13 だから、ズンドウ、違い、マス!
「病気や怪我を治す石!?」
おぉーっ、まさかに万能薬に代わる石! しかも呪いまで解除できるとなるとすごい魔法石だ!
あの兎もどきクンが、こんな貴重なアイテムを落としてくれるなんて……。ラッキーな拾いものだったんだ。
うん、私って、異世界にきてツキが回ってきたみたい……って思ったのは、勘違いじゃなかったよ、これは……。夢じゃないー!
うーわー、脱不幸体質、再びこんにちはー!
私の頭の中は花畑いっぱいになり、色とりどりの花弁がひらひらと舞いまくっていた。
私がじーんと感動している中、どうやら痺れを切らしたらしいボス猿が口を開いた。
『まだ、ですか? イノチ、石、早く、下さい』
「あっ、ごめんなさい。今すぐ取ります」
頭に響いてきたボス猿の声で我に返った私は、慌てて赤い石を取ろうと服のポケットに手を入れたのだが……。
「あれ? ない……?」
あるはずの石がそこにはなかった。一瞬、どこかに落としてしまったのかと焦ってしまう。あちこち服のポケットに手を入れて探している内に、お風呂に入って着替えた事を思い出した。
「そういえば、着ていた服は……」
どうしたんだっけ? 脱いで、ドラム缶風呂の傍に置いて、それから……あれ?
うそっ、記憶がない……。
ドラム缶風呂の周りを見ても小石一つ落ちていない。脱いだ服、本当にどこにやったんだろう……?
首を捻り、辺りをキョロキョロとしている私の行動が変に見えたらしく、ボス猿も首を傾げ、怪訝そうに見つめてきた。
『どう、した? ようす、おかしい』
「あの、私が着ていた服、どうしたのかな……って……」
少し遠慮がちに言ってみると、ボス猿が目をぱちぱちとさせてますます不思議そうに私を見つめた。
『あなたの、服、よごれて、いた。だから、洗った。今、向こうで、ホス』
「えぇーっ! 洗ってくれたの!? あの服のポケットに石を入れていたんですけど……」
『イノチの石、あなたの。だから、その、ふくろ、しまった』
ボス猿はそう言って、私のリュックを指さしてきた。どうやら、私の拾ったドロップアイテムである赤い石は、リュックの中にあるらしい。
あんなに欲しがっていたのに、勝手に取らずにリュックにしまってくれ、後から私に石が欲しいと頼んでくるなんて、律儀なキーモンタ族だ。おまけに服を洗ってくれるとは、本当に良い猿もどきクンだよね。口の悪い失礼な奴もいるけど……。
『ズンドウの服、オレ、洗った。カンシャ、する』
「それは、どうも、ありがとう、ござい、ま、す」
頭に響いてきた失礼な声に、頬をぴくぴく引き攣らせながら私は一応お礼を述べた。全然、心がこもらない言葉になってしまったが、それは仕方ないと思う。
私は、心の中で寸胴犯猿もどきを見つけだしてやると妙な闘争心を燃やしつつ、とにかく赤い石を探そうとリュックを開けた。石は探すまでもなく、リュックを開けるとすぐに目についた。拾った6個の石がきちんと揃っている。私はその内の一つを手に取り、こちらをじっと見つめているボス猿にそっと差し出した。
「はい、どうぞ」
『あり、がとう。カンシャ、する』
ボス猿は両手で赤い石を大事そうに受け取ると、近くにいた猿もどきにそれを手渡した。
すると、その赤い石を持った猿もどきは、急いでどこかへ走り去っていった。
どこに行ったのか、去っていく猿もどきの後ろ姿をぼんやりと眺めていた私は、気になっていた事をボス猿に尋ねた。
「あの石、何に使うのですか?」
『コドモ、みんな病気、それ、助ける』
「えっ、病気!?」
『そう、呪われた病気、イノチの魔石、でないと、助からない』
「そんな……」
言われてみたら、周囲にいる猿もどきはみんな、大きくて大人ばかりみたいで、小さな子は一人もいない。
うわーっ、なんてコトだ……。そんな大変な事情とは知らずに私ったら、勘違いしまくって……。うー、穴があったら入りたい……。私の、馬鹿、ばか、バカーッ!
落ち込んだ私は、抱えていたリュックに思わず額を何度もガンガン打ち付けた。
そんな私の行動が奇妙に映ったみたいで、ボス猿を含めた猿もどきたちは、みんな首を傾げた。
『どう、した? 何を、して、いる?』
「ごめんなさい……」
『何、あやまる?』
「すぐに、石を渡さないでごめんなさい」
『なぜ、あやまる? あなた、ワタシたち、キーモンタ族の恩人。悪い、こと、していない。みんな、カンシャいっぱいする』
「でも……」
きょとんと私を見つめてくるボス猿に、心の中で納得のいかない私はもう一度きちんと謝ろうと思い口を開きかけたのだが……。
『あ、りがとう』
『あり、がとう』
『ありが、とう』
『ありがと、う』
突然、たくさんのお礼の声が頭の中に響き渡り、「え?」と驚いてきょろきょろと辺りを見渡した。それは、たどたどしい幼い子供のような声だったのだ。
もしかして……と期待に胸躍らせていると、大人の猿もどき達の中から小さい猿もどき達が飛び出してきた。みんなとても元気そうに飛び跳ねている。
よかった。みんな、病気が治ったんだ。
嬉しくてニコニコと笑顔で子供の猿もどき達を眺めていると、次々とお礼の言葉が聞こえてきた。
『ニンゲン、ありが、とう』
『ヒト、あり、がとう』
『オンナ、あり、が、とう』
何だか呼び名が微妙だけど、まぁ、いいか……。子供だからね。
私の周りをぴょんぴょん跳ね回っている子供の猿もどき達を、ボス猿と一緒に生温い眼差しで見つめていたら、大人の猿もどき達の声も聞こえてきた。
『みんな、元気、カンシャ』
『うれしい。サイコー、しあ、わせ』
『にんげん、かんしゃ、スル』
『オマエ、イイ、やつー!』
『ズンドウ、最高! ズンドウ、バンザーイ!』
『『『ズンドウ、バンザーイ!』』』
猿もどき達のはもる声に、私の頬はひくひくと引き攣った。
不名誉な呼び名で歓声の沸く中、私は視線を鋭く動かす。標的は、寸胴猿もどき野郎! どこに隠れている……?
今度こそ、絶対に見つけてやろうと必死に捜すのだが、どういう訳かなかなか見つからない。頭に聞こえてくる声でなんとなくどこから声がするのかある程度は分かるんだけど、こっちだと思った方向に目当ての寸胴野郎はいないんだよね。なんでかな……?
声は聞こえるのに姿は見つからず……。寸胴猿はいったいどこにいるの?
見つけ出すのを諦めきれずに探し続けていると、子供の猿もどき達の声もいつの間にか重なっていった。
『ニンゲン、ズンドウ?』
『ヒト、ズンドウ、いう?』
『オンナ、とちがう、ズンドウ?』
『ズンドウ、あり、がとう』
『ズンドウ、あ、り、がと、う』
『『『ズンドウ!』』』
「だから、私は寸胴じゃなーい!」
許すまじ、寸胴犯猿もどきめー!
何が何でも見つけ出して、絶対に、私のスペシャルキックをプレゼントしてやる!