零ノ五 俺-義妹=苺のないショートケーキ
間をあけてしまいましたが5話目を投稿です。それではどうぞ~
まぁ、気になるには気になったので、俺の本当の誕生日を聞いてみることにした。
「親父、元気?」
『ああ、こっちは特に異常も何もないぞ。ところでどうした? お前が電話をかけてくるなんて珍しいな。さては高校生になってようやく彼女ができたはいいが、暦が邪魔していちゃつけないとかそういう愚痴か?』
「違う。下手な勘繰りしないでくれ」
彼女ねぇ。
別に思春期真っ盛りな男子として異性には興味はあるが、彼女が欲しいとかはあまり思わない俺である。
昔から暦の世話ばかりしていて、それが当たり前になっていたから、恋人をつくる暇もなかった。
あれ、少しずつだけど外堀埋められてね?
『ならどうしたんだ? 小遣いアップならそれなりの交渉が必要になるが』
「そんなんじゃねぇって。なぁ、親父は俺の本当の(・・・)の誕生日知ってたりする?」
俺が問いかけた途端、見えない親父の顔が強ばったような気がした。
沈黙ってわかりやしいな。
『…………やっぱり知りたいのか?』
「知りたいっていうか、話題に上がったから興味がてら聞いてみただけ」
『そうか……。お前達兄妹に血が繋がりがないと言った時にそういった情報を教えなかったのはすまなかったと思っている』
「気にしなくていいよ。あと、聞いといてなんだけど、やっぱ話さなくていいや」
『どうしてだ?』
「なんか親父乗り気じゃなさそうだし、そっちが話すまで待つことにするよ。今すぐ答えが欲しいわけじゃないし」
『そうか。暦にもよろしく頼む』
「ああ、そっちもお袋に元気でって伝えておいてな」
それじゃあなと会話を終了させようとしたところで、親父が一言。
『零樹。俺も母さんもお前と暦のことを愛しているからな』
親父のその言葉で俺達の会話は終わった。
「愛してる、ねぇ」
俺はリビングのソファーにぐったりと全体重を預ける。
久々――でもない、つい最近も話した親父の言葉が脳内再生される。
「今さらそんなの必要ないのに」
俺、有里零樹はその昔、と言っても子供の頃は両親に愛されていなかった。
虐待されていたわけではない。
食事を用意されなかったわけでもない。
俺が親の言うことを聞かないワルガキだったというわけでもなく、両親も俺のことを憎んでいたわけでもない。
家にいてもまるで空気であるかのように、必要最低限の干渉しかされず、ただただ、愛されていなかった。
原因というほどの原因は、暦の存在だろう。
幼い頃から物わかりが早く、神童とまで言われもてはやされていた妹。
そのまぶしいばかりの光に、俺の存在はいつもかき消されていた。
俺も幼いながらに自分の立場を理解していて、いつからか俺は自己主張というものをしなくなった。
そういやいつだったけなー。両親が俺にも笑顔を向けてくれるようになったのは。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
暦は幼い頃、重い病にかかり入院生活を続けながら生死の淵をさ迷っていたことがある。
まあご存知の通り今では病気の面影もなくすっかり元気になったが。
余談になるが、暦はその時以来軽い微熱等に悩まされることはあっても、風邪という風邪をひかない健康的な体になった。
そんな暦が退院してから最初の誕生日。当然と言うべきか、暦を溺愛している両親は盛大に祝った。
俺の分のケーキもあったはあったのだが、贔屓目に見ても小さな物で、苺は一つしかなかった。きっと零樹ならこれで充分だろうと思ったからだろう。
ちなみに暦のケーキは俺のと比べなくても豪華とわかるほどのすごいものだった。なんでだかキラキラ輝いていたような覚えがする。
傍目に見てもすごい格差だがこれもいつものこと。
そう思って俺は部屋の隅でケーキにフォークを突き立てる。
その時何かが潰れた音が聞こえ、俺は反射的に音のした方を振り向いた。
俺の視線の先には壁にぶつけられてぐちゃぐちゃになったケーキの残骸があった。
両親が事態についていけずに困惑しているところを見ると、ケーキを台無しにした犯人は暦だろう。
その犯人最有力候補である暦は、うつむきながらも何かに耐えるかのように全身を振るわせている。耳をすませば嗚咽が聞こえ、頬から顎につたって雫が床に落ちる。
「こ、こよみ?」
動かない親に変わって、暦の傍で声をかける。黙ってたたずんでる相手に話しかけるのってものすごく勇気のいる行為だったのな。
何も返答がないので肩でも叩こうかと思ったがその瞬間、金切り声が聞こえたかと思うとテーブルやら家具やらをひっくり返し始めた。
こればかりは俺も両親も大慌てで暦を抑え、暴走を沈静化できた時にはうちのリビングはまるで嵐の通過後地を思わせる悲惨な状況になっていた。
また黙りこくってしまった暦に、今度は俺もかける言葉を探せないでいた。
それこそ暦はわがままを言うことはあっても、反抗心を見せることは少なかったしこうやって暴れたりすることも一度としてなかった。
そんな暦がこんなにも癇癪を起こし、怪獣と化して(比喩ではなく本当にそう見えた)暴れたなんてとてもではないが考えられなかった。
暦は絞り出すように声を途切れ途切れに発しながら、両親に訴えかけた。
何故私を特別視するのか
何故兄さんの扱いが悪いのか
何故私は天才だと言われもて囃されているのに、兄さんを誰も見ようとしないのか
何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故――
俺も両親も暦に何も言えずに、黙りこくるまであいつの口から吐かれる疑問を延々と聞いていた。
結論から言ってしまえば、この一件にショックを覚えた両親は俺にも『愛』を捧げるようになった。
仲良し四人家族の誕生である。
あって困る物ではないし、今更待遇を変えてきたことに不満があるわけでもないのだが――正直どうでもよかった。
暦のスポンジが水を吸い取るように同年代よりも急激な成長を見せるのに対し、俺はもう『終わって』いたのだ。
この世界において、様々な点での暦との違い。
それを自覚した瞬間に、幼いながらも俺は『終わった』のだ。
これが俺の評価なのだと、これが俺の役回りなのだと。
世界にとって、俺は暦の付属品でしかないのだと。
だから俺は変わらない。
両親との仲が円満になっても、
実は義妹だった天才に異様になつかれても、
俺の知らないところで部活の先輩の好感度が上がってても、
だからといって、俺という存在が変わるわけでは、ない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
過去を遡っているうちに、ソファーの上で寝ていたようだ。
俺は上体を起こしながら、背中を伸ばす。
やや不自然な状態で寝てたからか、体の節々に違和感が。日頃の運動不足も原因だろうか。
そこでふと、俺の高くはない鼻が異臭を察知。
イヤ~な予感を感じながら、台所を覗き込む。
そこにはフライパンというか台所そのものを真っ黒焦げというなんとも悲惨にな状態になっていた。
我が家の台所をめちゃくちゃにした張本人はまだかろうじて使えそうなオーブンを抱えてオロオロしていた。……本当にコイツは何やってんだ?
「おーい、大丈夫か? とりあえず何があった?」
大した怪我はないと思うが一応安否を確認しておく。
コイツは人を巻き込むくせに自分は傷一つおわないんだよな。
「うぅっ、ぐず、に、兄さ~ん……」
「大方予想は出来るが一応聞かせてもらう、何があった?」
「えーと、兄さんが寝てる間に美味しい料理創って好感度アップを計ろうとしたの」
「隠す気無いのは別にいいけど下心丸見えだなおい」
「今度はローストビーフにしようと、孤軍奮闘したんだけど……」
よくもまぁ、俺でもあんまり作らないような物を。
てか暦が変な気を起こさないように、俺が持ってるレシピや料理本は部屋で厳重に保管してあるんだがな。
……暦だって自分でそういう本買うよな。
「それからとりあえず下準備のため塩とこしょうを取り出して、」
うん、下準備は料理の基本だからな。
「…………そしたら、いつの間にかこんなことに」
「なんでだ!? どんな調味料使ったんだよ。せめて火を使い始めてからこの惨劇を作って欲しかったよ」
「え、火は使ったよ?」
「下準備に火を!? それはもはや調理だ!!」
こいつは部活で何を学んでんだ!?
「どうしよう、このままじゃ私達餓死しちゃうよ~」
「いや、餓死はしねーから」
とはいえ、キッチンが使えない以上、外食をしなければならない。
そうなってしまえば、無駄な出費が増えてしまう。
親からの仕送り頼りな俺らはなるべく経費削減しなければ。
というわけで外食や買い弁はなるべく控えたいのだが、さてどうしたものか……
「あ、そう言えばあてがあったな」
暦にキッチンの片付けを命じ、俺は頼りになるあの人に連絡を入れることにした。
余談。
自分一人で片付けると言った暦がドジッ娘属性をフルに発揮したせいで、キッチンは発見前よりも酷い状況になっていた。
え、その後どうしたかって?
俺が一人で夜遅くまで片付けましたよ(泣)
読んでいただきありがとうございました。
この話し零樹くんの大方な人物像がわかっていただけたら幸いです。
それでは失礼します。さようなら~