15 お米は大好きですが?
異世界2日目。
それは、子猿もどき達の毛繕いから始まった。
前日の初異世界体験の疲れで爆睡していた私だったが、子猿もどき達に何度も呼ばれ、髪の毛を弄り回されていれば自然と意識が浮上してくる。しかも、耳障りな呼び名だからね!
『ズンドウ、あさ、きた』
『ズンドウ、おきる!』
『ズンドウ、ごはん、食べる』
『ズンドウ、おはよう』
『ズンドウ、あそぼ!』
私の髪の毛繕いをしながら子猿もどき達が、次々と話しかけてくる。
くぅー……やっぱり、この呼び名が定着したのか……。許すまじ、寸胴犯猿め! ここは、キックの一発ぐらいじゃ、気が治まらない。見つけたら、パイパースペシャル3段キックをお見舞いしてやる!
周囲に集まっている子猿もどき達に少し引き攣りながらも笑顔を向けていると、子猿達がみんな、首を傾げてきた。
『ズンドウ、どうした?』
『ズンドウ、おなか、イタイの?』
『ズンドウ、ヘンな顔!』
『ズンドウ、だいじょうぶ?』
『ズンドウ、あたま、いたいの?』
円らな瞳が一斉にこちらに向いてくる。子猿もどき達はみんなちょこんと軽く首を傾げたまま、心配そうに私を見つめた。その仕草はとても可愛くて癒される。
あぁ、この子達に罪はない。悪いのは全て寸胴犯猿だ!
小さく可愛いものに弱い私は、にっこりと微笑んで子猿もどき達の頭をそっと撫でた。力を入れたら潰しそうだから……。
キーモンタ族の大人は大きいのに、子供はとっても小さく子猫サイズである。この小さくて可愛い子猿もどきクン達が、あんなに大きく成長するとは、とても信じられない。やはり、異世界のお猿さんだから、私の常識は通じないんだろうね。
「ううん、何でもない、大丈夫。ちょっと、お腹空いたかなって思っただけだよ」
私は、可愛い子猿もどき達を安心させるように微笑みながら軽く自分のお腹を撫でた。すると、子猿もどき達はピョンピョン飛び跳ね、私の服や指を引っ張りだした。
『おなか、ぺったん。ぐーぐー。たべたい』
『ごはん、たべる』
『ズンドウ、たべに、いこう』
『いっしょ、たべる』
『ズンドウ、はやく、いく』
『『はやく、はやく』』
そうして、子猿もどきクン達と朝食を取りに外へ出た私。
近くの川で顔を洗ってから用意されていた席へと着いた訳だけど、並んでいる料理を見て驚いたのなんのって! 思わず、目の前にある料理を凝視してしまったわよ。
そんな私を見て、隣に座っているボス猿が申し訳なさそうに項垂れながら口を開いた。
『オンジンに、こんな貧しい、りょうり、すまない。あさ、いっぱいごうか、できない。いつもの食べ物で、わるい。よければ、このほかに、スーアムーワ、ルーモケット、ターウォーライダーなら、用意、できる』
「……………………」
えーっと、それって、まさかミミズとオケラとアメンボの事ですか!? だから、あのみんなの歌じゃないでしょーが!
昨夜みたいな、食べ物はイーヤー!
昨夜の巨大な黒光りの憎きGを思い出してしまった私は、さーっと血の気を引かせながら思いっきり首を左右に振り、声を大にして懇願した。
「いえ、これで十分です! と言うか、これがいいです! このまま食べさせて下さい!」
だって、どう見ても普通のご飯なんです。白いご飯に、スープみたいなものに、焼き魚。おぉー、これこそ、普通の朝食! ビバ、白米!
もう、ご飯があるなら昨夜も出してくれたらよかったのにー。
「いただきます」
私は、ボス猿に何か言われる前に、手を合わせてから箸(みたいな棒切れ)を持つと、勢いよく食べ始めた。口の中に、ふわふわ銀シャリの味が広がっていく。
「うまっ!」
何これー! 凄く、美味しい、ご飯だよー。あつあつ、ほかほか、口に広がる甘味のある白いご飯……。はぁうぅぅ、幸せー。日本人でよかった。
焼き魚もシンプルな塩味で申し分なし! 下手したら、お母さんより上手だよ、米の炊き方に魚の焼き方。すんばらしぃー。
私は、白米の美味しさを噛み締めながらうっとりとした表情で朝食を味わっていった。
そんな私の様子を見て、ボス猿は何を勘違いしたのか、感動したように目頭を押さえている。
『オンジン、こんな、ソマツな、りょうり、食べル。やさしい、アリガト。もうし、わけない、から、あとで、ミヤゲ、もたせ、る』
「へ? あの、本当に美味しいんですよ。お土産なんて、気にしないで下さい」
何やら誤解しまくりのボス猿に私は必死にアピールをしたのだが、どこまで理解してくれたのかどうか……?
私は、気になった事をボス猿に聞いた。
「あの、このご飯、白い米のことですが、どこで取れるというか、作っているんですか?」
これからこの異世界に暫くいる事になるんだもの。ここはお米の事をちゃんと知っておかないとね。
するとボス猿は、思いもかけない事を教えてくれた。
『このひじょうしょく、にもなる、コメーのコト、か? このコメー、は、どこ、でも、とれル。かんたん、作る、ラク』
「へぇ、コメーって言うんだ。どこでも取れるなら、珍しくない食べ物か。でも、非常食になるって、どういう事ですか?」
『コメー、くさる、しない。ながもち、スル。それに、タネまく、めがでる、スグ。コメー、7にち、で、とれる』
「えぇーっ!? 一週間で収穫できるの? そんなに早く育つなんて信じられない!」
うそぉぉぉー!? マジで? 半端ねぇー、異世界!
私は、ボス猿の話に目を見開いて驚き、手に持っている器の中の白米をじっと見つめた。木でできているだろう器の中身の半分程に減ったその白いご飯は、艶やかに輝いている。
私は、ハッと顔を上げてボス猿に詰め寄った。
「このコメーの種、籾(?)ってありますか? もしあるんだったら、欲しいんですけど……」
『コメーの、タネなら、アる。いっぱい、いくら、でも、モッテ、いく、いい』
「ありがとう。やったー! 異世界で早々に米ゲットしたぞー!」
『コメー、ほしガル。オンジン、へん、だ』
『ズンドウ、へんじん』
『スンドウ、ヘン』
『へん、ナ、ズンドウ』
『へんたい、ズンドウ』
ほくほくと喜んでいる私の傍で、ボス猿は首を傾げていた。何やら、周りから余計な話し声も聞こえてきたが、今の私にはどうでもいい。広い心で何でも許してあげ……るかー!
「誰が、変態だ!」
キッと睨み付けると、やはりそこに寸胴犯猿の姿はなく、見事に消えていた。
途中余計な事もあったけど、何はともあれ、美味しゅう朝食を頂きました。ご馳走様―!
あ、因みに昨夜のナナバーがバナナもどきという事は理解したのだけれど、お風呂に入れてきたバナナそっくりな果物らしきものは何だったのか、気になって聞いてみることにしたの。そしたら、びっくりな事実を知ることになったんだ。何と、バナナそっくりなあの果物は、ハナナと言って、ナナバーの子供だと言う!
ナナバーは取ってきてから1週間寝かせておくと、熟してきて更に美味しくなり、何とハナナという子供(?)を数十本産むらしい。何か凄い、植物生態だ……。
気になって、他の植物も収穫した後に子供を産むのかと聞いたら、ナナバーは神聖なる食べ物だから、特別なんだって。凄いね。
地面からにょきにょきタケノコみたいに生えてくる巨大バナナもどきであるナナバー、見てみたいな。うん、後で見にいこうっと!
そうそう、食後のデザートに出てきたのは勿論、ハナナでしたよ。
これも、大変美味しゅう頂きました。
昨夜のゲテモノ料理から一転、今後の食事を心配していただけに、こんなに立派な朝食を食べられるとは本当に感激です。
満足。ご馳走様でしたー。