彼の心
身体に堅牢な装甲を身に付け、顔は骸骨の様な仮面と兜をかぶったラガク。凛々しく整った顔立ちに鋭い目付き、珍しい薄紫の長髪と鼻の切り傷が印象的なミサナギ。
「ラガクさん」
山道の退屈しのぎに、ミサナギは質問をしてみる。景色よりも、暑苦しい鎧を着るラガクが気になったからだ。
「なんだ?」
「その鎧は重たくないんですか?」
「鎧としては軽い方だな」
「でも、動きにくいでしょ?」
「それなりにな。だが、防御力は素晴らしい」
「そんなに凄いんですか?」
「ああ、斬撃や刺突くらいなら大丈夫だ」
「良い鎧ですね」
声色からしてラガクは、少し熱っぽく語っている。ミサナギは特に関心は無かったが、大抵の人々は同様の心境になるだろう。
「警戒した方が良さそうだ」
「え……?」
山道の先に死体と武器が、辺りに散らばっていた。隠れる場所の多い山道は、盗賊達にとっては狩場である。
「ラガクさんッ!?」
いきなり、抱き寄せてきた彼に頬を赤らめるミサナギ。少し震えた後に解放され、振り返った彼の背嚢に矢が突き刺さっていた。
「な……ッ!」
「敵だ!」
剣を振り上げ、茂みから現れた盗賊。ラガクは足下に転がる石を蹴り、一人を怯ませる。これは奇襲や急襲を受けた際に敵の勢いを失速させ、こちらの態勢を整えることが重要だ。その間にミサナギは、弓を構えて戦闘準備を整える。
「背中は任せるッ」
「はいッ!」
放たれた矢を避けた盗賊にラガクは、そのまま刀剣で斬りつける。悲鳴をあげて武器を落とした盗賊に構うことなく、次に斬りかかってきた盗賊の剣を弾く。
その隙を狙って射られた盗賊の矢は、ラガクの胴や肩に命中。しかし、装甲に弾かれてしまう。装甲は斬撃以外に矢等の飛翔物に対しても防御力を発揮する。
剣先を向けて突進してきた盗賊だが、腕を掴まれ回転して投げられてしまう。倒れ込んだ盗賊に刀剣の剣先が向けられ、降伏を促す。
「……殺さないでくれ!」
盗賊は剣を捨て置き、後ずさりしていく。ラガクが盗賊達を惹き付けている分、ミサナギは冷静沈着に弓で盗賊達を射貫いていた。矢が刺さった者は怖じ気づいて逃げ出す者ばかり、どうやら盗賊は烏合の衆らしい。
「ラガクさん! 待ってくださいッ!」
刀剣の殺気は少し和らいでいたが、刃物を向けられる恐怖に変わりはない。刃物は凶器であり、殺気や恐怖を生む。
「……見逃すのか?」
「殺しは良くないです」
「……いいだろう」
刀剣を鞘に納め、盗賊から身を退いて見せた。慌てて逃げて行く盗賊に構うことなく、訝しげにミサナギを見つめる。
「殺しは良くない……か」
「当たり前でしょ」
殺しは良くないは当たり前。ラガクの反応はミサナギが知る者とは違っており、疑問が生まれて好奇心となった。その眼差しは鋭くなって隅々を観察し、答えを導きだそうと力が宿る。
「良い眼をしているな」
「えっ……?」
「奴等は盗賊だ。人殺しもしている」
眼を向けて見れば山道には、盗賊に殺された者達。一人は頭に矢を受けて殺られ、もう一人は剣によって斬り殺されたようだ。
「殺されかけたのに、殺しは良くないか?」
「それは……」
殺しは良くないと教わったが、疑問に感じたことはない。当たり前だと思っていたからだ。
「殺しは良くないのは当たり前だ」
「そう言ったじゃないですかッ!」
「剣や弓はなんだ?」
「……狩りをする為の武器です」
「なら、武器は?」
「身を護る為の道具……」
認めたくない事実。どんなに言葉を取り繕うとも、武器は殺しの道具だ。
「敵はそういう使い方をしない。それに向けられた武器は凶器だ。殺気や恐怖を感じるものだ」
「けど……」
「そう。それでも人殺しは良くない」
「……そうです」
「盗賊にも、それくらい清い心があればな……」
ラガクはそう告げて盗賊に殺された者達の前に右膝を着き、両手を合わせて頭を下げている。
「優しいですね」
「……どうだかな」
ミサナギも見習ってラガクの横に膝を下ろし、両手を合わせて頭を下げた。
「酷いです……」
死体を漁り始めたラガクにミサナギは心を痛めつつ、彼の狡猾さにも関心させられた。




