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彼女の心

 初めて私が声をかける前から、彼は気付いていたのだろうか。いえ、気付いていたのだ。

「……鋼の心、志」

 宿屋の借りた部屋に戻り、彼のことを考える。彼になら私の出来ないことも、できるのだろうか。纏った羽織はおりを脱ぎ、腰に巻かれた帯を解く。窮屈な着物と袴も脱ぎ捨て、敷かれた布団に潜り込んで眼を閉じた。

「あれは日記か手紙、それとも……」

 日記かと聞いたら、焦りながら片付けていた。気になって表情から汲み取ろうとしたが、仮面のせいでうかがえない

「気になる……けど」

 私は彼に気付かれないよう、心に尋ねるように聞いてみた。さりげなく台詞を変えつつ、不意を突いてみる。しかし、警戒心の強い彼に上手く逃げられた。




 考えていたら、そのまま寝てしまった。思っていたより、疲れていたみたい。さらしと下着を整え、着物と袴を身に付けて帯を巻く。そうして、狭い部屋の扉を開けて外に出る。

「おはよう。朝から早いな」

「おはようございます」

 朝になっていたことの驚きよりも、その鎧姿だ。仮面と兜で素顔は判らない、見せてくれてもいいのに。私は身に付ける鎧はなく、着物の上から着れる羽織だけ。歩き旅には必要ないからで、鎧が高くて買えない訳じゃない。

「……ラガクさん。いつもその鎧を着ているんですか?」

「油断すると殺られるかもしれない、この装甲鎧を着ていると安心できるからな」

「鎧……好きなんですね」

 少しおかしい気もするけど、そんなに警戒することがあるのか。いえ、私の警戒心が足りないのかも。

「鎧は素晴らしいモノなんだ――」

 この話は長くなりそう、朝から長話は辛い。私の朝は忙しいのよ。

「えっと、何処かに行くんですか?」

「ブリティン・ボードかパブを探しに行く。一緒に行くか?」

 ブリティン・ボードは行商人や困り人が、護衛や手伝いを探して利用する掲示板。パブは酒場だろうから、依頼を引き受けに行くのね。

「朝から酒飲みですか?」

「面白いジョークだな」

「アハアハ。少し待ってください」

 私は手早く支度を済ませて、一緒に依頼を引き受けに行った。




 依頼は行商人の護衛。商品は何か知らないけど、高価なモノではあることは行商人の身なりから想像できる。

「行商人の荷物が気になっているようだな」

 山道の前を歩いていたラガクが、私の歩調に合わせて歩いてきた。どうやら、後ろの行商人をしきりに見ていたらしい。

「……どうして判るんですか?」

「アドバイスしてやろう。観察し、想像し、選択しろ」

「…………」

「観察はできてる。想像を膨らませるんだ。そして、選択だ」

 想像を膨らませる。彼は何を見ているのか。観察し、想像して選択。私の顔を見て判断し、想像して予想し、選択しているのか。

「……顔に出てるってことですか?」

「その答えもある。俺が顔を隠しているのはそういうことだな」

「だから、素顔を見せないんだ」

「他の理由もある。落ち着くとか、顔を守る為とか。何よりも仮面と兜が気に入っているからだ」

 彼の仮面は例えるなら骸骨。でも、現実的な骸骨とは違う。私の知る言葉や文字だけでは表現できない、異端や恐怖であって良いことは感じられない。

「その仮面、あんまり良くないと思いますけど?」

「それで良いんだ。この仮面は畏怖いふを表現しているからな」

「イフ?」

「そう、威圧感に恐怖心。相手を威嚇し、見たもの警戒させる為だ」

「どうして、そんなことを?」

「判らないか?」

 好奇心で聞いていたが、私は心中には生まれたものがある。彼も私と同じ答えなのだろうか。

「行商人の商品は宝石か、貴金属だろうな。あるいは……」

「一人でも運べて価値のあるモノですよね」

「そうなるな。あまり、知りすぎても良くないからな、忘れておけ」

 彼に感じることは、イフではなくて好奇心に不思議。私は彼のことが、好きなのだろうか。今は判らないけど、魅力を感じていた。

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