その4
私は不機嫌だった。
あの木端役人は不承不精、私の特許申請書と“愛のドップラー効果測定器”の試作機を受け取った。だが、私の“愛のドップラー効果測定器”が正しい事が証明されないと、私のこれまでの最高、またこれからもこれ以上は無いだろう“愛のドップラー効果測定器”の特許を、あの木端役人は認められないだろう。
私は気分転換をしようと自宅へ帰る途中の公園の駐車場に車を止め、自動販売機でコーヒを買ってベンチに掛けた。
平日の日中、私の他に誰もいなかった・・・。空からは春の優しい陽の光が降っていた・・・。
私は思わずうとうとしてしまった・・・。
私は隣に誰かが掛ける気配に気づき、目覚めた。
見ると女だった。他に誰も使っていないベンチがいくらでもあるのに、わざわざ私の隣にその女は座ったのだった。
それも、なかなかいい女だった。年は女房と同じくらいか?
でも、何処かで見た事があるような気がした。単なる、気のせいだろうか・・・?
「私、お腹空いているのだけれど、お金がないの。昼ご飯、御馳走してくれないかしら?」と、女が言った。
私は自分の口から出た言葉に、私自身が驚いた。
「食事だけか?」
私は、これまでに妻を裏切った事は一度もない。
ただ、それは妻を愛しているからか、研究第一で女に興味がないせいか私自身にも分からなかった。
その時の私は、個人発明家としての最高作品の特許が認められそうになくてどうかしていたのは確かだ・・・。
「それは、あなた次第よ・・・!」女が答えた。
やはり、何処かで見た女だ、と思った。でも、どうしても思い出せない。
近所のマンションの住人?
それとも、高校生の時の下級生?
いや、違う!もつと、身近にいる女だ!
でも、誰か思い出せない・・・。それとも、やはり気のせいか?
遅めの昼食が終わった後、私が女をホテルに誘うと(その時の私は、やはりどうかしていたのだ)頷いた。もちろん、私はトイレで財布の中身に問題がないのを確認した。
私はそれなりに、その気になっていた。
ところで、妻とこの前セックスしたのは何時だったろうか・・・?
しかし「無駄なお金を使う必要はないわ。それに、お気に入りの場所があるの・・・」と、女が言った。
その女の言葉を聞いた時、何処かで見た事がある女が私の横にわざわざ座り、私が条件付きで昼食を御馳走し、その後私は勢いでホテルに誘い(女に乗せられた?)、女の<お気に入りの場所>に行くことになったのは、(女以外の)何者かに仕組まれているような気がした。
それは、単なる気のせいだろうか?
それにしても、この女は何者だろう?