17 温泉に男はいりません!
先程の巨大蟻もどきと、リュックの中身の蟻撃退スプレーの事を考えながら歩いていると、チビーがまた、足を止めた。
「チビー、どうしたの?また、何か出てくるの?」
チビーを見ると、違うとばかりに軽く首を左右に振る。チビーは、ちらっと私に視線を向けてからその視線をジャングルの先に向け、指を差した。
「ん、何?」
チビーの指差す方向をじっと見つめてみる。
「あ!」
うっすらと何か煙のようなものが見える。あれは、湯気だ!間違いない。
「チビー、あそこが温泉なの?」
そうだとばかりにチビーがコクコクと頷いた。
やったー、温泉だ!嬉しいー。
待ちきれない私は、チビーの手を引くとずんずんと歩き出した。チビーは、やれやれとばかりに半分呆れたように私に視線を向けるも、大人しく一緒に着いてきてくれる。
それにしても、チビーって何か表情豊かなんだよね。ほんの少しの付き合いだけど、チビーの目を見ると、何だか何を言っているのか不思議と分かるというか。他のキーモンタ族とちょっと違うみたいな……?
私は、隣を歩く小さな小猿のチビーにちらっと視線を向け、首を傾げた。
チビーは、何か用か?と私に視線を向けてきたが、私は何でもないと首を振った。すると、突然、ドドーンと大きな音が聞こえてきた。
「え、何?」
びっくりして目を丸くすると、チビーが私の手を引いて前を指差す。視線を先に向けると、高々と水が吹き上がっているのが見えた。
「温泉のお湯が上がったの?!」
ぱらぱらと頬に水しぶきが当たってくる。温かい。わ、本当にお湯だ!
「チビー、行くよ!」
私は勢いよく走り出した。近づいていくと、吹き上がっている温かいお湯が頭に体にかかってくる。ちょうどいい湯加減だ。
ジャングルの中に露天風呂のような温泉が見えてきた。想像していたより、なかなかに広い。コポコポ細かい泡が出ているし、天然のジャグジーじゃないの!
「ねぇ、チビーも一緒に入る?」
チビーに声をかけるとぶんぶんと首を振り、周囲をクルクル指差してきた。どうやら、危険なことがないか見張っていてくれるみたい。
「チビー、ありがとうね。じゃあ、私、温泉入ってくる」
どうせ、ここにはチビーしかいないし……。私は勢いよく服を脱ぎ裸になると、ドボンと温泉に飛び込むのであった。
「あー、いい湯ー。気持ちいいー」
本当に、まさかにこんな異世界のジャングルで温泉に入れるなんてね。あぁ、幸せだー。泡ぶろ天然温泉、最高!
暫く、ぼんやりと温泉につかりながら、目の前で吹き上がっているお湯や湯けむりをボーッと眺める。もくもくと湯気が凄いからあまり周りが見えないんだけどね。
ぐぐーっとちょっと疲れた足を伸ばして、よくマッサージをする。この温泉で疲れを取らないと。まだまだ、サバイバルは続きそうだし。
のんびりと温泉につかり、目を閉じる。あぁー、このまま寝ちゃいそう。ふわふわと心地よく温泉で寛いでいると、何かジャブジャブと妙な音が聞こえてきた。
ん?
目を開いて音の聞こえる方に視線を向けると、吹き上がっているお湯の向こうに何かゆらゆらと見えるみたいな……?
何だろう?何か動物でも温泉に浸かっているのかな?
湯気が凄いのでよく見えない。
目をよく凝らしてジーッと見つめていると、その揺らめきが徐々に近づいてきた。
え?
人影?
嘘?
呆然としていると、吹き上がっているお湯からザバンと人が突然現れた。
一瞬、私は何が何だか分からなかった。目の前に現れたのは裸の男性。大きな男性が立っているのだから、見たくもないものが目に入ってしまう。
驚いた表情の男性と視線が交わる。
「きゃあぁぁぁー!へんたいー」
パニックになった私は、その瞬間、大きな悲鳴を上げて、思わずその男性の急所を蹴りつけてしまうのであった。