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零ノ九 暦×先輩=そろそろ混ぜなくても危険



 普通、学生にとって昼休みという時間はとても貴重かつ素晴らしい時間、のはずだ。

 けれども今日、俺こと有里(ありさと)零樹(れき)にとっては来て欲しくない拷問時間となっているのだ。


 理由は単純明解。先輩が昼休みに俺の教室へやってくるのだ。

 別にこの一つ上の先輩が苦手とか嫌いというわけではなく、ましてや喧嘩をしているわけでもない。少なくとも俺は。

 どっちかというと気まずい感じ。顔を合わせづらい。

 おまけに昨日約束の弁当も忘れる始末。

 先輩なら笑って許してくれそうだけど……。

 あーあ、なんで今日に限って寝坊しちまったんだろ。なんか変な夢をみたせいだろうか。記憶には残ってないけど。 そういや先輩、俺の夢について何かわかっただろうか。それに関してもやっぱり合わなきゃダメだろうな。


「兄さん今日どうするの? 弁当用意してないんでしょ」

「なんやドけちの有里兄には珍しいな。弁当忘れるなんて」


 こっちにやって来た(こよみ)とクラスメイトの篤兎(とくと)が口を揃えて言う。失礼な、俺は倹約家でマメなだけだ。


「そうだな、俺達は購買に行くか学食で食べるとして――」

「――俺達は?」


 あ、ヤバい。

 暦がなにやら不信そうな顔でこっちを見ている。

 ドジなくせに感は鋭いんだよな。


「ええと、だな。言い間違えたというか」

「あの先輩も来るの?」


 ドンピシャだった。


「えーと、ほら約束したんだよ、先輩と。俺らのお弁当を作ったもらったお礼に、台所が治ったら先輩の弁当も作るって」


 別に悪いことをしているわけではないのに、なんでか気まずい感じになってしまい目線を暦から反らしてしまう。


「(兄さんはずっと私のためだけに弁当を作ってくれると思ったのに……)」

「そ、そうだ。先輩のことは一旦置いといて、昼飯について考えないか? このままじゃ腹ペコのまま午後の授業をすごす羽目になる」

「うん、じゃあ先輩が来る前に私達だけで移動しよっか」

「いや、先輩にも一言詫びてから行きたいんだが」

「…………別にいいじゃん、今まで私達二人だけで食べてたんだから」

「そ、そりゃあそうだったけど、一度誘ったからには無下にするわけには……」

「え、兄さんの方から誘ったの!?」

「いや、だから、これはお礼のためであって」

「ベッドに!!」

「ここでそういう解釈するんだ!?」


 ピンク脳はいらない。


「落ちつけ、別にやましいことなんてないから。単純に弁当のお返しをしたいんだよ」

「向こうはやましいこと考えまくりかもよ。弁当ではなくてお兄ちゃんのことをパクリ!、的なことを考えてるよ、絶対」

「んなわけあるか」

「私なら断然そうするね(キリッ)」

「おまえ基準に語るな!?」

「そうよ、私はそんな姑息なことしないわ」

「そう、先輩はそんなことしな――」


 ん?

 俺は目の前でドヤ顔をする暦から視線を外し、斜め横の方にずらす。

 そこには頬をかわいらしく膨らました時任(ときとう)先輩が……。


「って、先輩!? な、なんでここにっ」

「もー、呼んでくれたのは零樹くんじゃない」

「それはそうですけど……!」


 なにもこんなタイミングに来なくたっていいじゃないですかっ。

 まだ暦をなだめてないのに。

 ちらっと義妹の方を見ると、……うわぁ、まるで親の仇を見るような目で先輩の方を見てる。

 先輩は先輩で暦のことは『アウトオブ眼中』のようだが。


「それで零樹くんはどんなお弁当を作ってきてくれたの?」

「えーと、それがですねぇ……」

「他人から弁当をねだるような卑しい人に、あげるものありませんよーだ!」

「暦、お前はちょっと黙っろ!」


 それとそのだらしなく出した舌をしまえ、行儀の悪い。


「その、俺はいつも早起きして弁当を作ってるんですけど、今日は遅くに起きてしまって弁当を用意する時間がなくて……。俺から言い出したことなのに、すみません」

「あら、そうだったの。別に大丈夫だよ、私は気にしてないから。ところで今日のお昼はどうするの?」

「そうですね、今日のところは購買でパンとか買おうかなと」

「それなら、学食なんてどうかな?」


 先輩が満面の笑みで両手をパンッと叩いた。


「学食、ですか」

「そう。私も数回程度しか行ったことないけど、うちの学食は種類も豊富だしとっても広いんだよ。零樹くんは学食行ったことないでしょ?」


 先輩の質問通り、俺は入学してからの一ヶ月と少しの間学食に通ったことはない。もちろん暦も。

 毎日弁当を作って教室でそのまま食べてたからな。


「ほら、行こっ」

「あっ、ちょっと、先輩!?」


 俺の返答を待つ気配もなく、先輩は俺の手を取って教室を出る。


「待ちなさいよ、私も行くって!!」


 背後で暦の声を聞きながらも、先輩に引かれる俺は止まることができなかった。

 先導する先輩の手は少し赤かった気がする。



 ★ ★ ★ ★ ★



  2


 初めてくる学食はそれなのに賑わいを見せていたが混んでいるというわけでもなく、大した時間並ばなくても買うことができた。

 ちなみに俺が買ったのは蕎麦と(きす)の天ぷら。本当は穴子が食べたかったがちょっと高かったために代用した。けど鱚ももちろん好きだ。


「思ったより広いですね、びっくりしましたよ」

「そうでしょ。全校生徒が楽に入れるっていう噂があるのよ」

「それは嘘でしょう?」


 口では否定しつつも、心の中ではもしかしたらと思う。

 多くの生徒が食堂が利用していても、席を見るとちらほら空いたところが見える。


「うーん、今日はいないのかな」

「知り合いでも探してるんですか?」

「違うの。新学期が始まってから少ししてのことなんだけど、おもしろい生徒が居たの」

「おもしろい?」

「両手と頭頂部に丼物を乗せた生徒が居たの。一度しか見たことないけどね」

「それは……、そのバランス感覚をすごいと言うべきか、そんなに食べるのかと驚くべきなのか」

「両方でいいんじゃないかな。私も普段からここを使うわけじゃないから。友達ときた時偶然見たの」

「それは、すごい生徒がいたものですね」

「そうだね、フフッ」


 先輩は楽しそうに笑うと自分が持ってきたオムライスをテーブルに置く。ちなみに俺の向かいに座る。


「でも食堂で食べるのもいいですね。見たら持ち込ん出る人いますし」

「そうでしょ。私も友達と一緒に来るのよ」

「へー、そうなんですかー。だったら今日もそのお友達だけで来れば良かったのに!」


 前半を棒読みで、後半は威圧感丸出しで言いながら、暦は持っていたトレーを『ダン!』と叩くように置いて俺の隣に座る。

 ちなみに暦が注文したのは大きな油揚げが乗ったきつねうどん。確か今日のオススメって食堂の入り口にある掲示板にあったな。


「あなたこそたまにはお友達と昼ご飯を食べたら? 毎日べったりだと零樹くんが疲れちゃうわ」

「問題ありませんよ。私と兄さんは一心同体ですから。むしろ一緒にいる方が自然体です。なんたって親公認の仲なんだから」


 俺はその暦が発した言葉に思わず身震いした。

 確かに暦が俺になついてからそれこそあいつが言う通りべったりで、両親にも面倒を見るようにと言われたがそれを公認の仲と言うのはどうかと思うな俺!!


「長子ってかわいそうね。わがままな下の子のめんどうを見なければいけないし」


 ドヤ顔をする暦に対して、やれやれという風に溜め息をついて頬に手を当てる先輩。

 …………なんだろう。この構図、だだをこねる子供に困り顔の保護者という感じでも通ってしまいそうだ。

 それほどまでに今日の暦はガキ(・・)っぽかった。

 家では俺にべったりだが、暦は一応成績優秀な優等生で通っているため、ブラコンとクラスメイトに言われつつもあんまりはっちゃけたりすることはない。


「暦、今は飯食う時なんだから大人しくしてろって」

「うぅ、兄さんが先輩の味方をするよぅ……」


 失敬な。俺はいつだって平等だ。

 昼飯を早く食べたいだけである。

 あーだこーだ言う暦を無視して、俺はいただきますと手を合わした。


「そういえば、さ」


 それぞれが食べ終わり、セルフサービスで何杯も飲める冷茶でのんびりしていた時に、先輩が切り出した。


「なんですか、先輩?」

「ううん、大したことじゃないわ。そろそろ昼休みも終わりそうだし、放課後の『部活』の時にでも話すね」

「部活の時……」


 なんてことはない普通の会話だが、暦がぴくりと反応を示した。


「兄さん、今日は部活あるの?」

「ああ。……って、なんでそんな嫌そうな顔するんだよ」

「だって、放課後はそこの先輩と一緒にいるってことでしょ」


 いかにも『私不機嫌です』と言ったオーラを出し、憎々しげに先輩を見る。

 こら。嫌うのはいいけど、仮にも先輩なんだからもうちょい隠せよ。


「そうね、零樹くんは楽器初心者だし個人レッスンしなきゃね♪」


 対称的に笑顔を浮かべながら喋る先輩。

 暦に自慢してるようにも聞こえなくはないが……。


「個人レッスン!? 私とは一対一の個別指導を嫌がるくせに……!」

「こっちを睨むなよ、フツーに怖いよ。だからお前の教え方ややり方だと身に入らないんだって」

「生徒の力量に合わせて指導法を変えれないなんて、先生役失格よね~?」


 頬に手を添えてまで勝ち誇る先輩を見ながら、暦はまるで肉食動物のように『ガルル』と唸る。

 例えるならトラが妥当だろうか。


「それに零樹くんには『夢』のことを話さなきゃね」

「あ、」


 何かわかったのだろうか。

 俺はとっさに期待と不安の混じった視線を先輩に向ける。

 でも先輩の言葉に過敏に反応したのがもう一人。


「話しってなに!? 夢ってなに!? まさか卒業したらすぐに結婚して小さいけれど白くてかわいい家を建てて、長女に姫で長男に太郎って名前を付けようって考えてるんじゃないでしょうね!?」

「この数分でそんなとこまで発展するのか……」


 アホらしいを通りこして、もはや尊敬の念を抱きそうになる。


「あ、もうすぐ余鈴も鳴っちゃうから私は先に帰らせてもらうわね」

「ちょっと、待ちなさいよっ」

「それじゃあ、零樹くん。また放課後、部室でね」

「というかさっきからなんでちょくちょく無視するのよー!!!」


 暦の叫び声なんていざ知らず、先輩は優雅に自分のトレイを持ってテーブルを後にした。


「……さてと、俺らも教室に戻るか」


 時計を確認すれば先輩の言う通り余鈴も近く、普段ここを利用しない俺としては早めに出ておきたかった。


「――ねぇ、兄さん」


 トレイを持った俺を背中から呼び止めた声は、いつもよりも小さく周りの喧騒に消えてしまいそうな気がした。


「私に話せないことって、あるの?」

「当たり前だろ」


 俺は振り向かずにそのまま足を進めた。





 長期の執筆に関わらず短文&話しが進んでないとは……



 でも伝助の物は起承転結があやふや周り道ばかりです。

 そんな小説ばかり書いていますが、これからもどうかよろしくお願いします。



 そろそろ失礼させていただきます。

 伝助でした。さようなら~




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