の日に限って高熱でダウン。弟のインフルエンザをうつされたらしく、脱水症状を起こし救急車で運ばれた。

 とまぁ、話し出すときりがないが、とにかく不幸体質とでもいうのか、ついていない事が多い。だから、この異世界でも不運な事が起こらないといいのだけど……。


「ねぇ、お母さん……お母さんのパワーで私を見守っていてね」


 強運な母の顔を思い出し、思わずぽつりと呟き、手紙の最後の一枚にちらっと目を向ける。

 もうすでに全部読んだのだけど、私はもう一度読み返した。



『というわけで、これが、異世界に帰る方法よ。分かった?

これぐらい分かっていたら、そこそこそっちでもやっていけると思うわ。

アケちゃんには、どこでもやっていけるように、色々と教えていたつもりだからね。


最後に、アケちゃん、ママはアケちゃんが元気で生きていてさえくれれば、どこにいても平気よ。

だから、もしも、そっちにいたいと思う、大切な何かがみつかったら、パパとママの事は気にしないで、自分のしたいと思うことをしてね。

自分に嘘をつかず正直に生きて……。

アケちゃんの幸せが、パパとママの幸せです。

忘れないで、どんなに遠くにいても、アケちゃんはパパとママの大切な子供よ。

応援しているから、頑張って! アケちゃんは独りじゃないから……。


あ、それから、逆フォーになってもママ応援するからね!

頑張って彼氏いっぱいゲットしてねん。


愛するアケちゃんへ

ママより』



「だから、逆ハーだってば、お母さん……」


 くすくす笑いながら目尻に浮かんだ涙を手の甲で拭う。

 私は、気合を入れようとパンと両頬を手のひらで叩いた。


「ようし、頑張って生き抜いて、絶対にもとの世界へ帰るぞー!」


 手紙を大事に胸ポケットへしまった私は、リュックを背負って未開の地へしっかりとした第一歩を踏みしめるのであった。





**********





 ???サイド



「まったく、師匠は人使い……いや、弟子使いが荒いんだから」


 思わずぶつぶつと口から愚痴がこぼれます。

 師匠の気まぐれは今に始まったことじゃないけれど、何でよりにもよって、この森なのか……。


「絶対に、ここに、トンアがいるから差し向けたんだ……。可愛い弟子を殺す気か!」


 本当に、トンアに遭遇する前にさっさと仕事を済ませましょうっと。

 キョロキョロと目当てのアーベを探していると見つけました。

 木にもたれて眠っているみたいです。相変わらず大きな体をしていますね。


「ついているな。眠っているなら、簡単にできる」


 まだ半人前ですから、詠唱に少し時間がかかります。

 ぶつぶつと口に出しているうちに手のひらに熱が集まってきました。

 その集まった光の球をそっとアーベに向けました。すると、アーベは光に包まれました。


「よし、成功だ!」


 自然と口元が緩みます。

 そのまま見ていると、アーベの身体から木の実や草などが出てきました。すべてアーベがここ数時間のうちに食べたものです。

 目の前に置かれたものを確認していきます。


「うん、特に変わったものはないな」


 最近、アーベの食形態が変化してきているって報告を受けたから調査にきたのですが、問題ないみたいです。一応、他にも数体調べてみましょう。

 草食魔獣の大人しいアーベが肉を食べていたら、大変ですからね。


「ん?」


 アーベの好物の紙も紛れていました。何か文字らしきものが見えます。

 手に取ってみると、見たこともない文字が書かれていました。


「どこの言語だろう?」


 ちょうどいいです。師匠のお土産に持って帰りましょう。師匠なら分かると思いますし……。

 それにしても、この紙も珍しいです。こんなに薄い紙を見たことはないですから……。不思議ですね。師匠が喜んで研究するかもしれません。


 さて、アーベが目覚める前に立ち去りましょうか。

 ただ、このままでは空腹で可哀想ですから、もちろん、アーベの傍に食べ物を置いていくことは忘れません。これでも、師匠と違って常識人ですから……。


 その後、数体のアーベも同様に調べました。特に、異常はありません。

 こんな物騒な森に長居は禁物ですから、さっさと帰りましょう。


 そういえば、トンアには遭わずに済みましたが、数体のトッビラには遭遇しました。

 相変わらず、獰猛な魔獣です。もちろん、やられる前に魔法で倒しましたが……。

 ちなみに、手に入れた魔石の色は、全て青色でした。せっかくなので緑色の魔石も欲しかったのですが、まぁ、いいでしょう。

 それにしても、この魔石、赤色なんて本当に魔獣からとれるんですかね?

 マニアの間ではものすごい高い値で取引されるとか聞きますが、あれは呪いの魔石です。手に入れたら呪われますからね。普通、欲しいとは思いませんよ。

 そもそも、魔獣を倒して赤色の魔石を手に入れたなんて話は聞いた事がありませんし……。

 まぁ、でも一度ぐらい実物を見てみたいものですね。


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