零ノ七 夢×夢=俺の目の前にはパンドラの箱
長く間を開けてしまいました。
さすがにガラケーじゃそろそろきついかな
それではどうぞ~
夢を見ていた。
とても長い夢を。
その夢の中で俺は――
「夢?」
「はい、そうなんですよ」
場所は生徒に解放されている屋上。
そこに設置されたベンチの上に、俺と時任先輩は座っていた。
ここから下を覗きこめば、沈み始めた夕日を受けた家路に帰る生徒や汗を流す運動部の姿が見れるだろう。
こうして俺達が一緒のベンチに座っているのは俺が時任先輩を呼んだからなのだが、断じて告白とかではなく相談事があったからだ。
ある意味時任先輩にしか聞けないようなものだからだ……。
「零樹くんは偉いね。もう将来のことを考えて。私なんて来年受験には受験を控えてるのに、進む方向性が自分でもよくわかってないよ」
「いや、そういう夢じゃなくてですね」
「ん? じゃあ夢って寝てる時に見る夢のこと?」
「ええ」
実はここ最近、おかしな夢をしょっちゅう見るのだ。
まあ夢なんて大抵説明できないような奇妙なものばかりだが、俺が見る『夢』は細部が多少違うだけで内容が毎回一緒なのだ。
最初のうちは偶然で済ましていたが、少しだけ不安にかられだしたのだ。さすがに薄気味悪い。
「先輩って、その、占いとか得意そうじゃないですか。だから占いとかの一環で俺の夢が変なものじゃないかみて欲しいなー、って」
「そーなんだ。でも私、占いはかじったりしてるけど、夢占術はそんなに得意じゃないから役にたてるかわからないよ?」
そうだったのか。てっきり先輩が時々発する電P……不思議系発言からそういうのに詳しいと思ったんだが。
てか夢占術ってなんだろう? 俺が知らないそういう筋の魔法かなにかだろうか。
「私にできるのはその人が見る『夢』の傾向から前世や今後の未来を占えるぐらいだし……」
「いえ、充分です」
俺の人選に狂いはなかったらしい。
てかそんなことまでできるのか。
「それで、俺は何をしたらいいですか?」
「リラックスしたまま目を閉じて夢のことを思い浮かべて、私に内容を聞かせて。詳しく語る必要なんてない、あなたの感じたままを伝えて」
先輩の言うとおりに目を閉じてベンチの背もたれに体を預ける。
閉じた瞼からでも感じる日光。穏やかな時間を象徴するような風の中で、俺は意識を記憶の奥深くへと沈めていく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そこは海だった
大きな、大きな海
俺は遥か遠くの水平線を見つめながら、水面の上に立っていた
ただ海を眺めながらぼーっとしていた俺は、あてもなく歩き出す
足を前に出す度に広がる波紋を感じながら、歩き続ける
しばらく歩き続けると何もなかったはずの海には陸地が見えてきた
止まらずに進み今度は陸地を踏みしめる
足の裏に感じる草の感触がくすぐったい
原っぱのようだった大地には、若木が一つ生えそれは急激なスピードで巨木へと成長していく
巨木の前で立ち止まり風で揺れる木の葉を見上げる
すると視界には綺麗な赤色をした果実が二つ
大きさはほぼ等しいがどちらを取ろうか悩んでいると、横から白い腕が伸びて果実の一つを手にとる
小さな手やほっそりとした腕から察するに相手は女性だと思う
俺はその人の顔を確かめるため、後ろを振り替える
その人は俺を見ながら笑っていた
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「というのが、夢の内容なのね」
「はい」
目を閉じたせいか、夢の内容を鮮明に思い出すことができた。
大抵がこの流れ。
始まりと終わり。
出発点と終着点が同じ夢の話し。
「……話し終えましたし、もう目は開けていいですよね」
まあこの目を閉じるという行為にも大した理由はないだろう。視界をなくして夢の記憶をイメージを鮮明に思い出させるとか、そんなもの。
「えっ、あ、ちょっと待って!」
そう思っていたからか先輩のやけに慌てた制止も聞かずに目を開けた。
(パシャンッ)
「?」
目を開くと同時に聞こえたシャッター音。
眩しい視界には慌てた表情で記録用特殊魔結晶内蔵型カメラを構えた時任先輩の姿が。
「……何してんですか?」
「だから違うよ!!」
何が違うと言うのだろうか。
「私は別に目を閉じると印象変わるなー、とかっ、目を閉じてるんだしどうせばれないんだから写真撮っても問題無いとか思ってないよ!!」
汗をこれでもかと流す先輩に説得力はなかった。
でも先輩は相談(?)に乗ってくれたし写真を撮られたぐらいで俺に不利益になることはないし、俺はとやかく言わないことにした。
「別に俺は気にしてませんから。先輩が何をやってたとかもわかりませんし」
「そ、そう?」
不安げに俺をチラチラ見るも、俺が怒ったり疑ってないことを理解してくれたのか先輩は自分の胸に手をあてホッとした。
「それで、その占いはどれぐらいにわかりますかね?」
朝のニュースの繋ぎでやっている星座占いにしか目をとおさない俺は、こういう占いがどれぐらいの期間で結果を出すのか知らない。
「そうだねー。明日ぐらいには結果出ると思う」
「わかりました。ありがとうございます。
あ、そういえば今日のお弁当のミニハンバーグ美味しかったです」
先輩が俺と暦に弁当を渡してくれた流れで一緒に食べるかと思っていたが、今日は予定があるとかで俺達の教室に来てすぐとんぼ返りをしたのだ。
ご厚意で作ってもらってるわけだから、感想の一つも言わないのは罰が当たるだろう。
「! そう、良かった~。今日のは自信作だったのよ♪」
「そうだったんですか。うーん、もう先輩の手作りが食べれないのは残念ですね」
「そうでしょ、そうでしょ。……え、そうなの?」
「はい。壊れた調理器具や炊飯器とかも昨日買いに行きましたし、今頃業者が来てキッチンも元通り治してくれてるはずです」
ちなみに家には暦が既に帰っていて、業者の人と応対してるはずだ。
「うぅ、私のささやかな幸福は知らないところで静かに終わっていたのね……」
時任先輩は肩をがっくり落として陰鬱なオーラを漂わせ始めた。頭にあるアホ毛も先輩の心情を表すかのように頭を垂れている。
なんだか先輩の周りだけ空気が重く感じる。
「あの、時任先輩そんなに落ち込まないでくださいよ。あ、明日のオカズは何がいいとかありますか?」
「……オカズ?」
「前に言ったじゃないですか? キッチンが治ったら今度は俺が先輩に弁当を作るって」
俺が出した提案を口にすると先輩の表情が一転、キラキラとした輝きを取り戻しアホ毛もピンと張り毛先は俺を指している。
ちょっと怖い。
「はい。キッチンも無事に復活するみたいですし、要望に答えられる範囲ならなんでも作りますよ」
「うーん、そうだな~」
先輩はかわいらしく顎に指を当て、思案する。
その顔は明日の遠足を楽しみにする子供みたいだ。
「ならサンドイッチが食べたいな」
「え、そんなのでいいんですか?」
「あら、サンドイッチだって立派な料理だよ。それに私が作ったものを、零樹くんにも作って欲しいもの」
そう言ってにっこりと微笑む先輩。確かに恩返しという形で俺流のサンドイッチを振る舞うのもいいかもしれない。
「わかりました。なら俺が腕によりをかけてサンドイッチを作ってきます」
「ウフフ、楽しみにしてるよ」
「あ、そうだ。先輩の弁当箱と箸を良ければ貸してくれませんか? あいにくウチには俺と暦のしかなくて」
「ええ、いいわよ。でもウチに持って帰ってイタズラとかしちゃダメだよ?」
「し、しませんよそんなこと!!」
「ごめんごめん。冗談だよ」
そう言って茶目っ気たっぷりに笑う先輩。俺は平静を装いながらも、ふぅと大きく溜め息をついて自分を落ちつかせる。
俺の要件はこれで全部片付いたので、二人で一緒に帰ることにした。
登校する時は暦と歩く道を、今(下校中)は先輩と歩いている。
……噂や騒ぎの種にならないよう努力はしているつもりだが、やはりこういう積み重ねが実を結んでしまうのだろうな。
「ねぇ、零樹くん」
先輩と俺が帰る時に別れる曲がり角に差し掛かり、お互いに軽い挨拶を済ませ背中合わせに歩き出す――はずだった。
「零樹くん」
いつも通りの展開を射ち破ったのは時任先輩だった。
名を呼ばれた俺は反射的に振り向く。
悠然の行動。
当然の行動。
必然の行動。
なのに俺は心の中で、振り向いてはいけないと強く叫んでいた。
時任先輩は笑顔。
けれど喜びも嬉しさも、悲しみでも何もない俺が初めてみる先輩の笑顔があった。
「零樹くんは――」
秒針が狂ってしまったような感覚。
時間の流れがひどく緩慢に感じ、周囲から聞こえる雑音がゆっくりと鼓膜を揺らす。
そんな空間の中であっても、時任先輩の声ははっきりと聞こえた。
「――本当のご両親に会いたい?」
俺は終わったはずなんだ。
終われたはずなんだ。
でも、気付けば目の前に、二つの『道』ができていた。
今回も読んでいただきありがとうございました
伝助です
ゴールデンウィークを期に暦と零樹くんの関係に変化が表れましたが、それは先輩とも起こりえる話し
今後もどうかよろしくお願いします。
伝助でした。さようなら~