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勝負

 目的地の町は周辺に田畑が広がり、中心には密集した建物が見えた。山分けされた報酬を貰い、帯に下げた鞄に入れる。そして、唐突に彼は告げてきた。

「勝負しろ」

 一瞬、何を言っているのか判らなかった。戦いたいらしいが、私は戦いたくない。そんな理由では、私は戦えないし、彼のが明らかに強いのに。

「不満か? なら、どうして俺を強いと思ったんだ?」

 どうして強いと思ったかなんて、簡単には言えない。雰囲気や蟲を倒していたからか。

「格好や姿、見た目か? それとも戦闘技術か?」

 私の心中を見透かしているよう。どうしたらいいのよ、勝負して彼を倒せばいいのか。

「何も言えないか?」

 思考していると彼は催促し、私は追い詰められている気がした。誰かに助けを求めたいけど、助けてくれる人はいない。助けてくれた人は、目の前にいる彼。私を庇って矢を受けた背中は、勇敢で心強く、安心できた。

「どうして……」

 自身の弱さに悔しく、応えれない無力さ。だから私は強くなりたい、頼られる彼のようになりたい。

「……好きだからだ」

 そうか、だから好きなんだ。私は覚悟を決意しなければならない、志とは意志を持つこと。

「武器を構えろ」

 ラガクは腰にある刀剣を抜き、肩より上に構え、右足を前に出して攻撃的だ。その姿に格好は、鬼や蟲に比毛ひけをとらない。

「武器を持つ者は戦わなければならない」

 邪魔に感じた羽織を脱いでたすきを掛け直しながら、心を落ち着かせていく。彼を窺いつつ、ゆっくりと腰にある小剣に手を伸ばした。

「ミサナギ。志はあるか?」


 身体に鎧を纏う彼は予想よりも素早く動き、言葉は心に傷をつけて動きを鈍らせる。

「あ……ッ!」

 数歩の距離を一気に踏み込んできたラガクに私は立ち竦み、そのまま体当たりで倒された。

「油断するな。立ち上がって体勢を建て直すんだ」

 仰向けから膝をついて立ち上がり、小剣を構え直す。彼は構えていた刀剣を鞘に戻し、帯と尻の幾つかの小袋の様な鞄から、ひょうたん型の瓶を取り出した。木枠に囲まれ、瓶の中には砂が入っている。

「勝負は瓶の砂が落ちるまでだ」

 瓶は紙が挟まれた板を下敷きにし、地面に置いた。右腰の刀剣ではなく、小剣よりも短い、短剣を逆手に構える。

「使えるモノは全て使え。上手く活用し、有利に立ち回れ」

「そんなこと……」

 使えるモノは武器、背中に下げた弓を使ってもいいのだろうか。小剣で戦うのは不利だし、私は剣よりも弓のが使い慣れているから。

「弓を使うか?」

「駄目ですか?」

「使えるモノは全て使え。だが、この距離で使えるか?」

 ラガクとは数歩の距離であり、弓を構えて矢をつがえ、狙えるだろうか。いえ、狙う隙はない。さらに辺りを見渡していくと、報酬を受け取った時に下ろした二人の背嚢。

「私は強くなってッ!!」

 構えた小剣を腰に戻し、背嚢に向かって走る。鎧の音はまだ遠く、彼は追い付けていない。

「ッ!!」

 走る勢いで背嚢を掴み、左脚を踏み込んで背嚢の一振りを見舞う。振り向いた時、掴んだ背嚢に衝撃と鈍い音が聞こえた。

「グ……」

「ラガクさん!! あの……大丈夫ですか?」

 ラガクは片膝を着きつつ、荒い息を吐きながらも意識はある。少し心配になり、彼に気遣いをするが、この勝負は私の勝ちと確信していた。

「え……ッ!?」

 首筋に突き付けられる短剣、さらに右手首を捻るように持たれて自由に動けない。仮面からは窺いしれない、気迫を感じて冷や汗が出た。

「……油断したな」

「アハアハ……」

「だが、ミサナギの勝ちだ」

 首筋の短剣と手首の拘束を解かれ、ラガクからの気迫も消える。私は手拭いで汗を吹きつつ、思うこと告げていく。

「……どうしてですか? あのままなら、ラガクさんの勝ちじゃないですか?」

「その前に、勝敗は決まっていただろう? 背嚢の一撃は予想外だった。てっきり、距離を置いて弓を射ると予想していた」

「だったら、私が倒された時……」

「あれは油断し過ぎだが、こちらに有利な条件が揃っていたからな。小剣よりも長い刀剣に数歩の距離、それに先手だ。反撃は難しい」

「そうなんですか」

「ショートソードに慣れていないだろ?」

 腰の小剣ショートソードを示し、私は頷きながら小剣を抜いた。彼は両手を使い、身ぶり手振りで話す。

「ショートソードは扱いやすいが、構えた方や持ち方で変わってくる。逆手は……」

 少し距離を置いて短剣を鞘から抜き、逆手と呼ばれた構えた方。少し違和感を覚えるが、この構え方は格好いい。

「それ、ラガクさんの短剣の持ち方ですね」

「刺突、突き刺しに向いた構え方だ。ショートソードや片手剣にも活用できるが、ロングソードや両手剣には向かない」

「格好いい、構え方ですよね」

「そうだろう…………違う。いや、それでも構わないが」

 ラガクは困った声を出したが、私は気にせずにその構え方を披露して見せた。不思議と、強くなった気がする。持ち方や構え方に見える違和感。

「あ……ラガクさんって左利きなんですか?」

「ああ、そうだが」

 覚えていた違和感は利き手だったのか。刀剣は両手で構えるから分からなかったけど、短剣は左手で抜いていた。

「抜くときに逆手だと、抜きづらかったんです」

「それは鞘を付ける所が違うからだな。そろそろ日が暮れるな、町で宿屋を探すか」

「そうですね」

 辺りは夕日に照らされて橙色になり、町には光が灯されてきている。着物の襷と帯を直し、背嚢と志を背負う。

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