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2 サバイバルの始まりです

「えーっと、私、落ち着け……落ち着け……。まずはよく考えてみて、どう見てもココは、日本の山の中じゃないよね? かと言って、アマゾンのジャングルでもなさそう。それに、あのお母さんの今までのいつにも増しての不可思議な言動から察するに、どうやらココは異世界……多分……。とすると、私は異世界トリップをしたってコト?」


 うん、何度考えても、結論は異世界としか考えられないよね。

 でも、何で? どうして、お母さんは私が異世界に行くコトを知っていたの?

 考えれば考えるほど分からないな……。


「まぁ、ここで悩んでいても仕方がないか。とりあえず、数日間の食糧と水は心配ないから、暗くなる前に安全な寝床を確保。この森の中から出られて町とかが見つかれば、一番いいんだけど……。おそらく野宿も覚悟しないとね。幸いなコトに、このリュックに必要なものがいろいろとあるから、当分は困らないだろうし……。これは、お母さんに感謝する所なんだろうか……しかし、うーむ……」


 ぶつぶつと呟き、納得いかないと思いながら眉間に皺を寄せる。

 でも、この非常時の物品のいろいろはとっても助かる……。

 それに、野宿にも結構慣れている。よく両親とともに山登りをしたりして、数少ない荷物で何日間か過ごした経験もある。

 もしかして、今日のためのあれやこれやだった? だとしたら、いつから知っていたの?

 今、ここに母がいないのが非常に残念だった。いたら、知りたい事を全部聞けるのに……。

 私は軽く首を振ると、今後の事を考えるのに集中しなおした。


「うん、後は、野生動物に注意しないとね。異世界なんだから、熊とかじゃすまなかったりして……。ゲームに出てくるモンスターとかいたり、なんて……ハハハ……まさか……ね」


 シーンと静かな森の中、独りぼっちで何だか分からない場所にいるので、心細いのもあり、思わず普段よりも大きな声を出して話してしまう。

 以前やっていたロールプレイングゲームに出てくるモンスターの数々を思い出して、引き攣った笑みを浮かべた瞬間、背後の茂みからガサガサっと木の葉の擦れる音が聞こえてきた。ドキッと心臓が飛び出るほど驚き、パッと振り返る。


 「な、何? 本当に、モンスター!?」


 ごくっと唾を飲み込んでゆっくりと後ろへ下がりながら揺れる茂みを注意深く見つめていると、ヒョコッと可愛らしい耳が出てきた。


「あれ? これは……」


 見覚えのある耳に瞬きをし、さらに目を凝らして茂みを見つめてみる。すると、茂みからぴょんと飛び出してきたのは、可愛らしい兎であった。

 モンスターではなくてホッと安堵する。


「よかった、危険な動物じゃなくて……。それにしても、兎がいるってコトは、地球と同じような動物がいるのかな?」


 3メートルほど先にいる白い兎は、ぴょんぴょんと元気よく飛び跳ねていた。そうして、私をじっと見つめて首を傾げる。

 その仕草がとても可愛くて、思わず笑ってしまった。

 私は、可愛い生き物と出会った事に気を緩め、ゆっくりと兎に近づいていった。兎も人間に馴れているのか、警戒せずにぴょんぴょんと近づいてくる。


「やーん、可愛い」


 私は、目の前まできた兎を撫でようと手を伸ばした。

 すると、その瞬間、兎が大きな口を開いた。その中は、まるで肉食獣のような鋭い牙がびしりと生えていた。


「ゲッ!?」


 間一髪だった。私が慌てて手を引っ込めたと同時に、兎はガチっと歯を鳴らしながら口を閉じた。

 あのまま手を出していたら、間違いなく食われる所だった。

 よく見ると、兎の口元からヨダレみたいなものが垂れている。


『グル……グル……グギャアーオ』


 兎が、恐竜のような雄叫びをあげた。ビリビリと周囲の空気が震える。

 どうもこの兎、可愛らしい姿と性格は一致しておらず、獰猛な肉食獣らしい。

 兎もどきは、私を威嚇するように睨みながら、少しずつ距離を縮めてきた。

 どうやら、私を餌だと認識したみたいだ。

 私は、兎から目を逸らさず負け時と睨みつけながら、一歩一歩慎重に後退していった。


 くぅー、あんな可愛い姿して、詐欺だ詐欺! 騙しやがってー。ムカつく!

 私の心のオアシスを返しやがれ!

 それにしても、どうしよう……。このままじゃ、ヤバいぞ……。

 リュックから武器になるようなもの、とっている余裕もないし……。


 私は、タラッと額から冷や汗を流しつつ、兎もどきが近づいてくる度にゆっくりと下がっていったのだが……。足元をよく確認していなかったせいか、何かに足を取られてしまった。


「ヤバッ!」

『グギャアー』


 尻餅をつくように転んでしまった私に、兎もどきがチャンスとばかりに襲い掛かってくる。

 私は咄嗟に、転んだ時に手に触れた何かを掴んで、思いっきり投げつけた。


「こっち、くるなー!」

『ピギャアァァー!』


 兎もどきが断末魔のような悲鳴をあげる。どうやら、今投げたものが上手く当たったらしい。


「助かった?」


 兎もどきは地面にひっくり返っていてピクリとも動かない。どうやら、運よく倒したみたいだけど、生きているのか死んでいるのか分からない。

 私は、起き上がって丁度落ちていた木の枝を拾い、倒れている兎もどきに伸ばした。

 安易に近づいて、ガブッと噛みつかれたら嫌だもんね。用心に越した事はない。


「えっ!?」


 私は、自分の目を疑った。

 兎もどきを突ついた瞬間、いきなりパッとかき消すようにいなくなってしまったのだ。


「ウソ……な、何で?」


 慌てて兎もどきの倒れていた場所に駆け寄ると、そこには、赤い石(?)が転がっていた。

 私は、それを拾って眺めた。


「何、コレ?」


 直径5センチぐらいの丸い石で少し光っている。宝石みたいにみえない事もない。

 よく分からないが、害もなさそうだし、持っておく事にした。


 それにしても、兎もどきを倒したら、それが消えて石が現れたってコトは、兎もどきはモンスターで石はドロップアイテムってコト?

 この世界では、獣を倒すとみんな石にでもなるのかな?

 とにかく、情報が少なすぎる。今はまだ、何にも分からないんだから、気をつけて移動するしかない。


 私は、石の他に転がっている缶詰を拾い上げた。


「これのお蔭で助かった」


 どうやら躓いた原因は地面に置いておいたリュックで、とっさに手に取ったものは缶詰だった。ちなみに中身はおでんである。


「お母さん、ありがとう。お母さんは正しかった。リュックのお蔭で生きていけそうです」


 私は、手を合わせて素直に感謝した。

 やはり、不思議ちゃんだろうが母は偉大である。

 私は、今後の危険動物との出会いも考えて、リュックの中身をよく確認する事にした。


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